「クレジットカード」と「不動産」という二重のリスク
では、今のアメリカの景気は危険なバブルなのかというと、そこまでは行っていないようです。その一方で、弱点があるとしたら、やはりコロナ禍以来の加熱した部分だと思います。問題は2つあり、1つはクレジットカードの貸出残高で、どう考えても危険水域に入っています。
ですが、クレカに関しては各銀行共に、90年代から巨大な経験の蓄積があります。ですから、不良な貸出を判定する方法論も、またリスクのある債権を転売するノウハウも、またあえてリスクを取って債権を集めるなど非常に高度なことをやっています。そして、全体の金融の構造として、例えば2007年から08年のサブプライムローンのような、無理な貸出を重ねたり、債権を細切れにして悪どく転売したりという状態にはありません。
ですから、恐らくは全体が貸出過剰になって、金融システムが動揺する前に、個々人の破産が先に来る、つまり実体経済の景気後退があっても、金融システムは守られるのだと思われます。
もう1つのバブルは不動産です。ここへ来て、個人向けの住宅バブルはやや沈静化しています。高度専門職の夫婦が、テレワークを前提に郊外に「書斎の2つある物件」を買っていく勢いはかなり下がっています。ターゲットになる物件も、買える範囲で十分に上がり、購買力との均衡点に来ているようです。
一方で、問題は大都市のオフィスです。大都市のオフィスは複合的な要因が重なっており、一種のバブルのような状態になっています。その複合要因というのは、以下のような個別の問題です。列挙してみます。
例えば、サンフランシスコのように、治安が極端に崩壊した都市ではオフィス不動産の価格も崩壊しています。サンフランほどではないですが、シアトルのダウンタウンもかなり軟化しています。
NYの場合は、コロナ禍前後に乱開発が進みました。巨大なガラス張りの摩天楼を含めた大規模開発が、グラセン、ハドソンヤードなどどんどん竣工したことで、こうした新規物件は入居が進んでいます。
ただ、労働者との力関係で各企業はテレワーク「根絶」に失敗しています。ですから、オフィスの需要は爆発的には戻っていません。この間の新規物件竣工による増床分を、需要が埋めきってはいない状態です。
加えて、治安の回復もスローなため、オフィス空室率が高止まりとなっています。コロナ禍をまたいで増加しており、22年以降13.5%程度で停滞し、改善の兆候がありません。このため22年をピークに価格が下落しています。前述の2つのプロジェクトなど魅力的な新規物件はかなり入居があるようですが、古い物件の稼働は低迷しています。
更に、アメリカの場合は、これは全国的な傾向と思いますが、リアル店舗の衰退が非常に顕著です。サンフランシスコは極端な例ですが、ダウンタウンの大型店舗やモールは壊滅。ニューヨークの場合も、伝統的な百貨店やモールは全く不振ですし、オフィス入居で成功している巨大物件でも、低層階の小売は上手く行っていません。
ただ、とにかく都市の巨大開発にしても、需給がハッキリ出てしまっているので、ダメなプロジェクト、ダメな物件は可視化されています。また、特にリーマンショック以降は金融機関のリスクヘッジのノウハウが優れているので、仮に不動産市況が大きく崩れても、そのまま金融危機になる可能性は少なそうです。
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