暗殺されたカーク氏が人気を集めていた背景にある問題
では、アメリカ経済の一番の問題点は何かというと、これはやはり格差であり、特に現在進行形での「Z世代の就職難」ということになると思います。これは、新卒だけでなく、既に数年前に就職している層も、あるいはコロナ禍前にキャリアをスタートしている層も、同様に困難に直面しています。
シリコンバレーの大手が、基本的にリストラを嫌うアップルを除いて、各社ともに大規模なリストラを数度にわたって実施しています。そのターゲットですが、アメリカの場合は「働かない高齢で高給の人」というのは少ないので、基本的には「効率化により2人ではなく1人で回る部分では1名を削減」というような形で、下級職から順に切っているというケースが多く見られます。
ということは、30歳前後のグループというのが、非常に難しい立場に立たされています。24年の大統領選におけるZ世代の右傾化であるとか、今回暗殺されたチャーリー・カークへの人気といった政治的な現象の背景にはこの問題があります。また前述したような移民ビザの手数料アップというのも、こうした情勢をベースにしたものです。
では、このままZ世代の困窮が続き、彼らは現状不満から右傾化していくのかというと、これがまたそうとも言い切れないのです。好例が、先ほど不動産の状況を説明したニューヨークの場合です。
ニューヨークでは、1ヶ月半後の11月に市長選が迫っています。4名の候補が乱立していますが、その中で一歩リードしているのが、ゾーラン・マムダニ候補(民主)です。インドルーツのウガンダ系で、帰化してまだ7年、ウガンダとの二重国籍の33歳です。
そのマムダニ候補は、社会主義者を自称して、市バスの無料化、託児所の無償化、そして食品スーパーの公営化による卸値での販売などを公約しています。また中東情勢では、明確にパレスチナの側に立っているばかりか、本人がイスラム教徒でもあります。
一番大きな公約は、社会主義の考え方から「億万長者の存在は認めない」として、NY市内の富裕層には「懲罰的な課税」を示唆しています。これを受けて、NYの富裕層は、「マイアミに逃げたいが、右翼ばかりなのでイヤ」ということで「いっそ中立州でまだ話の分かりそうなオハイオに逃げよう」などという話が出ているほどです。
このマムダニ候補の旋風ですが、若者がルームシェアしつつキャリアのスタートに立っているケースの多い、マンハッタン区、ブルックリン区で圧倒的な強さを誇っています。AIにより職を奪われる恐怖、結局は富裕層だけが勝ち逃げる社会への強い反発が、彼を希望の星にしているわけです。
ですが、仮にマムダニ氏が当選して、NY市政を左にシフトした場合には、ただでさえ伸び悩んでいる不動産業界は大きな痛手を被ることになります。そんな中で、中道派の候補たちさえもが、トランプ政権に接近して「マムダニ当選の場合は、懲罰的な政策を」行うよう持ちかけて、市政を妨害するような取引をしている状況です。
これを受けて、大統領周辺では「社会主義の市長が誕生した場合には、連邦からの補助金を思い切りカットする」という脅しを始めています。これもまあ想定内といえば想定内なのですが、経済と政治の接点として、恐らくこの11月のNY市長選は、大きな分岐点になるかもしれません。
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