高市政権にとって全く他人事ではない「トラス・ショック」
まずトライアングルの1つの角は、今回勝利した「麻生=高市=維新」の路線です。この路線ですが、最優先事項としては国債の暴落阻止という1点に絞られると思います。現時点では、仮に「巨額の国家債務は、膨大な個人金融資産と相殺される」という神話が行きわたっています。つまり、日本の個人にはカネがあり、これが郵貯や銀行預金を通じて国債を引き受けている、だから国全体としての対外債務は少ないという考え方です。
あらゆる楽観論のベースにある「神話」ですが、恐らく麻生氏の周辺には相当な危機意識があると推察されます。その意識ですが、まずトランプ政権の独特の「アメリカ・ファースト」という経済観があります。通常、アメリカの保守政権というのは、「強いドル」を志向します。強いドルというのが、イコール強いアメリカという印象になるだけでなく、強いドルに引き寄せられて世界のカネがウォール街に集まるからでもあります。
ですが、トランプ政権は全く違います。グローバリズムに最適化した経済を推し進めて、空洞化を加速させてきたクリントン=ブッシュ=オバマ路線ではなく、製造業の国内回帰を目指す中では、為替政策として「ドル安」を明確に志向しています。現時点では、各国との金利差が為替変動要因として大きな要素となっていますが、そんな中でトランプ政権はFRB(連銀)に圧力をかけて「利下げ」から「ドル安」を引き出そうと躍起になっています。
その一方で、日本の当面の国益は穏やかな円安です。金利を抑えて円安とする、そうでないと巨大な国債残高への利払いで国家財政は即死の危険があります。また、円安のために企業業績は膨張して見えるし、インバウンド観光などの産業も成立するということもあります。勿論、過度の円安は輸入品の高騰を招き、特にエネルギー、資材、食糧の高騰は国民生活を直撃します。
ですが、これに対する物価対策を含めて、とにかく支出は切り詰めて財政規律を守る姿勢を示して、急激な国債高騰や金利アップを避ける、これが麻生路線だと思います。大事なのは、穏やかな円安です。仮に、円安が目立つようになれば、トランプ政権の介入を招き、投機筋は一瞬にして超円高へ向けて走る危険があるからです。
ここで意識されていると思われるのが、2022年に英国で発生した「トラス・ショック」です。ちょうど3年前の出来事ですが、麻生氏などからは「全く他人事ではない」事件だと思われていると思います。リズ・トラス氏は、保守党の有力な政治家で、ジョンソン政権崩壊を受けて9月6日に組閣しました。
トラス内閣の短い期間中に、エリザベス2世の崩御という大事件がありましたが、それ以上に大きな事件であったのが「トラス・ショック」です。簡単に言えば、自国通貨の下落による「エネルギー高からの生活苦」を解決するために、「大減税とエネルギー価格の抑制」を急激に発動しようとしたのです。
問題はその財源が明示されていないことでした。そこで国際通貨市場はポンドへの信認を失い、「ポンド下落、英国債暴落、金利高、株安」が一気に押し寄せました。その結果として、就任40日後に支持率は「7%」まで暴落して、10月20日にはトラス首相は辞任表明へと追い込まれたのでした。在任期間は英国史上で最短の49日でした。
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