高市首相が「習近平の様子見」期間に犯した大失態。「中国に言うべきことを言った」を評価する日本人のお目出度い脳ミソ

 

台湾代表とも会談し中国側を激怒させた高市首相

尖閣や日本人拘束、レアアース規制がテーマであれば「率直に言う」のは当たり前で、それを褒める意味も不明だ。むしろ机を叩いても良いくらいで、それは中国側も理解する(当然反論はするが)だろう。

だが香港やウイグル、南シナ海問題となれば話は違ってくる。中国の目には完全に内政干渉で、日中共同声明に記された約束を日本が公然と反故にしたと映るからだ。

もちろん日本に力があれば中国が怒っても無視すればよかったのだが、いまの力関係は客観的に見て、そうではない。

それ以前の問題として理解し難いのは、高市外交が何を目指しているのか、だ。「率直に言う」ことなど、後先考えなければ誰にでもできる。その場で取って食われるわけでなく、安全圏から強気を装うだけの話だ。

問題は、そのしわ寄せがどこかに行くかである。高市はAPECに来ていた台湾代表とも会談し、中国側を怒らせた。高市個人はそれで面子が立つのだろうが、日本としての国益はどうだろうか。

今後もし中国が高市政権を見限れば、次には何が起こるのだろうか。過去の事例から推測すれば、まず首脳会談が開催できなくなるはずだ。

中国市場では、欧米や韓国などと競争する日本企業への影響が及ぶだろう。日本へ利益を持ち帰ろうと奮闘している企業は後ろから弾を撃たれるはめになる。

中国がもし本気でレアアースを規制し日本に圧力をかけてきたらどうするのか。トランプ政権ですら慌てたのだから日本が困るのは必至だ。首脳会談もできなければ、問題解決の糸口さえ見つからないだろう。

いま中国の自動車市場は世界一で、アメリカ市場の約2倍だ。そこから日本企業が追い出されることになっても「率直に」言えて良かったと日本人は思うだろうか。

翻っていまもし欧州全体にレアアースの問題が持ち上がっても、メローニが訪中すれば問題は解決へと向かうだろう。

これが外交のできる首相とそうでない首相の差だといえば分かりやすいだろうか。

ちなみに日中首脳会談を詳報した中国メディアは当然のこと高市が「率直に」語った内容などは無視して、その多くを中国側が「釘をさす」内容に費した。

問題は中国メディアの報道で高市が「台湾問題に関して、日本は1972年の日中共同声明の立場を堅持する」と発言したと紹介されたことだ。

繰り返しなるが、高市はその直後に台湾のAPEC代表と会談した。日本にあふれる「『理解し尊重する』は、『認めた』とは違う」という論理が本気で通用すると思っているのなら、それはちょっとお目出度い脳みそだといわざるを得ない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年11月2日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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