日本政治をますます訳の分からぬ所へ引き摺り込んでいく自維
自維連立合意で「小選挙区比例代表並立制の廃止や中選挙区制の導入なども含め検討する」というのが唐突に出てくるもの極めて怪しい。
いや、現行の小選挙区比例代表並立制には問題が多々あり、以前の中選挙区制に戻した方がいいのではないかという議論は以前から行われているけれども、政党間の公式合意にこのように(断定的ではないにせよ)いかにもその方向に行きたい気分が満々な表現で盛り込まれたのは初めてのことで、自民党内では果たしてそのような議論が煮詰まっているのかどうか。
本誌が機会あるごとに述べてきたように、私はこの「中選挙区制」復活論には一貫して反対で、むしろ、日本国民は1993年「政治国会」の成果であり細川護熙「政治改革」政権の最大の遺産である現行の小選挙区比例代表並立制を、まだ十分に使いこなすに至っていない――どうしたらほぼ同じ時期に同じような制度を導入したイタリアのように、保守・右翼とリベラル・左翼との、ほとんど選挙ごとの政権交代を実現することができるのか――という視点から議論を深めるべきだと主張してきた。
いや、もしかして結論として中選挙区制に戻した方がいいということになるのかもしれないけれども、それにはまず現行制度をどこまで使いこなしてきたのかの総括を徹底的に行うことが必要で、それを抜きに、ただ単に制度を変えれば政治が良くなるかの安易な態度で別の制度に飛び移ろうとするのは正しくない。
問題は多岐に渡るが、一点だけ。イタリアの場合は、日本の今以上にバラバラの多党化状況の中で、保守側もリベラル側も最初から複数の政党による連立しかあり得ず、そのためもあって連立は当面の焦眉の課題のいくつかを次の数年間の政権期間に必ず実現することを有権者に約束して成立するものであって、玉木雄一郎がよく言うように「基本政策で一致できないと連立は組めない」などと幼稚なことをほざいている政治はイタリアには存在しない。
こうして、本筋の「政治とカネ」の問題を「そんなこと」と言って棚に上げてしまうための偽装として「議員定数1割減」論があり、さらにそれを何となく意味ある“改革”に見せかけるために、定数減だけでなくそのついでに中選挙区復活論も絡めた議論に持ち込もうという混濁がある。
国民不在の密室での駆け引きだけで出来上がった自維連立合意が日本の政治をますます訳の分からぬ所へ引き摺り込んでいくのである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年12月8日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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