中韓ロや北朝鮮からも大きな反発を受けなかった中川発言
この中川(+麻生)発言ですが、当時の政治的環境の中には、若い世代を含めた広範な右派ポピュリズムというのは顕著ではありませんでした。右派的なイデオロギーはむしろ戦前世代や、保守化しつつあった団塊など「上の世代」に偏在していたのです。中川発言は、そうした国内の右派世論の反応をチェックするという意味合いもあったし、そこに自分の存在感をアピールする目的もあったのでしょう。
一方で、対外的には、結果的に、技術+経済大国の日本が核武装することへの「懸念」という形でアメリカのリアクションを呼んでしまったわけです。ですが、これはライス訪日、中川訪米というプロセスを経て沈静化しました。結果的に、中川発言の効果としてはアメリカとして、「北朝鮮の核武装」への懸念を強めることとなった、そのような評価が可能です。
そんな中、この時期の外交はどういうわけかスピード感があり、10月20日には北朝鮮を訪問してきた唐家璇国務委員とライス長官の会談があり、その中で「核実験について金正日が謝罪」したという話になって行きます。ちなみに、この時期は「北朝鮮の核問題に対応する六者会合」が機能している時代であり、北朝鮮が核実験をしたとされる10月9日からの2週間に事態が急速に進展したのでした。
最後はライス国務長官は、中国へ行って胡錦濤+温家宝と会談、更にはロシアでプーチンとも会談するという具合に精力的に動き、12月には北京で実際の六者会合が行われるところまで持って行ったのでした。改めて、日本における核武装論議という文脈から、この2006年の状況を考えると次のような指摘が可能です。
「アメリカのリアクションは大きく、結果的に核武装に関する論議の封印解除は不適切ということに事実上はなった」
「中川(+麻生)発言に反応したのは、アメリカが主であり、中国、韓国、ロシアはもとより北朝鮮からも大きな反発はなかった」
この2点です。特に後者が大事であって、これは日本の非核三原則や専守防衛が信じられていたというよりも、日米安保の問題だと思います。日米安保という「瓶の蓋」が強く絞められているということに、中国、韓国、ロシア、北朝鮮の各国からみて、何の疑いもない時代であったということです。
その一方で、どうして核武装はもとより、核武装論議もダメなのかという点については、この2006年の時点では本質的な議論には進んでいません。そうではあるのですが、結果的に、核武装論議のタブー感は強まる一方で、中川氏、麻生氏の両名は「保守派」とみなされて、その方面からの支持を固めることにはなりました。また、中川氏ばかりがターゲットになる傾向もあり、麻生氏のダメージは最低限にとどまったという指摘もできます。
これに対して、今回の2025年12月の状況については、かなり様子が違うのを感じます。まず、巷間噂されているように発言の主が長島昭久氏だというのが本当だとすると、民主党系から希望の党経由で自民に移ってきた中で、現在は東京多摩地区で立憲と激しく争う選挙を重ねている人です。ですから、表面的には保守票を固めたいという動機が見えます。
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