「中身はともかく戦争を止めることが先決」という問題姿勢
ガザについては、合意の第2段階の実施に向けた非常に困難なやり取りが続けられていますが、イスラエルによるジェノサイドともいえる蛮行を一時的に止めることには貢献していると考えます。
ただ、以前にもお話ししましたが、紛争調停に係る軸、言いかえると【具体的に何を目指すのか?】、【そのためにはどのような条件が必要か?】、【誰がいつまでに何をしなくてはならないのか?】といったビジョンがなく、同じ内容を目の前にしても、それぞれが全く違った解釈をするという危険な現実も浮き彫りになってきています。
それゆえに、一度、停戦に漕ぎつけたタイとカンボジアの国境紛争は再燃して今、解決の糸口が見えづらい状況に陥っていますし、イスラエルの暴走を止めることが出来ていないことに端を発する“停戦合意の破棄と違反”が相次ぎ、ガザを巡る解決の糸口は全く見えない状況です。
外交・安全保障政策に“軸”がないことに加え、トランプ政権誕生前まで仲介の労を取ってきた国々の働きを軽視し、自らが表舞台に出て、状況をかき回している様は、アラブ諸国(特にカタールとエジプト)やトルコ、マレーシアをはじめとする数々のASEAN諸国を苛立たせていますし、同盟国たる欧州各国の役割と存在を軽視することで、ロシア・ウクライナ戦争の解決に向けてStand by Ukraineで一枚岩のサポートを見せなくてはならないところで要らぬ亀裂を生み、その亀裂が欧州からの対米不信感(対トランプ不信感)の拡大という“望まざる状況”を作り出していることも、実際の紛争の調停と解決のための努力を空回りさせ、その穴を中国や百戦錬磨のプーチン大統領に上手に突かれてしまい、就任当初よりも混乱極まる国際情勢を生んでしまっているように見えます(実際に紛争調停の任に就いているものとして、そのように痛切に感じます)。
皮肉な言い方になってしまうかもしれませんが、トランプ政権の外交・安全保障政策に共通の軸が存在するとしたら、それは【中身はともかく、戦争を止めることが先決】という姿勢で、非常に目立ち、メディアうけが良いと考えられる停戦合意の調印にはこだわる姿勢を一貫して示す半面、合意の履行についての詳細や紛争解決後の復興プランなどの詳細についてはとことん先送りし、合意の履行を支えるはずの“アメリカのコミットメントの内容や有無”については曖昧な姿勢を貫くという共通項は存在します。
この“アメリカ(仲介国)が合意の履行を保証する”という不可欠な要素が存在しないか曖昧なままであることで、合意の実現性に対する信頼度が落ち、【合意履行に際して問題が発生した時には必ず米国が再度介入して問題解決の音頭を取る】という約束の不在により、当事国が再度、お互いのsaving facesのために紛争に突入するという悪循環を生んでいると感じています(タイとカンボジアの国境紛争の再燃がまさにこのケースです)。
【合意の履行のバックアップと紛争再発時の解決へのコミット】という点で意外にうまくやっているのが中国の仲介・調停の役割です。
バイデン政権時のアメリカ政府を震撼させたサウジアラビア王国とイランとの間の和解と外交正常化の仲介や、ハマスも含めたパレスチナ14団体間の和解と協力を定めた北京宣言を成立させ、united Palestineの構築を後押しした事例がそれにあたりますが、これらはどちらも継続・深化しており、合意の実施を経済的なスキームを駆使して支え、戦略的パートナーシップという形で保証するという仕組みが出来上がっています。
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