プーチンに弄ばれ、習近平に差を広げられ、ネタニヤフから顔に泥を塗られた“口だけトランプ”。裸の王様が退潮させた米国の存在感と影響力

 

中身なき停戦合意の弊害が顕著となったタイとカンボジアの紛争

それにトランプ大統領も気づいているはずですが、とはいえ、プーチン大統領の仮定通り“ウクライナの今後”にはあまり関心がないことは図星だと思われることから、ロシア寄りの条件を合意案に散りばめて、ウクライナに受け入れを迫り、欧州には「口出しをするならコストも負担せよ」と迫って、年内の幕引きを狙っているようですが、恐らくロシア・ウクライナ戦争は5年目を迎えることになりそうです(この読みが当たるかどうかは、このメルマガが皆さんの手元に届くころに、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に突き付けたクリスマス合意の要求がどうなっているか次第です)。

12月24日にゼレンスキー大統領は20項目からなる停戦合意案を公表していますが、まだウクライナ東南部4州の帰属問題を含む領土問題や、「ウクライナに対する安全の保証」の具体的な内容が棚上げになっていることから、早期の決着はかなり困難かと考えます。

しかし、領土問題については、アメリカが提案していた「東南部4州を自由経済圏として設定し、ロシア・ウクライナ双方が自由に経済活動を実施する」というアイデアには前向きな姿勢を示すことで、ウクライナ側からの歩み寄りをアピールしており、それにどうアメリカ政府が反応するか、そしてロシアがどう反応するのかが決め手かと思いますが、果たしてどうでしょうか?

ただ、これまでにいろいろと耳に入ってきている内容に鑑みると、かなり合意は困難な気がします。

中身のない停戦合意(詳細は先送り)の弊害が今、顕著に表れているのがタイとカンボジアの国境紛争です。

トランプ大統領がASEAN首脳会議と併せてマレーシア入りするのに合わせて(でも、実際にはトランプ大統領は首脳会議には出席せず、東京に向かったような記憶が)、急ピッチで準備を進め、何とかアンワル首相(マレーシア)隣席の下、タイとカンボジアの首脳をひな壇に座らせ、トランプ大統領が仲介する形で停戦が成立したというお膳立てがされましたが、停戦合意の実施についての諸条件を含む詳細はほぼ中身がなく、かつこの合意内容の履行をバックアップ(保証)するための仲介国アメリカのコミットメントの有無そして内容についての合意もなく、すべて「詳しくは後日」というアレンジになったことから、その後起きた偶発的な衝突(カンボジアが国境地帯に敷設していた地雷でタイの兵士が負傷した事件や、散発的な武力衝突の発生など)を機に、両国間の衝突はエスカレーション傾向にあり、タイの世論調査でも「カンボジアとの戦争もやむを得ないと考え、もう後には退けない」という声が多かったことから、戦争の拡大への懸念が両国内で高まっています。

今のところ、マレーシアのアンワル首相が急ぎ仲介に乗り出して、何とか外務大臣級の協議の場を設けるに至りましたが、その際、アメリカ政府やトランプ大統領に関する内容の言及はなかったことで、いろいろな憶測を呼ぶ事態になっています。

恐らくアメリカは望まざる客と認定されているのだと推測しますが、同時にここに中国の影が存在するのでないかと考えます。

ASEAN首脳会議時の急ごしらえの仲介と和平合意の設えでは、地域における中国の影響力への対抗という目的もあったのか、中国はプロセスから排除されていましたが、地域の国々からは強い抵抗があるものの、やはり地域の安定には中国のある程度のコミットメントは不可欠と考えたのか、または、状況の悪化を見かねて、アメリカを押しのける形で中国が、マレーシアを通じて、影響力を行使しようとしているのかは分かりませんが、ここ数日のタイとカンボジア間でのやり取りの様子を見ていると、確実に中国が何らかの形で絡んでいると思われます。

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