これは「AI版オイルショック」だ。米商務省によるアンソロピック最新Claude“提供停止”規制が「AI競争」を加速させる皮肉

 

1970年代オイルショックとの相似

今回の出来事は、1970年代のオイルショックと似ています。当時、多くの国々は、中東の原油に依存する危険性を痛感し、北海油田、原子力、省エネ技術などへの投資を加速させました。直近でも、イラン戦争によるホルムズ海峡封鎖などの問題が発生し、あらためて中東依存からの脱却に向けて調達先を分散する動きが世界的に加速していますが、今回のアンソロピックへの規制は、そのAI版と言えるかもしれません。

米国は、フロンティアAIの流出を防ごうとしていますが、その結果、世界各国に、「自国でAIを持たなければならない」という強い危機感を喚起したのです。つまり、米国の規制は、米国製AIの拡散を抑制する一方で、逆に世界規模のAI開発競争や半導体開発競争を促す引き金になった、ということです。

日本は使う側にとどまるのか

もちろん、日本も例外ではありません。現在、多くの日本企業や自治体は、オープンAI、アンソロピック、グーグルなど、米国企業のAIサービスに依存しています。これらに匹敵する国産のソリューションが存在しない以上、他の選択肢は無いに等しい状態ですし、世界最高水準の技術を活用しない手はありません。

しかし、日本にも改めて突き付けられたのは、「私たちはAIを使う側にとどまり続けていてよいのか」という問いです。AIが重要な社会インフラになるのであれば、日本もまた、自国の安全保障、産業、行政、医療、防災、教育を支えるためのAI基盤をどう確保するのかを真剣に考えねばなりません。AI時代の主権とは、単に国産LLMを作ることだけではありません。データ、計算資源、半導体調達、人材確保、制度設計、利用ルール、現場実装まで含めて、自国の社会課題を自ら解決できるAI活用基盤を整備する実力を養うということです。

アンソロピックへの規制は、単なる一企業を巡るニュースではありません。その本質は、AIをめぐる世界秩序の転換です。これからの時代、問われるのは、「どのAIを使うか」だけではありません。「誰のAIに依存して生きるのか」、さらには、「自分たちの社会を、自分たちのAIで支えられるのか」ということです。すなわち、「ソブリンAI」を巡る、避けては通れない深刻な問いが目の前に突き付けられていると言えます。

※ 本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年6月26日号の一部抜粋です。このほか、「今週のXから」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”しかのつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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