「チャイナ・イニシアチブ」の教訓
他国のケース、中でもバイデン政権下のアメリカで展開された中国スパイ摘発キャンペーン、「チャイナ・イニシアチブ」を例にとっても、簡単に成果に結びつくとは考えにくい。
鳴り物入りでスタートし、学術界を中心に徹底的な洗い出しを行った「チャイナ・イニシアチブ」の3年間で、結局、スパイとして逮捕され起訴された中国人などほとんどなかった。そして同キャンペーンは何の成果もなく静かに幕を閉じたのである。
日本も同じ轍を踏む可能性は高いのだが、その場合、新設された組織の存在意義が問われることは避けられない。厳しい目が国民から向けられれば批判の矛先をかわすためにも、日本人へと摘発のベクトルが向くことは十分考えられる展開だからだ。
それにしてもこうした組織は本来、静かに動いてこそ効果があるものだと思うのだが、よりによって7月31日にスタートして、中国側を刺激する意味があったのか。
「7・31」が呼び起こす731部隊
「7・31」という数字で中国人がすぐに連想するのは、過去の日本軍が中国東北部で人体実験を行った「731部隊」だ。
捕らえてきた中国人を「丸太」と呼び、細菌の効果を試したり、凍傷になる過程を観察した、恥ずべき事件だ。
かつての日本の一部では、これを「ソ連の捏造」とフェイク扱いした時期もあったが、いまでは評価は定まっている。騒ぎとなれば日本側にダメージが及ぶことは想像できたはずだ。
それを知った上で7月31日に組織を立ち上げたのだろうか。
もっとも中国側の反応はいまのところ外交部の発信とそれを受けたメディアの批判にとどまっている。
ただ気になるのは、外交部の会見の中で日本の過去の問題、中でも「遺棄化学兵器」に言及され始めたことだ。
遺棄化学兵器問題とは第二次世界大戦中に旧日本軍が開発・所持していた化学兵器を、敗戦時に現地に遺棄して逃げてしまった戦後処理の問題だ。
化学兵器の使用はジュネーブ議定書に違反する行為だ。処理せず遺棄された兵器が戦後経年劣化する過程で、中から毒ガスが漏れ出し、現地の農民など多くの一般市民が犠牲になったのだから深刻である。
人体実験もそうだが、この問題も言い訳の余地のない残酷で無責任な行為だ。もし逆の立場なら日本人はどれほど激しく中国を批判するだろうか。自分の身近な人が、侵略してきた軍が残していった化学兵器の被害に遭ったとしたら。
この問題が再び日中関係の話題の中心に置かれることになれば、日本のイメージは大きく傷つくことは不可避だ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年8月2日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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