習近平とプーチンに「今なら動ける」と判断される危険。トランプ米国の兵器在庫減少が揺るがす“抑止”のメカニズム

 

■日本の目と鼻の先にまで及んだ「露朝連携」の影響

背景には、ロシア自身のミサイル戦力の目減りがあります。ウクライナ軍の防空の穴を突くため、ロシアは弾道ミサイルでの攻撃にシフトする傾向を強めています。

ウクライナ側では米国製の防空システム「パトリオット」の迎撃ミサイルが不足しており、8月5日未明のキーウとその周辺への攻撃では17名が死亡しました。

ウクライナ軍の発表によれば、ロシアは7月に前月の2倍にあたる376発のミサイルを撃ち込み、これはISWの分析で2022年の侵攻開始以降で最多だといいます。うちイスカンデルなど弾道ミサイルはおよそ120発に達しました。

ロシア国内での弾道ミサイル生産数は月100発から120発程度とみられていますが、ウクライナの軍事サイト「ミリタルヌイ」によれば、ロシアは生産数を上回るペースでミサイルを使い切っているそうです。

つまりロシアは、自国の生産だけでは戦争を支えきれなくなり、北朝鮮という外部の在庫に手を伸ばさざるを得なくなったのです。

ミサイル供与の見返りとして北朝鮮は現代戦の実地経験を積み、さらにロシアから核弾頭の小型化や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の大気圏再突入技術の提供を受けている可能性が指摘されており、それが事実であれば、この取引は双方にとって割に合うものになっているようです。

ここで一つ確認しておきたいのは、この協力関係が北朝鮮側にとって決して一方的な負担ではないという点です。

戦場における実戦データというものは、どれだけ演習を重ねても得られない、極めて貴重な資産です。共同通信が今年6月にウクライナ情報当局関係者の話として伝えたところによると、2024年には少なくとも1キロあった北朝鮮製ミサイルの着弾誤差が、今年4月には1メートルから5メートルまで縮小したといいます。

もし北朝鮮のミサイル部隊が実際の作戦に参加すれば、その精度向上はさらに加速するでしょう。この技術的な進歩は、朝鮮半島だけでなく、日本を含む周辺地域全体の安全保障環境に、長期的な影響を及ぼすことになるはずです。

そして今週、この露朝連携は実際に日本の目と鼻の先にまで及びました。8月12日午前6時ごろ、北朝鮮は弾道ミサイルの可能性のあるものを東方向に発射しました。防衛省によると最高高度はおよそ90キロ、飛距離はおよそ690キロで、日本の排他的経済水域(EEZ)の外の日本海に落下したとみられ、これまでのところ被害情報は確認されていません。

小泉防衛大臣は北朝鮮に厳重に抗議し、高市総理は関係各所に万全の態勢を指示しました。同じ12日には、日本を含む40か国以上が、弾道ミサイルなどの発射実験を行う際の事前通知を求める共同声明を発出しています。露朝の軍事協力が深まるほど、こうした予測不能な一発への国際社会の警戒は高まらざるを得ません。

紛争調停の現場で私がいつも痛感するのは、持てる者が持たざる者を支える構図は、必ず持てる者の側にも見返りを求める力学を生むということです。

ロシアが北朝鮮に技術を渡すのは単なる慈善ではありません。

ちなみに歴史を振り返れば、北朝鮮が他国の戦争に部隊を送り込んだのは、1950年代の朝鮮戦争以来のことだといわれています。当時、北朝鮮は中国やソ連からの支援を受ける側でしたが、今回は逆に、自国の兵士と技術を差し出す側に回っているわけです。この立場の逆転は、北朝鮮という国が国際社会からどう扱われるかを大きく左右するでしょう。孤立していた国が頼られる国に変わるとき、そこには新たな発言力が生まれます。

そしてこの北東アジアでの一件とほぼ時を同じくして、当のアメリカ自身が、抑止力の土台を静かに失いつつあることを示す報道が相次ぎました。ロシアが北朝鮮に頼らざるを得ないのと同じ構図が、実はアメリカにも起きているのです。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • 習近平とプーチンに「今なら動ける」と判断される危険。トランプ米国の兵器在庫減少が揺るがす“抑止”のメカニズム
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け