【4.フーシー派の攻勢とイエメンの飽和】
中東ではもう一つ、緊張の火種がくすぶっています。
8月9日、イエメンの親イラン武装勢力フーシー派が、サウジアラビア南部ジザンにある国有石油会社サウジアラムコの製油所を、無人機によるドローン攻撃で狙いました。サウジアラビアのエネルギー省によると同製油所では火災が発生しましたが、すぐに鎮火し、負傷者は出ていないとのことです。
ただサウジアラビア国内ではフーシー派への報復を求める声とあわせて、背後にいるイランへの報復論も高まっているようです。
フーシー派は「これはサウジアラビアによる攻撃への報復だ」と主張しています。実は7月下旬にも同じジザンの製油所で火災があり、これもフーシー派が犯行を認めていました。トルコのアナトリア通信などは同日、サウジアラビア東部のガス施設でも火災が発生したと報じていますが、こちらはフーシー派によるものかどうか不明で、同派からの声明も出ていません。
興味深いのは、双方が攻撃のたびに、これは報復であるという理屈を持ち出している点です。フーシー派もイエメン暫定政権も、自らの攻撃を先制ではなく応戦だと位置づけています。
しかしこの報復の連鎖は、どちらが最初に手を出したのかを問うこと自体を無意味にしてしまいます。互いが互いを先に手を出した側だと主張し合う限り、どちらも一方的に矛を収めるわけにはいかなくなるからです。停戦の合意文書を結ぶことよりも、この報復の応酬をどこかで一方的にでも止める勇気を持てるかどうかが、実際の停戦の持続性を左右します。
サウジアラビアとイエメンの暫定政権、そしてフーシー派の攻撃の応酬は、連日のように続いています。サウジアラビアが支援するイエメン暫定政権軍は8月8日、フーシー派を標的にした攻撃を実施しましたが、これは8月6日のフーシー派による攻撃への報復とされています。
少し遡ると、イエメン暫定政権は7月中旬、イラン機の着陸を阻止するためフーシー派が実効支配する首都サヌアの空港を攻撃しました。これに反発したフーシー派は紅海の海上封鎖を宣言し、サウジアラビアのタンカーへの攻撃を続けてきた経緯があります。
そして8月7日のフーシー派による攻撃では、サウジアラビア支援のイエメン暫定政権軍の兵士58人が死亡したと報じられました。2022年の停戦以降で最悪の被害規模とされ、戦闘が新たな段階に入りつつあることを物語っています。
このまま緊張が高まれば、アメリカとイランの協議にも大きな影響が及びかねませんし、ホルムズ海峡の緊張をさらに高める引き金にもなりかねません。
イエメンというもう一つの戦場が、ホルムズ海峡をめぐる駆け引きの裏側で静かにエスカレートしている点は、見落とされがちですが注意が必要です。
紛争調停の世界では、当事者が二つ以上の戦線を同時に抱えると、それぞれの戦線での譲歩が難しくなる傾向があります。妥協した瞬間に弱腰と受け取られ、もう一方の戦線での立場が危うくなるからです。イエメンでの消耗が、ホルムズ海峡交渉でのイランの強硬姿勢をむしろ後押ししている可能性は、十分に考えられるでしょう。
イエメンでは2015年以降、フーシー派とサウジアラビア主導の連合軍との間で内戦が続いてきました。2022年の停戦によって表向きは戦闘が収まったかに見えていましたが、今回の兵士58人という犠牲者数は、この停戦がいかに脆いものだったかを浮き彫りにしています。
停戦とは、対立そのものを解決した状態ではなく、あくまで暴力を一時的に凍結した状態にすぎません。凍結が解ける瞬間は、当事者の力関係が変化したときにやってきます。イランとアメリカの対立という上位の構造が揺れ動けば、その振動はイエメンという末端の戦場にまで確実に伝わってしまうのです――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年8月14日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)
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