【3.ホルムズ海峡─「開放」という名の消耗戦】
次に、世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の動きです。
8月5日、イラン政府(外務省バガイ報道官)はオマーンとの間で、海峡に新たな航路を設けることで合意したと発表しました。イラン寄りの北側航路から船舶が入り、オマーン側の南航路を出口にする構想で、これは米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道内容とも一致しています。
バガイ報道官によれば、オマーンとの共同声明は最終段階にあるとのことですが、実質的にはイランが管理権を維持する内容であり、アメリカがこれを受け入れるかどうかは予断を許しません。船舶への通航料自体は求めない一方、イランが警備や捜索、救助作業などの費用を徴収する可能性も伝えられています。
イランメディアによると、外務次官のガリババディ氏はこの新航路について、まずは2から4か月ほど運用する暫定措置だと認識していると述べています。船舶は出入り口ともイラン領海を通る計画であり、オマーンと合意したからといって、すぐに海峡が全面開放されるわけではないという慎重な見方が示されました。
8月7日には、イラン側が米国やイスラエルに関係する船舶の通航を禁止する案を検討しているとの報道もあり、オマーンとの協議が最終盤に入る中での対米けん制という見方が出ています。
この背景には、オマーンという国が果たしてきた独特の役割があります。
オマーンはホルムズ海峡の南岸に位置するムサンダム半島を領有しており、海峡の通航問題における主要な当事国の一つです。同時に、湾岸協力会議(GCC)の加盟国として西側諸国とも確固たる関係を築きながら、これまでイランやイエメンをめぐる周辺国と西側諸国との外交問題を、水面下で調停・仲介する役割を担ってきました。
今回もオマーン外務省は「前向きかつ建設的な雰囲気」の中で交渉が進んでいると述べ、進展を危うくしかねないいかなる行動も控えるよう関係国に求めています。表舞台に立つことを好まないオマーン流の仲介術が、今回もこの難しい交渉を静かに下支えしているのです。
これに対してアメリカ軍は、イランのエネルギー貿易の収入源を断つため、イラン港湾に出入りする船舶の封鎖措置を再開したといいます。イランは今後、この封鎖措置の解除をホルムズ海峡開放の条件にする可能性があり、実際にイラン側は米軍による海上封鎖の解除が米イラン間の協議再開の条件だと主張しているとの情報もあります。
「海上封鎖の解除が先か、海峡の開放が先か」
この、どちらが先に動くかという順序をめぐる駆け引きは、交渉の現場で最も時間を要する局面の一つです。
先に動いた側が譲歩したと受け取られてしまうため、双方とも最初の一歩を相手に譲らせようとします。今回のホルムズ海峡をめぐる攻防も、まさに先に動いたら負けという心理戦の様相を呈しています。
11月の中間選挙前にイランとの戦闘を早期に決着させたいトランプ大統領にとって、海峡問題がクリアできなければ、この火種はくすぶり続け、思惑どおりに紛争から足を抜けない可能性が高いといえるでしょう。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、8月9日、ホワイトハウス関係者の話として、トランプ大統領は数週間前から、ホルムズ海峡が完全に開放されれば一方的に勝利宣言を行い、イランの核問題に関する合意を結ばないまま幕引きを図る考えを側近に示していたといいます。
核問題の解決はこれまでアメリカ側が最大の懸念と位置付け、イランの核兵器開発阻止を攻撃の正当化の根拠にしてきました。もし核問題を棚上げすれば大幅な譲歩となりますが、トランプ大統領は、もちろん公にはそれを認めないでしょうが、自身の任期中にイランが核兵器開発を進めることは不可能だとの認識を示しているようです。
この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ









