【2.ミサイル枯渇というアメリカの真実】
ここまで見てきた露朝接近の背後で、アメリカ自身が抱える深刻な問題も浮き彫りになっています。
米軍はイランとの軍事衝突によって、長距離の高精度ミサイルなどが枯渇する危機に直面しています。主力の防空ミサイルは開戦前の3分の1になったとの試算もあり、トランプ大統領も一部の不足を認めざるを得ない状況です。
8月6日にはホワイトハウスで「在庫が逼迫しているものもある」と語り、巡航ミサイル「トマホーク」などの増産を急ピッチで進めていると強調しました。
特に深刻なのが防空ミサイル「パトリオット」の枯渇です。CSIS(戦略国際問題研究所)は2026年4月、軍事衝突前に2,230発あった在庫が半分以下の1,030発程度になったと推計していましたが、これが7月27日時点では759から827発まで減ったと予測されています。THAAD(高高度防衛ミサイル)も、衝突前の452発から234から278発程度まで落ち込んだとみられています。
さらに攻撃用ミサイルの枯渇も深刻で、ロイター通信によると、トマホークミサイルの在庫は半減し、精密攻撃が可能な地対地ミサイルのATACMSやPrSMも大半を消耗したといいます。
米紙ニューヨーク・タイムズは8月8日、国防総省関係者の話として、イランとの戦争でパトリオットミサイルを1,500発以上消費し、在庫が1,700発を下回ったと報じました。補充には2年以上かかるとされ、その穴を埋めるために、数百発規模の防空迎撃ミサイルが韓国やアジア方面から中東へ転用されているといいます。在韓米軍の防空体制がより脆弱になっているとの指摘も出ています。
こうした兵器の不足は、アメリカがイラン攻撃を躊躇う理由の一つになっているのではないかと推察されます。実際、制服組トップのケイン統合参謀本部議長は、迎撃ミサイルの在庫が危険な水準にまで減少していると警告し、大規模攻撃を見送るよう進言したと伝えられています。
この影響は中東以外の地域にも及んでいます。ウクライナではパトリオットミサイルが不足し、ロシアの攻撃への対応が困難になっており、さらに高性能ミサイルの不足は中国に対する抑止力の低下にもつながりかねません。
アメリカがアジアで遠距離攻撃や迎撃能力を十分に発揮できないとみなされれば、日本や韓国が武器生産でアメリカに協力する必要性が、これまで以上に高まる展開もあり得るでしょう。
米シンクタンクCSISのトム・カラコ上級研究員は、こうした兵器在庫の枯渇を「在来式抑止手段の世代的破滅」という強い言葉で表現しています。
同氏は、この変化が中国とロシアの意思決定に今後数年間にわたって影響を及ぼしかねないと分析し、「彼らはとても意図的に、そして自分たちが望むタイミングで何らかの措置を取ることができる、なぜなら米国が消費した武器を再構築するには数年かかるためだ」と指摘しています。
抑止力というのは、相手にどう見られているかという認識の産物です。実際の在庫がどうであれ、相手が今なら動けると判断した瞬間に、抑止は機能しなくなります。今週の一連の報道そのものが、皮肉にも中国やロシアに対して、その今を教えてしまっている面があるのかもしれません。
超大国であっても、弾薬という有限の資源の前では平等です。むしろ世界中に安全保障上のコミットメントを広げてきたアメリカだからこそ、複数の戦線を同時に支えることの限界が、今まさに露呈しているといえます。
精密誘導兵器は、部品の多くを世界的な供給網に依存しており、一度使い切ってしまうと生産に数年単位の時間がかかります。これは石油のように備蓄でしのげるものではなく、工場のラインと熟練工の手が揃って初めて作り出せる、いわば「時間でしか買えない資源」です。
だからこそ今回の在庫減少は、単なる一時的な品不足ではなく、今後数年にわたってアメリカの軍事的な選択肢を狭め続ける構造的な問題として捉える必要があります。同盟国である日本にとっても、アメリカの防衛産業がどれだけ早く生産能力を回復できるかは、他人事ではいられないテーマになってきています。
そして重要なのは、このアメリカの揺らぎが、中東やアジアの各国に「自分の身は自分で守るしかない」という判断を促している、という点です。
次に見ていくホルムズ海峡やイエメン、そしてサウジアラビアを中心とした新しい防衛協定は、いずれもこの空気の中で生まれています。
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