現役医師が明かす、催涙ガス使用に反対すべき理由とは?

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香港で起きている学生や市民達によるデモ。数十万人の人達が「我々の声を聞け」と抗議するのに比例して、香港警察は催涙ガスを噴射してデモの鎮静化を狙いました。しかし、デモに無関係の人達にもガスが付着し、大勢の人達が健康被害に遭っています。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で沖縄在住現役医師の徳田先生は、医学と予防の観点から、香港警察が使用した催涙ガスの猛威について教えてくれています。

催涙ガスの最新医学

香港で学生や市民の抗議活動が続いている。中国中央政府や香港政府が提案した、逃亡犯条例改正への反対表明がきっかけだった。地域の民主主義制度を維持したい学生や市民の抗議活動に対して香港警察は催涙ガスを何千回も使用している。今回は催涙ガスの健康被害とその使用の問題について解説する。

香港警察が使っている催涙ガスの主な成分は化学刺激剤のクロロベンザルデンマロノニトリルで、常温で白色の結晶構造を持つ固体。開発者二人(コーソンとストートン)の頭文字をとり、CS剤(エージェントCS)と呼ばれている。もともと警察用に開発されたが、戦場でも使用されるようになった。暴動鎮圧剤として広く商品化されている。

作用発現が速く、眼や粘膜、皮膚への刺激性は強い。低濃度でも眼に直接接触すると強い痛みと大量の流涙をきたす。眼の灼熱感、痛み、流涙、鼻汁、流涎、眼瞼痙攣、結膜充血、くしゃ み、咳嗽が急速に出現する。胸痛、紅斑、嘔気、嘔吐をきたすこともある。不安感をもたらすことも多く、CSのエアロゾル曝露により血圧上昇や心拍数増加が認められることがある。

CS剤の臨床

CS剤の場合、刺激濃度と致死濃度の差は比較的大きい。しかし、濃度が致死量に達すると気道と肺が侵され、肺炎や窒息で死に至る。低濃度では通常、曝露後30分でほぼ完全に回復するが、症状が遷延することもある。それぞれの症状の平均的回復時間は、視力が数分間、流涙が最長15分間、皮膚の紅斑が1時間である。びらんや水疱などの皮膚障害が重篤になると回復に数週間要する。

CS剤の曝露では、高濃度曝露では反応性気道不全症候群を生じるリスクがある。喘息の既往がある人では、重篤な喘息発作が出現することもある。慢性呼吸器患者では気管支肺炎を併発することがある。閉鎖空間での曝露では肺障害や窒息へ至る可能性もある。

現場での医療管理は、まず患者を曝露源から遠ざけること。衣服や靴がCS剤で汚染されている可能性があるので脱衣させる。微細粉末として散布されたとき、乾燥状態のままヘアドライヤーで可能な限り人体から吹き飛ばす。溶剤スプレー噴射のときは、少なくとも15分間は患部を微温湯で洗浄する。

溶剤が蒸発した後に眼に残存した粒子には、少なくとも15分間かけて大量の微温湯で洗浄する。短時間水にさらすのみであれば、CS剤は加水分解を起こし灼熱感が悪化することもある。また、生理食塩水などでの洗浄で眼症状が緩和することもある。

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