キリスト教の聖典である「新約聖書」ですが、たとえ信者でなくともそこから多くを学ぶことができます。今回の無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』では現役弁護士の谷原誠さんが、二者択一の質問をされた時の答え方を取り上げながら、「思考訓練としての聖書の読み方」を紹介しています。
皇帝のものは皇帝に
こんにちは。弁護士の谷原誠です。
今回は、新訳聖書の内容をご紹介します。
マタイによる福音書に、次のような話があります。イエスを罠にはめようとする「パリサイ派」の人々は、様々な策略を練ってイエスを陥れようとしますが、ことごとくイエスの反論にあって退散していました。
そこで、次のような巧妙な質問をイエスにしかけました。
パリサイ派 「それで、あなたはどう思われますか。答えてください。カイザル(皇帝)に税金を納めてよいでしょうか。いけないでしょうか」
この質問がなぜ巧妙なのか。
もし、イエスが「税金を納めてはいけない」と答えれば、カイザル(皇帝)に密告をすれば、「皇帝に反逆する者である」ということで捕らえられ、処罰されてしまうでしょう。逆に、イエスが「税金を納めなさい」と答えれば、民衆に見離されることになります。なぜなら、民衆は、ローマ皇帝を憎み、税金逃れをしていたからです。
したがって、イエスは、どちらの回答をしても不利な結論となってしまう質問を投げかけられたわけです。
日常会話において、質問をされることも多いと思います。質問をされると、私たちは、反射的にその質問の内容を考え、答えようとします。しかし、質問に反応する前に、考えなければならないことがあります。「この質問は、適切な質問なのか?」ということです。
先ほどの質問は、二者択一です。「Aか、Bか」求められる答えは、「A」あるいは「B」です。しかし、実は正解は「C」ということもあるわけです。そこで、二者択一の質問をされた場合には、「これは、2つしか選択肢がないのか?他に選択肢はないか?」を考えた上で、回答すべきことになります。
さて、事例に戻って、イエスの回答を見てみましょう。
イエス 「偽善者たちよ。なぜ私を試そうとするのか。税に納める貨幣を見せなさい」
パリサイ派の人達は、貨幣をイエスに見せました。
イエス 「この貨幣に刻んであるのは、誰の肖像か。誰の記号か」
パリサイ 「カイザル(皇帝)のです」
イエス 「それでは、カイザルのものはカイザルへ、神のものは神に返しなさい」
パリサイ人達は、これを聞いて退散してしまったそうです。
信仰を目的として新訳聖書を読むのも良いですが、思考訓練として読んでみても、学ぶところがあります。
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