西側諸国にブーメラン。対ロ制裁で露呈した民主主義「劣化」の正体

tmsk20220725
 

多くの人権問題を抱える習近平政権に対し、「自分たちの信じるところの民主主義」の受け入れと徹底を求める西側先進国。しかしその民主主義自体、中国の手本たり得るものなのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、2つの象徴的な出来事を例に取り、西側の民主主義がいかに劣化してしまったかについて解説。ウクライナ戦争の先行きや対ロ制裁の効果を見誤ったことも、民主主義の劣化に起因するとの見解を示しています。

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欧米先進国は中国に「われわれの民主主義を見習え」と本当に自信をもって言えるのか

少し古い話になるが、中国のテニスプレーヤー・彭帥選手が中国の副首相と不倫をしたとSNSで告発した事件があった。当時、大学には中国からの留学生も少なくなく、ある日、この問題で学生から話しかけられた。

「先生、彭帥問題の裏に江沢民がいるって日本人は本気で信じているのですか?」

これは質問ではない。揶揄だ。案の定、話のオチは、日本の専門家とテレビのズレ方が事故レベルだって、笑い話だった。

彼らが知るメディアには、確かに遊び心が不足している。自由度も低い。だが、こういうでたらめを大声で言う人物が入るスペースはない。だから不思議で仕方がないのだ。

笑っていられないのは、ワイドショーレベルのこうした中国分析が、日本の中枢でもまかり通っているからだ。霞が関はまだしも、永田町は惨憺たる状況だ。そのことは政治家の発信を見ていれば分かる。

最近も李克強首相が習近平国家主席に取って代わるという「ミニクーデター説」がまことしやかに日本を駆け巡った。いわゆる「李上習下」だ。私のもとにもテレビ局から問い合わせがあった。しかし、「そういうことは中国がひっくり返るような場合を除けば起きません」と答えると、それっきりになった。

結局、「ミニクーデター説」はすぐにフェードアウトしたが、そこに反省はない。中国が乱れているという情報は、後で間違いが判明しても譴責されることはない。だから次から次へとウソを撒き散らす輩が湧いてくる。

問題は、例えばロシア・ウクライナ戦争の見通しを日本全体で間違うという欠陥にも通じるから深刻だ。いざという場面でも緻密な分析はできないという意味だからだ。

ただロシア・ウクライナ戦争の見通しでいえば、間違えたのは日本だけではなかった。アメリカを中心とした西側先進国全体──日本以外は確信犯だった可能性も高いが──にも不正確な情報はあふれていた。

曰く、ウラジミール・プーチンは孤立していて正しい情報が入らず無謀な戦争を仕掛けた。ロシア内部にも反プーチンの風が吹き、クーデターも起きる。またウクライナの反転攻勢でロシア軍は年末までに駆逐される。西側の制裁でロシア経済の崩壊も不可避、といった情報だ。

戦争はまだ続いているが、現状では概ねの答えは出ていると言わざるを得ない。

なぜ、これほどはずしてしまったのか。少し大胆な見立てをすれば、これこそが「民主主義の劣化」の正体だ。さらに踏み込んでいえば、民主選挙のもつ負の側面がさらけ出された結果かもしれない。

示唆に富んだ二つの出来事がある。

一つは、イギリスのトニー・ブレア元首相が、英ディッチリー財団の年次講演会で行ったスピーチだ。伝えたのは『newsphere』(2022年7月20の記事)だ。ブレア氏はこの講演で、台頭する中国を念頭に、「欧米の政治的・経済的支配は終焉を迎えつつある」と危機感を表している。そして、だからこそ西側諸国は「自国の政治を立て直し結束する」ことが大切だと訴えたのだ。

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