トランプ銃撃で急変した大統領選の様相と「ドラクロワ喚起」の危うさ

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7月14日、米国東部のペンシルベニア州でトランプ前大統領が銃撃される事件が発生。その時に撮影された1枚の写真が、名画「民衆を導く自由の女神」の構図のようだと話題になり、トランプ支持者にとっては感動的にすら映ったようです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で著者の引地達也さんは、トランプ氏とドラクロワの絵が結びつくことを危険視しその理由を説明。また、アメリカ大統領選の長所である拮抗した中での政策論争がなくなり、ただの罵り合いで終わってしまうことも懸念しています。

銃撃後の1枚の写真とドラクロワ、自由と暴力の共存への怖さ

映画を見ているようなドラマが展開されている。米大統領選挙で共和党候補者の決定に向けて演説していたトランプ前大統領への銃撃は、トランプ氏の優位と現職のバイデン大統領の劣勢を鮮明化し、現職は立候補辞退に追い込まれた。

大統領選の結末は11月の投票日まで分からない。いや、2000年のブッシュとゴアの選挙のように裁判になり12月以降になる可能性もある。

ただ、米大統領選挙における「切り取られた」メディアの影響は、常にメディア発展の最先端に位置し続けた米国では殊更顕著であることが今回も証明された。銃撃を受けた耳から出血しながらも拳を突き上げるトランプ前大統領の写真、である。

背景の米国国旗の星条旗と澄み切った青空は、中心の前大統領を引き立てているようにも見える。それは報道写真として完璧で、絵としても美しい。今年のピュリツァ─賞受賞の可能性が高い、歴史を動かす1枚になるかもしれない。

しかしこの写真をフランス革命を描いたドラクロワの作品が喚起されるとなると、注意が必要な1枚になることも意識したい。名画の1つされるウジェーヌ・ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」(1830年)はフランス七月革命を主題にし、実際の市街戦を描いた作品である。

中心に描かれている「マリアンヌ」は自由の女神であり、フランスのシンボル。自由の象徴であるフリジア帽子を被り、左手に銃剣が付いたマスケット銃を持ち、右手にはフランス国旗を掲げている。全体の構図は、彼女が傷だらけでも闘おうという民衆を導いている様子で、これは「革命の象徴」の図となる。一方で彼女は扇動者とも受け取れる。自由の象徴を被った武器を持つ女神。

間もなく始まるパリ五輪のマスコット、フリージュはフリジア帽子をモチーフにしているが、この絵は闘いと自由が同居しているのである。扇動の先にある自由を求める市民革命と銃撃を受けても拳を上げる前大統領は、勇敢な救世主を描いた点で、支持者にとっては「同一視」できるのかもしれない。

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