戦後80年を迎え、戦争体験者の高齢化が進むなか、戦争の記憶をいかに次の世代へ伝えていくかが、あらためて問われています。毎年8月になると、原爆や終戦をめぐる報道やドキュメンタリーが数多く発信されます。しかし、体験者の言葉を直接聞く機会が失われていく今、過去の出来事を「伝える」ためには、どのような表現が必要なのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、NHKが今年放送した手塚治虫と水木しげるを題材にした作品を手がかりに、2人の漫画家が自身の戦争体験をどのように作品へ刻み込んだのかを振り返ります。
2人の漫画家が描かれた戦後の風景と継承
「8月ジャーナリズム」と呼ばれる原爆投下と終戦に合わせて展開される記事や映像プログラムは、体験者が減っていく中で年々、未来への継承が課題となっている。
ジャーナリズムに従事する人たちは、「伝え、継いでいく」使命を背負いながら、取材だけでは事足りず、伝え方を含めた手法が問われているともいえる。
今年もNHKはいくつかの報道やドキュメンタリー、ドラマで戦争を描いているが、目を引いたのが手塚治虫と水木しげるという漫画家の巨匠2人に関する作品である。
巨匠が手掛けた戦争の体験による作品が描かれた背景にある生々しさの理由を探っていく趣向だ。
ひとつはドラマ、ひとつはドキュメンタリーであるが、どちらも描かれた「漫画」が表現力に力強さを与えている。
作画の一つひとつ、描かれた登場人物の表情やその目の形、口角の角度、顔にかかった影、上を向いている黒目の滑らかさ、これらのすべてが、人が生きることを肯定しながら、戦争の愚かさを突きつけてくるようで、迫真の臨場感があった。
NHKスペシャル「白い旗 水木しげると硫黄島」は、水木しげるの傑作戦記である「白い旗」をアニメとして展開しながら、モデルとなった実在の人物を描いていくドキュメンタリーである。
太平洋戦争の激戦地・硫黄島では日本軍兵約2万人、米軍兵約7000人が亡くなった。
そして、今も約1万人の遺骨が島に残ったままの悲劇の記憶、場所である。
ここで、玉砕せよという日本軍の命令に逆らって、白旗を振って部下の命を守ろうとした軍人がいた。
水木はこの場面をクライマックスにした漫画「白い旗」として3度描いているが、その真相は謎であった。
番組では、モデルは実在する東大出身の軍人であり、水木とも縁のある人物だったことを示す。
そして、実際に白旗を振ったことで待ち受けていたこの軍人の運命はあまりにも悲劇だった。
漫画と遺族の声、遺された硫黄島に関する証言が交差し、「真実」が重く、のしかかってくる。
自らもパプアニューギニアで過酷の中を生き延びた水木だからこそ、描けた世界である。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ








