ベッキーのLINE流出はプライバシー権の侵害にならないのか?

2016.02.15
by Mocosuku
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ベッキーと「ゲスの極み乙女。」ボーカル川谷絵音氏の交際に関して、連日報道がなされています。

過去にも様々な芸能人の私生活に関する報道がありましたが、とりわけ今回はLINE画像の流出という点で、印象も強く、また反響も大きかったのではないでしょうか。

さて、このLINE画像流出に関しては、プライバシー権との関係で問題があるのではないかという声を聞きます。

そこで今回は、プライバシー権の侵害とは何かについて、芸能人のプライバシーや、SNSとプライバシーという観点も踏まえながらご説明したいと思います。

プライバシー権の侵害とは?

プライバシー権を侵害した場合には民事上の不法行為責任(損害賠償責任や表現行為の差止めなど)に問われることがあります。

他方、刑事上の責任に問われるかどうかは、当該行為が名誉棄損罪(刑法第230第1項)に該当すると評価されるかどうかにかかっており、プライバシー権の侵害そのものが犯罪行為になるわけではありません。

今回は、前者の民事上の責任に限定してご説明します。

プライバシーの概念については、情報化社会の発達とともに様々な議論がなされています。

裁判例による定義はというと、「宴のあと」事件判決が、プライバシーの判断要素として次の3つの要件を掲げています。

1. 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、
3. 一般の人々に未だ知られていないことがらであること、
以上の3要件を満たすものが保護すべきプライバシーにあたるとされています。

他方で、報道側にも表現の自由が保障されていることから、両者の調整を図る必要があります。

この点、判例は「その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する」と述べています。

また、公表されたものが「公共の利害に関する」事項であるかどうかも重要な判断基準とされています。

さらに、プライバシーにかかることがらであっても、公表されることを本人が承諾している場合には、その事項についてはプライバシー権を放棄したものとして、プライバシー権の侵害に基づく責任は認められません。

芸能人の私生活は公共性がある?

さて、芸能人は世間の注目を得て活動しています。

それでは、芸能人に関する事項は公共性があり、「公共の利害に関する事項」といえるでしょうか。裁判所が著名人(芸能人より広い概念)のプライバシーを判断するにあたっては、その人の社会的地位の大きさや活動の公的性質にも着目するといえるでしょう。

特に公的な活動もしていない芸能人について、公表された事実が純粋な私生活に関する事項である場合、それは「公共の利害に関する」事項とはいえません。

そのような事項というのは、世間の多くの人が関心を寄せている、すなわち好奇の対象になっているに過ぎないからです。

芸能人はプライバシー権を放棄した?

芸能人は、自身の情報が公表されることについて承諾をしているのだから、プライバシー権を放棄しているのだといった考え方が存在します。

しかし、芸能人が、芸能活動以外の私生活については「芸能人だから公表されて構わない」と考えているかといえば、必ずしもそうとは限らないでしょう。

裁判所による解決も、それぞれ問題となった事項について、実際の承諾があったと評価できるかを個別に判断していくことになるでしょう。

SNSとプライバシーとの関係は?

SNS(Social Networking Service)は、人と人との繋がりを電子化するサービスですが、ご存じのように、投稿内容の公開範囲が不特定多数にわたるものも存在します。

例えば、Facebookで公開範囲を限定しないで、個人情報を掲載した場合に、事案によってはその部分については承諾がある、すなわちプライバシー権を放棄したと評価されることもあるでしょう。

もっともこれについても、SNS外でこれを公表しようとする人の表現の自由との調整の問題もありますし、SNS外での公表は承諾していないと考えることもできます。

LINEもまたSNSの一つですが、主として特定人との間で行うテキストチャットとして使用されていることが多く、トーク相手・グループ以外には公表されることは想定していません。

それゆえ、プライバシー保護の必要性は、公表範囲の広い他のSNSと比べた場合には、より高いという議論もありうるでしょう。

その他、会話の主体や会話の内容などが民事上の責任の成否の考慮要素であることは前述のとおりです。

結び

情報化社会の深化・複雑化とともに、何がプライバシーかの判断もまた複雑になっています。

プライバシーに関わる紛争に巻き込まれないためにも、自分の情報をどの範囲でコントロールするのか、他人のプライバシー権の侵害を行っていないか、一度立ち止まって考えてみることも大切ではないでしょうか。

執筆:荒内智美(弁護士)

 

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