なぜ、アメリカ大統領選はこんな茶番劇になっているのか?

 

米大統領選の不毛

そのようにして、オバマはこの7年間を通じて、ヨタヨタしながらも何とかして米国をやたらに軍事力を振り回すのではない国に生まれ変わらせようと頑張って来たのだと思う。そこで今年の米大統領選の最大の焦点は、そうやって21世紀に向かって半歩踏み出した米国を誰が引き継いで一歩、二歩と前に進めるのかということに尽きる。世界にとっての大統領選への最大関心事はそこにしかない。

ところが現実には、そんなことは何ら選挙戦の論争テーマにはなっておらず、例えばトランプが外交について言っているのは、「力だ、力だ、力だ。誰も俺たちに手出しが出来ないようにする圧倒的な力だ」とかいう幼稚きわまりない戯れ言でしかない。後を追うテッド・クルーズは外交については多くを語っていないが、IS対策について問われた時には「絨毯爆撃だ。私の戦略はシンプルだ。悪党どもを標的にして叩きのめす」と、まさしくシンプル極まりないことを言って失笑を買った。しかし彼の基盤がキリスト教右派であることを思えば、この面に関しては簡単にネオコン路線と同調するだろう。

もう1人のマルコ・ルビオは、トランプの粗暴ぶりに手を焼いた共和党主流が、すでに選挙戦から撤退したジェフ・ブッシュの票を回して何とか浮上させようとしているが、私に言わせれば一番浮上してほしくないのはこの人で、なぜなら彼は、米国のメディアで「ナイーブなネオコン」と呼ばれているとおり、ネオコンの手先だからである。彼のブレーンにはネオコンの策動拠点である「アメリカ新世紀プロジェクト」の人脈が入り込んでいる。

「アメリカ新世紀プロジェクト」を立ち上げたのは、ネオコンの代表的論客である歴史家のロバート・ケーガン=米ブルッキングス研究所上席研究員である(マケインもメンバー)。01年の9・11の1年前に、米国が地球的責任を果たすための軍備大増強を提唱する米防衛再編計画を発表、その際にそれを短期間に実現するには「新たな真珠湾攻撃のような破滅的な出来事」が起きることが必要であるかのごとき一句を盛り込んだので、後々「ネオコンによる9・11自作自演の論拠にされた。

そのケーガンの妻は現職の米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)のビクトリア・ヌーランドで、彼女がキエフの民主化デモが盛り上がり始めた13年12月10日にキエフ入りし、野党指導者たちと会談し、また独立広場に行ってデモ参加者にお菓子を配った。続いて14日にはマケイン上院議員がキエフに姿を現してウクライナのネオナチ勢力幹部に資金・武器援助を約束し、これによって「キエフの春」は早々に独裁者打倒=ロシアの影響力排除のための内乱に転化したのである。

従って、ルビオが共和党の予備選を制すれば、米国中枢が再びネオコンの危険思想に深く汚染される危険が生じる。

民主党では、サンダーズは今のところ国内格差問題への取り組みをアピールするのに忙しく、外交まで頭が回っていない。が、かつてイラク戦争に反対した投票記録があるから、ハト派には違いない。クリントンはファースト・レディ、国務長官も務めた外交のプロで、その意味ではただ1人、安心感を持てる知性的国際派ではあるが、オバマより遙かにタカ派で、軍事力の行使をためらわないタイプである。彼女の言う「グローバル・リーダーシップ」というのは、共和党の言う「唯一超大国」と実は紙一重で、軍事力の行使を決して排除していない

こうして、これまでの選挙戦を見る限り、オバマの脱軍事帝国のための悪戦苦闘をさらに強力に前に進める大統領が登場する可能性はほとんどなく、むしろ冷戦的もしくはネオコン的な勢力の大復活という逆流が生じる危険が高まっている。

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