女優の「白人に救われるべき哀れなアフリカ」観に現地民が猛反発

2016.07.13
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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アフリカのザンビアで暮らした経験を記したイギリス人女優の本が、ひどい誤解と偏見に満ちていると話題になっている。暗く汚れたアフリカの苦境を救うのは白人だという時代遅れの上から目線に、アフリカのネット民や識者が、怒りを露わにしている。

事実誤認満載。アフリカは危険の宝庫?

渦中の人となっているのは、イギリス人女優のルイーズ・リントン氏だ。彼女は「世界で最も貧しい人々を助ける」べく、高校卒業後の1999年、18歳でアフリカのザンビアに渡り、ボランティア活動をした経験を綴った回想録、『In Congo’s Shadow: One girl’s perilous journey to the heart of Africa(コンゴの影で: ある少女のアフリカ奥地への危険な旅)』を出版。その宣伝のためと見られる記事を英テレグラフ紙に寄せたのが、騒動の発端となった。

テレグラフ紙の記事の中でリントン氏は当時を振り返り、笑顔で飛行機に乗りザンビアのタンガニーカ湖に近い村に到着したものの、「すぐにアフリカには隠れた危険がはびこっていると知った…モンスーン・シーズンが終わると、隣国コンゴのフツ族とツチ族の衝突が激しさを増し、ザンビアにも飛び火し、湖の周りにも悪影響が広がった。何千人もの人々が住む場所を失い、レイプや殺人などの残忍な話を聞いた」と述べている。

この記述に対し、ガーディアン紙に寄稿したザンビア人の詩人でライターのリディア・ンゴマ氏は、ザンビアは内戦が起きたアンゴラやコンゴに近いものの、コンゴの反乱軍が国境を越えてザンビアを攻撃したという例は思い浮かばず、むしろザンビアはアフリカで最も平和な国の一つであり、戦争を逃れてきた周辺国の難民の受け入れ先とさえなっていたと述べる。また、「フツ族とツチ族の衝突」があったのはコンゴではなくルワンダであり、モンスーン・シーズンも、ザンビアにはないと述べ、内容の不正確さを指摘している。

判で押したような先入観。アフリカ人もあきれ顔

リントン氏は記事の中で、自らを現地の戦争に巻き込まれた「長く天使のように細い髪を持つ、痩せた白人の外国人」と表現し、滞在中かわいがっていた「すきっ歯でHIVに感染した」ジンバという名の少女の最大の喜びは、「私の膝に座りコカコーラを瓶から飲むことだった」などとも述べている。他にも「マラリアにかかった」、「至近距離でゾウ、ライオン、ワニ、ヘビに遭遇」などの記述もあり、リントン氏の著書は不正確さと人種差別的表現に満ちた妄想、横柄な「ジャングル物語」だと、ザンビア人のみならずアフリカ中の読者から大批判を受けているとウェブ誌『クオーツ』は述べている。

ソーシャルメディアには、「アフリカにはインターネットがないと思われているのかな?どうせやつらが俺らについて書いたことなんか絶対読まれない『ジャングル』だからね」、「今ザンビア旅行中だけど、途中で反乱軍の銃撃に合わないか不安」、「白人の特権は事実かどうか確かめられない経験で本が出せるってことね」など、痛烈なコメントが寄せられている(クオーツ)。

「白人救済者」の物語は今も健在。真実は自分の目で

ワシントン・ポスト紙の編集者、カレン・アッティア氏は、これまでにも白人、または外国人の中心登場人物からみたアフリカを描いた作品はたくさんあったと指摘し、リントン氏のものも、その流れを汲むと説明する。アフリカの中には急速に経済成長を遂げる国もあり、アフリカ人や海外に住む同胞は、彼ら自身の物語を完璧に語り、社会を変革していくことができるのに、世の中にはいまだに「アフリカの白人救済者」ストーリーが根強く残っているのが現実だとしている。アフリカの物語からアフリカ人の声と経験を抹消し、メディアにおいてアフリカ人を善意の西洋人のための小道具とすることは、アフリカに対する怠惰な思考、著述、政策立案の温床を作ることになると同氏は主張し、それが人間性を奪う行為であり、人種差別であり、ただただつまらないことだと嘆いている。

騒動に驚いたリントン氏はバズフィードに、ザンビアの人々に対する謝罪の気持ちを述べているが、ンゴマ氏はそもそもテレグラフ紙が事実確認をせず、こんなひどい回想録からの抜粋を実話として紹介してしまったという事実は変わらないと述べる。この本を買わないようガーディアン紙の読者に訴えるンゴマ氏は、興味がある場所に関するよい著作がない場合は、アフリカだろうがアジアだろうが、実際に行って真実を知るべきだとアドバイスしている。

(山川真智子)

 

記事提供:ニュースフィア

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