天皇陛下の「生前退位」リークが、国民への暖かな配慮だった可能性

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8月8日に天皇陛下の「お気持ち」が公表され、「生前譲位」の意思が強くにじむものになりました。「万世一系、男系男子」にこだわり、元首天皇制への改正を求めている安倍政権としては「面白くない」状況が続いています。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、そもそもなぜこの情報は”リーク”という形で発表されたのかを考察。そして、「生前譲位」は陛下の次世代に対する「極めて人間的な配慮」だったとの持論を展開しています。

「生前譲位」問題はなぜリークされたのか

内閣の周辺には憲法の「政治への非関与」条項を厳密に適用するのであれば、「中の方」の個人的な意見から皇室典範の改定に進むというのは、違憲だという考えもあるようです。ですが、これを反対に見れば、自身の譲位という最大の「国事行為」について、内閣の「助言と承認」を求めても得られないので、リークという異例な形で話が進むという流れになっている、そのように受け止めることも可能です。

どうして、そんな面倒なことになるのでしょうか?

その背景には、皇室典範の改定論議を進めると、どうしても女帝や女系の問題が絡んでしまい、左右対立が激しくなって「何も決まらない」状況になるという懸念があるのだと思います。首相周辺がどう考えているかという問題とは別に、とにかく、この対立は激しい問題になるので、「取り扱い注意」ということなのでしょう。

そうなると、内廷、宮内庁、内閣の三者の共通の理解として、落とし所としては、こうしたリークで話を進めるしかなかった、現時点ではそう理解するのが自然です。

ところで、問題の男系・女系論争ですが、仮に現在の内廷皇族に加えて現在の宮家も含めて、男系が絶えたとすると、伏見宮家の男系に戻すという案があるわけです。ですが、これでは今上天皇から考えても40親等という大変な距離があるわけで、これでは新王朝と言ってもおかしくありません。

40親等というのは実はオーバーで、今言うところの「旧宮家」の源流である伏見宮家には、江戸時代の桃園天皇の貞行親王が養子に入っているので、そこから数えることになりますが、現在の皇統は東山天皇から別れた閑院宮家の流れということを考えると、決して近くはありません。

中国の前例で言えば、前漢滅亡後に劉秀が立って後漢ができたわけですが、劉秀は前漢景帝の6世の孫ということを考えると、この「伏見宮家」というのは、やはり相当に遠いということになります。

それでも「男系がいい」というグループがあるわけですが、どうも直感的に理解し難い感覚があります。復古主義と言うのですが、そもそも天皇家は明治までは仏教徒で、泉涌寺さんという立派な菩提寺もあるのですが、そうした神仏習合という日本的な伝統への「復古」は余り関心がなく、あくまで平田学みたいな(これはこれで極めて江戸的な)イデオロギーに立脚しているのも良く分からないのです。

いずれにしても、そうした話になってしまうと、結論が出ない堂々巡りに陥ってしまうので、生前譲位という問題に限って進めたい、その限りにおいては内廷、宮内庁、内閣ともにこのような提案方法しかなかったのだと思います。

ちなみに、これに加えて「中の方」には、先代の「人間宣言」の継承、そして次代も「象徴天皇として即位させる」という意図もあるのかもしれません。現在の「国のかたち」を誰よりも守りぬく決意が、何となくそこには感じられます。

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