中国が、日米との軍事衝突を避けるために用いた「催促」外交術

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米中首脳会談で物別れに終わったとされる南シナ海問題。しかし軍事アナリストの小川和久さんは「中国は南シナ海での日米の展開を認めたのでは」と読みます。メルマガ『NEWSを疑え!』で詳述している、その論拠と中国の外交テクニックは今後のためにも知っておくべきです。

中国は南シナ海での米軍の行動を認める?

習近平国家主席の訪米について、サイバー攻撃の抑制などについては合意したものの、中国が埋め立てなどの活動を活発化している南シナ海については「平行線に終わった」との報道がもっぱらですが、本稿では少し違った見方を提示しておきたいと思います。

例えば、9月26日付けの毎日新聞には次のような記述が見られます。

(前略)習氏は米中協調の必要性を繰り返し指摘しつつ、南シナ海の海洋進出などの中国にとっての「核心的利益」に触れる部分を念頭に、「違いや対立点には寛容であるべきだ」と訴えて譲らない姿勢を堅持した。(中略)

 

南シナ海を巡っても昨年の米中首脳会談で合意した衝突防止の行動規範の策定を進めることを双方が模索。中国国防省は習氏のワシントン到着にあわせて軍用機が空中で遭遇した際の行動規範が事務レベルでまとまったと発表しており、中国側は米中両国が軍事衝突しない仕組みをさらに強固にするよう働きかけていた。

結論的に申し上げますと、習近平氏は中国国内向けに南シナ海問題で譲らない姿勢を強調する一方、衝突防止のメカニズムについて合意にこぎ着け、米国が、そして米国の同盟国の日本が、南シナ海の公海上に艦船航空機を展開し、活動させることを認めた、とみなすことができるのです。だからこそ、上記の記事にある「中国側は米中両国が軍事衝突しない仕組みをさらに強固にするよう働きかけていた」ということになるのです。

衝突防止のメカニズムは次の形で合意に至りました。

中国の習近平国家主席の訪米に合わせ、米中国防当局が18日、空中での両国軍用機の偶発的な衝突を避けるための行動規範で合意し、関連文書に署名した。

 

中国国防省の呉謙報道官が24日、北京での記者会見で明らかにした。また米中双方は、国防当局間のホットラインを通じて「軍事危機」発生の際の相互通報制度の具体化でも合意した」

(9月24日時事通信)

しかし、今回の米中首脳会談にいたるプロセスには、日本人が知っておかなければならない中国側行動様式が如実に表れていることを、見逃してはなりません。

中国は、衝突防止のメカニズムを合意に至らせるために、最初に緊張を高めておいて、同時に衝突防止のメカニズムの協議を提案し、それが少し動き始めると、さらなる協議を「催促」するかのように緊張を高めてみせることを繰り返しているのです。

米国や日本が紛争を望まないことを見越して、中国自らが最も避けたい日米との戦争の引き金になりかねない海上と空中での衝突を回避するため、必死衝突防止合意実現しようとしてきたとみてもよいでしょう。

中国が日米との軍事衝突を避けたい理由は、小規模な紛争であっても世界的戦争エスカレートする要素が含まれていることで、中国に進出している国際資本が逃げ出してしまい、中国経済は回復不能なほどのダメージを受けかねないからでもあります。

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