【テクノロジー】Google Glass 市場撤退で信頼を失った Google

Google Glass について

『週刊 Life is beautiful』2015年2月24日号より一部抜粋

失敗に終わった Google Glass についてはさまざまな記事が書かれていますが、包括的という意味では、New York Times の “A Retreat for Google Glass and a Case Study in the Perils of Making Hardware”という記事が良く書かれているので一読をお勧めします。

この記事もそうですが、多くの人が Google Glass プロジェクトが失敗した原因（プライバシーの問題、ターゲットセグメントのミスマッチ、「テクノロジーありき」のものづくり）や、リスクの高い研究開発の必要性などを指摘しています。どれももっともな意見だと思いますが、私がもっと注目すべきなのは、マーケティング面での失敗です。

Google と Apple の一番大きな違いは、新製品や新サービスの扱いです。

Google は、「ベータ版」という名前を使って、未完成なものをユーザーや開発者に渡し、フィードバックをもらいながらより良いものにしていく、というアプローチをとります。Gmail や Google Map は良い成功例で、ベータ版と呼ばれている間から何百万人もの人たちにとって「なくてはならないもの」になり、それが今でも幅広く使われています。逆に、Google Wave や Google Buzz のように開発者まで巻き込んでベータ版をリリースしたものの、２年も経たないうちに打ち切りになってしまったプロジェクトも多数あります。

一方の Apple は、徹底的な秘密主義を持つ会社で、それも「中途半端なものは出さない」という少数精鋭のポリシーをビジネス戦略の中心に置いています。Apple が、テレビやカメラの開発をしていることは以前から指摘されていますが、消費者を満足させる高い付加価値の製品に育つまでは、決して世の中にリリースしないのが Apple のやり方です。その結果、Apple の主力製品はわずか４つ（Mac、iPod、iPhone、iPad）しかありません（Apple TV を含めても５つ）。最後の新製品の iPad が発売されてから、今年の Apple Watch まで５年ものギャップがありました。

Google Glass もその意味では、Google らしい「未完成なベータ版」であり、Google が市場から引っ込めたことも驚くには値しません。

しかし、Google Wave や Google Buzz とは違い、$1,500 もするハードウェアを開発者だけでなく、一般消費者にまで売っておいて、こんな形で辞めてしまうのを見ると、消費者の間に「Google 製品には手を出さないほうが良い」という感覚が生まれてしまう可能性は避けられません。

私のような開発者も、Google がリリースしてくるプラットフォームには慎重にならざるを得ません。Google Glass のような新しいプラットフォーム向けにアプリケーションを開発するためには、単にハードウェアを購入するだけでなく、開発環境を学び、実際にアプリケーションを作って感覚をつかむという「開発投資」をしなければなりませんが、こんな風にプロジェクトをあっさりとキャンセルされてしまうと、その投資が無駄に終わってしまいます。

もともと Google の「プラットフォーマーとしての信頼度」は、Apple や Microsoft に劣る面がありましたが、今回の件で、さらに信頼度を下げたと言えます。今後 Google が新たなプラットフォームを発表しても、「２年ぐらいは様子を見てから」と慎重になる開発者が増えたことは否定出来ないと思います。

『週刊 Life is beautiful』2015年2月24日号より一部抜粋

著者／中島聡（ブロガー／起業家／ソフトウェア・エンジニア）
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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