【ISIL】「イスラム国」は安倍首相のイスラエル国旗前会見を無視

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日本で一般的な図式では説明も予測も出来ない「イスラム国」の行動

『NEWSを疑え!』第374号より一部抜粋

日本人人質を殺害した過激派組織「イスラム国」は2月12日、英字機関誌『ダビク』第7号を公開し、「イスラム国」活動地域の周辺諸国を支援する「日本政府の高慢をくじくことが目的だった」と述べ、日本国民を脅迫した。巻頭の声明文は次のとおりで、安倍政権への日本国民の支持を失わせることを目的としている。

「安倍晋三は勇気を出して、カリフ国(「イスラム国」)に対する戦争への支持を中止すると発表できるだろうか。まずできないだろう。彼の統治下の国民には、アラー以外を崇拝する日本人に対し、アラーの力によってカリフ国の剣が抜かれたことを知らせよう」

この目的のためには、安倍首相が1月20日にエルサレムでイスラエル国旗を背景に記者会見したことも非難するのが、「イスラム国」にとって合理的であった。日本では、安倍首相による「イスラム国」活動地域の周辺諸国への2億ドルの支援表明とともに、日本・イスラエル両国国旗の前での記者会見が、「『イスラム国』を挑発し、日本人人質2人の殺害を招いた」として批判されたからである。

しかしながら、安倍首相の言動に対する「イスラム国」の非難は、次のとおり、「イスラム国」活動地域の周辺諸国に対する支援を、エジプトでの演説で発表したことに集中している。

「この無思慮な発表を、カリフ国シナイ州の兵士たち(シナイ半島の「イスラム国」戦闘員)を攻撃しているタグート(棄教を強制する権力者、客観的には「イスラム国」を取り締まっているスンニ派の権力者)のシーシ(エジプト大統領)が立てた演壇で行なった」

シーシ大統領以外に、この声明文が非難している中東の権力者は、「ヨルダンのタグート」つまりアブドラ2世国王だけである。

要するに、今回の対日声明文は、まず「タグート」または「異端」(シーア派)である他のイスラム教徒の政権を倒して、イスラム社会を純化してから、イスラエルなど非イスラム教国に進攻するという、「イスラム国」の構想をそのまま表しているにすぎないのである。

「イスラム国」の対日声明文が、日本国内の「イスラエル国旗問題」を利用しなかったことは、「イスラム国」がこの問題の存在を知らなかったこと、ひいては日本語による情報収集能力がほとんどなかったことを示している。

同時に、「イスラム国」の声明と日本の論争のずれは、「イスラエル対アラブ・イスラム」という日本で一般的な図式では、「イスラム国」の行動を説明も予測もできないことを物語っている。

その点では、日本メディアの能力不足の問題は大きい。声明文の英単語humiliateを「日本政府に恥をかかせる」と訳したメディアは、「イスラム国」の価値観どころか中東の一神教を理解していないことを露呈してしまった。

恥とは人間に対してかくものだが、声明文のhumiliateは、「日本政府が神に対する立場をわきまえていないので、『イスラム国』が神に代わって日本政府の高慢をくじく」という、神と人間の関係についての立場で書かれているのである。メディアもまた、アラビストの確保と育成が急がれているのではないか。

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

 

『NEWSを疑え!』第374号より一部抜粋

【374号の目次】
◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
◇◆テロ事件における人権
◆バスジャックの解決は3時間以内
◆解決手段は何を指標に決めるか
◆容疑者より人質の人権が最優先
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
・「イスラム国」はイスラエル国旗前の会見を無視
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
・ロシアに押しまくられるスウェーデン(西恭之)
◎編集後記
・このくらいの訂正記事は出そうよ

『NEWSを疑え!』
著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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