「ネトウヨ」の正体は30代後半で大学卒の会社員、では年収は?

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戦後のメディアと政治の構造から、新しい右派の誕生を分析する

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第336号より一部抜粋

「ネット右翼」「ネトウヨ」と呼ばれるような人々が増えています。

多く読まれた安田浩一さんのノンフィクション『ネットと愛国』は、象徴的な団体、在特会(在日特権を許さない市民の会)を取材して「しんどそうな人たち」と評しています。「みんな、しんどそうな人たちだった。どんなにカッコつけた物言いをしようとも、この社会で生きていくことが、本当につらそうな人ばかりだった」「認められたい。見てほしい。そして喜ばれたい。松本に限らず、在特会会員の多くからも、私はそんな強い欲求を感じてならない。在特会の活動は、承認欲求を展開しているだけだ」

安田さんは雑誌の記事で、出会った在特会の会員のほとんどが「非正規の労働者で、経済生活の不安定な人が多い」とも言っています。こういう見方をしている人はジャーナリストだけでなく、一般社会にも多いでしょう。でも本当にそうなんでしょうか。

保守派の評論家の古谷経衡さんは、ネット右翼は「低学歴、低所得、社会的地位も底辺、外見も底辺」というイメージがあるが、実はそうではないのだと自分で実施した調査をもとに説明しています。インターネットでアンケートをとり、自分は『保守』『愛国』思想を持っていると答える人の一般的な像は、三十歳代後半で大学卒の会社員、年収は四百万円台後半だったことを証明してみせました。つまり都市部に住む中流階級ということですね。

日本の排外主義運動を研究している数少ない研究者、徳島大学准教授の樋口直人さんも「しんどそうな人々」という身方を批判しています。そもそも在特会のようなリアルの運動を立ち上げてデモに出て行くのはたいへんな組織力が必要で、「しんどそうな人々」ばかりで組織されているのだったら、そっちのほうがよほどびっくりというお話です。こう皮肉っています。「在特会は社会の縁辺にある者の社会的訓練に成功した優秀な機関という評価が成り立ってしまう」

そもそも社会が不安定になったからといって、それがすぐに在特会のような運動につながるわけではありません。排外運動や極右政党がたくさん現れているヨーロッパではこの点がさまざまに調査されていますが、失業率と極右政党の支持率の因果関係ははっきりしていません。仕事を失ったときにまず求めるのは、排外主義ではなく仕事だとも言われています。だから失業率が高い地域では、経済政策を推進してくれる政党への投票が増える傾向があることがヨーロッパでは確認されているんですよ。思想よりも、まず明日のご飯が食べられるかどうかが大切ということなのですね。

ヨーロッパで排外主義や極右の支持が増えているのは、経済的な理由ではなく文化的理由です。文化的というのは、「移民によって自国の文化が破壊される」というような考えのことを意味しています。極右政党に参加する人たちには、自営業もいれば工場労働者もいて、会社員もいます。彼ら全員が同じような経済状況におかれているわけではないし、失業や就職難といった経済の問題だけで多くの人がつながれるわけではありません。ヨーロッパで極右政党が台頭して、そこに多くの人たちが結集しているという現実は、経済的理由だけでは説明できないのです。文化として極右政党に人々が集まっていると考えるべきなのでしょう。

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