これをたった1時間で?映画を見たくさせる『細かすぎるボールペン画』

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“劇場で映画を見ること”でしか得られないものを「あなた」に伝えるためにボールペン画を描く

人気メルマガはいかにして作られるのか。王道は1人の筆者が毎号原稿を書き、配信する「単行本」スタイルだ。しかし、中には何人かの執筆陣で1つのメルマガを作る、「雑誌スタイル」もある。その好例が『入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」』だろう。このメルマガは放送作家、俳優、女優、ラッパーなど、映画を愛すその道のプロたちによる映画レビューが読めるのが特徴。その道のプロならではの独自視点が面白いと評判を集めている。
そこで、まぐまぐニュース編集部では今回、執筆陣の一人に名を連ね、毎週自分が見たオススメ映画をボールペン画で紹介する人気コーナー「映画・狂人画報」を連載するラインプロデューサー佐藤圭一朗さんを取材。メルマガへの関わりや、自身のコーナーに対する思いや、映画の楽しみ方などを聞いた。

--本日はお忙しい所ありがとうございます。

とんでもありません。よろしくお願いいたします。

--佐藤さんは『入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」』では、執筆陣が一週間で観た映画を採点する「みんなの☆映画レビュー」コーナーと、超細密ボールペンイラストで新作映画をヒトコマレビューする「映画・狂人画報」をご担当なさってるんですよね?

そうですね。「みんなの☆映画レビュー」に関しては毎回寄稿している訳ではありませんが、その両方で原稿を書いています。

--佐藤さんがそもそも入江悠監督のメルマガに寄稿されることになったきっかけから伺いたいのですが。

入江監督とは『ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー』というドラマ作品で始めて一緒にプロとして仕事をしました。元々、漫画家を目指していたこともあるくらい画は好きだったんですよ。映画も死ぬほど大好きだったので、映画のワンシーンをボールペン画で描いたものを趣味としてSNSに投稿していたんです。それが入江監督の目にとまり、そこまで映画が好きならメルマガにも寄稿して欲しいと言われ執筆に参加することになりました。

佐藤圭一朗さんによるボールペン画『喰女 -クイメ-』

佐藤圭一朗さんによるボールペン画『喰女 -クイメ-』

佐藤圭一朗さんによるボールペン画『舞妓はレディ』

佐藤圭一朗さんによるボールペン画『舞妓はレディ』

--なるほど、そういう経緯だったんですね。確かにボールペン画からは並々ならぬ映画愛が伝わってきます。

ありがとうございます。

--本業はラインプロデューサーということですが、それはどのようなお仕事なんでしょうか?

ラインプロデューサーとは作品の進行管理を担当する仕事です。映画制作の行程は非常に楽しいもので、制作している最中にもどんどんアイデアは膨らんでいく。時間も予算もたっぷりかけて最高のものを作りたいという気持ちもあるんですが、予算内に抑え、納期を守らなければならない。そうした中でも、監督のクリエイティビティを発揮できる制作環境を整えるということが仕事です。

--そうなんですね。

ただ、使える予算と時間を守って仕事をしてもらうためには時として監督の演出に対し、NOを言わなければいけない時もあります。

--それはイヤな役回りというか……非常に大変そうですね。

監督とはある意味ピリピリとした関係性はあるかもしれません。監督と仲が良いとか思われがちですが、決してそんなに甘いものじゃありませんよ。しかし、作品から離れれば監督もラインプロデューサーもないそれぞれ1人の映画好きに変わるんです。言ってみれば本業が学校の授業だとしたら、メルマガは放課後の部活といった感じでしょうか。そういう意味では1人の映画好きとして、見た映画作品に対する思いを語れるメルマガという場があるのは嬉しいですね。

--「映画を語る場」ですか?

そうですね、映画関係者とオフに見た新作映画について話すこともあるんですが、あの映画が数字的に当たった当たってない、あの俳優が主演じゃ地味とか、そういった話をする場合が多いんです。僕はそういう話を聞くとすごく寂しくなるんですよ。映画が好きでその仕事に就いているはずの同業者なのに映画を語る言葉が乏しすぎるんです。

--そういう思いを共有したいというお気持ちは分かる気がします。先ほどからお話を伺っていると本当に映画に対する深い愛情を持っているんですね。その分、現状の映画が置かれている状況、同業者の映画に対するスタンスについて憤っているようにも感じられますがいかがでしょうか?

現状に対する不満は大いにありますよ。映画に関わる仕事をしているのにあまりにも劇場で映画を見ていない同業者は本当に多いんです。映画は映画館で見てこそ意味があります。公開したその時の空気感を肌で感じること、最新作をフレッシュな状態で味わうことで共有する楽しさが生まれると思うんです。それに映画を見ることは僕らの仕事だとおもいます。

--なるほど、確かに制作者側は映画を見るのも仕事かも知れませんね。

作り手側が最新映画を見ていないことは不勉強と言わざるを得ないと思っています。例えば、監督や演出家が頭をひねって考えた演出方法が数年前にすでにやられていた、アイデアが被ってしまうということは往々にしてあります。でも新作をしっかり映画館で見ていれば「これはあの映画に先にやられてしまっていたな」とかが分かりますし、回避できるんです。

--確かにそうですね。でも、忙しすぎて映画を見る時間がないという人もいるのではないでしょうか?

本当にそうでしょうか。見ない言い訳はいくらでもできますよ。「時間がない」「忙しい」でも時間なんか作ろうと思えば作れると思います。その時間を作らないということは言ってみれば怠慢ですよ。

--なるほど、そう言われると確かにそうかもしれませんね。佐藤さんはメルマガ内でどんな基準で作品を紹介するんですか?

僕は、誰もが見るような超大作は扱いません。どの映画を見るか悩んでいる人の背中を押してあげるような存在になりたいんです。

--なるほど、どの映画を見ようか迷うことってけっこうありますからね。

例えば、僕は東京と大阪と全国で2カ所でしか公開していないような作品でも紹介するんです。でも、映画館でその作品が公開されているということは、絶対に“誰か”にとっては見るべき映画なんです。「この映画を好きだろうな」という人を想像しながら、その人に伝えるつもりで紹介しています。なぜなら、その1本がその人の人生を変えてしまうこともあるからです。

--そうですね、1本の映画で人生観が変わってしまうかもというお気持ちはすごくわかります。そういうのを見逃さないようにしたいですよね。

あと、映画ってある種のバイアスをかけてしまって見逃していることはあると思うんです。

--バイアスですか。

ええ、「どうせ面白くない映画でしょ?見なくても分かるよ」と見る前からバイアスをかけてしまうということはあると思います。でも、例えばその映画には最新のVFXが使われているとか、それだけでも見る意味がある作品も存在すると思うんです。そんな“見る意味のある映画”を僕の文章や画を見てもらうことで背中を押せたら本当に嬉しいですね。

--なるほど、それが原動力になってるんですね。でも毎週映画を1本紹介するってけっこう大変じゃないですか?

毎週1本しか選べないというのはプレッシャーですね。本当は見た映画は全てボールペン画で書いて紹介したいくらいです。

--精密なボールペン画を描くのも大変ですよね。どれくらい時間をかけて描かれるんですか?

そうですね、でもだいたい1時間ぐらいで書いていますよ。あえて時間をかけないようにしています。先ほども言いましたが僕にとってメルマガは楽しい「部活」なんです。でもいくら楽しいからといって本業を逼迫してしまうのはちょっと違うように思うんですよね。

--なるほど、確かに本末転倒ですね。では最後にメルマガを購読しようか迷っている方へ何か伝えたいことはありますか。

映画はぜひ劇場で見て欲しいです。僕自身、本当に映画が大好きで、どこの劇場でどんなシチュエーションで見たといった経験を鮮明に覚えています。やっぱり大きなスクリーンで体感することで映画はその人の心に深く刻まれるのだと思います。僕が寄稿している『入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」』は各人がその道の第一線で仕事をするプロフェッショナルばかりです。その人たちが独自の視点でセレクトした映画の中には必ずや“あなた”が見るべき映画があります。その映画を見逃さないようにして欲しいです。

--本日はありがとうございました。佐藤さんの映画に対する深い愛情が伝わってきました。

どうもありがとうございます。ぜひ入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」もチェックして頂ければ幸いです。

 

佐藤圭一郎佐藤圭一朗
ラインプロデューサーとして『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』、『新宿スワン』などの作品に参加。入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」ではボールペン画伯・佐藤圭一朗の1コマ劇場「映画・狂人画報」を連載中。

 

 

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