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孫正義が「危機」に備える2021年が到来、いったい何を恐れている?=栫井駿介

2020年も終わりに近づきました。2021年は一体どんな相場になるのでしょうか。それを占ううえで、ソフトバンクグループの孫正義会長が重大な発言を行っています。「手持ちのキャッシュを800億ドル(8.3兆円)用意した」など、何かに備えていることが伺えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

コロナ禍での株価上昇は「モラルハザード」

ソフトバンクグループの孫正義会長が重大な発言を行っています。以下は、11月17日に行われたオンライン・イベントでのものです。

「手持ちのキャッシュを800億ドル(8.3兆円)用意した」
「この2、3ヶ月であらゆる災害が起こり得る」
「大手企業が突然破綻して、ドミノ現象を起こす。最悪のシナリオに備える」

※参考:ソフトバンク孫正義氏「手元キャッシュ8.3兆円、楽観的だが短期的には突発事態も予測」- TechCrunch Japan(2020年11月18日配信)

この発言を見る限り、孫さんは足元の経済見通しに関してかなり悲観的であることがわかります。現実問題として、ワクチンの接種が始まったとは言え、新型コロナウィルスによる経済情勢の悪化は何も解決しておらず、冬になって日本を含む世界中で感染が爆発的に拡大している状況です。

イギリスでは、より感染力の強い変異したウイルスが拡大しているとされ、ジョンソン首相は再びロックダウンに踏み切りました。これが世界で猛威を振るうことになれば、ワクチンも果たして効果があるのかどうか疑わしいということになります。

一方で、このような状況を無視して今年の株価は上昇を続けました。ハイテク株に代表されるナスダック総合指数は年初から40%もの上昇(12月18日時点)を遂げたほか、ダウ平均も史上最高値を昨年に引き続き更新、日経平均もバブル期の最高値を更新するという有様です。

NASDAQ 日足(SBI証券提供)

株高の背景には、新型コロナウィルスによる経済悪化を見越した大規模な金融緩和や財政出動があります。各国は金利の引き下げや多額の無利子貸付、給付金の実施等により、お金を野放図にばらまいているのです。

政府は何が何でも倒産を防ごうと融資を強化するよう銀行に呼びかけていますから、どの企業も潰れようがない状況にも見えます。

企業が潰れる可能性が低く、そこに金融緩和によるジャブジャブのお金があるとすれば、投資家としてはノーリスクでお金を突っ込めるように感じるでしょう。それがモラルハザードとなっている側面も否めません。

しかし、このような状況で孫さんは「最悪のシナリオ」を想定しているのです。そのシナリオとは一体どのようなものなのでしょうか。

Next: 航空、観光、外食、アパレル…瀕死の業種は挙げればきりがない



航空、観光、外食、アパレル…瀕死の業種は挙げればきりがない

孫さんの発言から読み取れるのは、大企業が破綻し、それがドミノ現象となって企業が次々に破綻するということです。確かにまだ新型コロナショックによる経済を揺るがすような大規模な破綻は発生していません。

しかし、それは政府の過剰ともいえる融資に支えられた綱渡りとも言える状況にあるのかもしれません。具体的な業種を考えても、ヤバそうなところは次々に思い浮かびます。

例えば、航空業界です。一時はロックダウンによって、飛行機に客が全く乗らないと言う状況になりました。最悪の状況からは回復したとは言え、いまだに客足の戻りは鈍いものです。

国内線は、日本でもGoToラベルの影響などにより回復している部分もありますが、国際線はどうしようもありません。仮にワクチンの接種が世界的に開始されたとしても、大手を振って外国人を向入れられる状況はまだまだ先になることが予想されます。それまでは兵糧攻めされている城のようにギリギリの戦いを強いられているのです。

今は、政府やメインバンクの融資によって何とか支えられている状態です。しかし、どこかで政府が匙を投げるようなことがあれば、すぐにでも破綻してしまうというのが航空会社の現状です。日本だけでなく、世界中で同様のことが起こっています。

既に世界中で航空会社の破綻が起きています。ロックダウンが起きた4、5月にかけてだけでも以下のような航空会社が破綻しています。

・ヴァージン・オーストラリア航空
・ラタム航空(チリ)
・アビアンカ航空(コロンビア)
・タイ国際航空

このリストを見ると、政府に余裕のない国の企業からギブアップしている状況です。世界最悪の債務水準である日本にとっても他人事ではなく、財政の議論になるとすれば、槍玉にあがってもおかしくありません。極めて慎重な姿勢で見ていくことが求められます。

ヤバそうな業種は他にも挙げればキリがありません。観光、外食、アパレル、小売、エンタメ…コロナ禍が続く限り、余裕のなくなった企業から1社1社とギブアップしていくことが想定されます。その中に世界的にも巨大な企業が含まれてきてもおかしくありません。大きな企業が倒産すると、その負債を通じて連鎖倒産が起きると言うシナリオは十分に考えられます。

リーマン・ショックを連想させる「CLO」の肥大化

そんな中で注目に値するのが、CLOと言う金融商品です。これは様々な貸付をまとめた上で、細分化して投資家に売り出す、いわゆる証券化商品と呼ばれるものです。

証券化商品とは、あの悪名高きリーマン・ショックの元凶ともなったものです。その時は、アメリカの住宅ロー(サブプライムローン)を束ねた証券化商品(CDO)が金融市場に出回っていました。

そこへ住宅ローンの焦げ付きが発生したことで証券化商品の価格が大幅に値下がりし、最終的にリーマン・ブラザーズの破綻と言う形で金融危機もたらしたのです。

CDOとCLOで大きく異なるのは、裏付けとなる貸付が分散されていることです。サブプライムローンでは住宅ローンだけが対象になっていましたが、CLOはあらゆる業種に分散しています。それによって一部の業種が悪くても他のところが支えとなり、大幅な価格下落は起こりにくいと言うものです。

ところが現在のコロナ禍では、セクター分散というのもあまり意味をなさなくなっています。というのも、上記に挙げたように、あらゆるセクターで危機が起こっているからです。

そもそも融資を必要とする業種と言うのは、リアルな店舗を持っていたり、大量の設備投資を必要とするところが多いものです。それらは、好調なIT関連とは異なる、まさに従来型の業種と言うことができます。

緊張の糸が切れた時、それらの企業がバタバタと倒産してしまうということも十分に想定されるのではないかと考えます。そうなると、2018年の時点で流通残高が6,600億ドル(約70兆円)に及ぶCLOもただでは済まないでしょう。

なお、そのCLOを最も多く保有している金融機関が、日本の農林中央金庫と言われています。これに対して、日銀や金融庁は警戒感を示しました。ここが火薬庫となってしまわないことを祈るばかりです。

Next: 孫さんの姿勢を参考に。「ブラックスワン」は必ず現れる



「ブラックスワン」は必ず現れる

金融の世界には、「ブラックスワン」という考え方があります。白鳥の中に突然現れる「黒い白鳥」のことです。すなわち、予期しないところから突然現れる重大な事象のことをあらわします。

2020年の新型コロナウィルスの蔓延は、まさにブラックスワンだったと言うことができるでしょう。誰も予期しない突然の出来事によって、世界がガラッと変わってしまいました。このようなことが起こるからこそ、相場の予想というのはあまり意味を持たないのです。

2021年の相場がどうなるかわかりません。しかし、確実に言えることは、ひたすら上昇を続ける株価は無いということです。上がりすぎた株はどこかで必ず下がりますし、再びどこかから黒鳥が現れないとも限りません。そうなったときには株式市場は大混乱に見舞われるでしょう。

しかし、長い目線で見れば、一時的な混乱を経て長期的には株価は再び上昇に向かうものです。私のような長期投資家であれば、そのような混乱期に株を仕込んで、やがて来る上昇の果実を刈り取りたいと思っています。そんな時に買いたくなる素晴らしい企業を今は探し続ける時と考えます。

「長期的には楽観しているが、短期では悲観している」――孫さんもこのように言っています。この姿勢こそが、私たち長期投資家に求められるものです。足元は慎重に、長期的には明るい展望を持ってゆっくりと歩みを進めましょう。


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image by:glen photo / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月27日)
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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