新型コロナが日本の「デジタル分断」の問題を露呈しました。菅政権はデジタル化を進めていますが、ついて行けない情報弱者は切り捨てられ、先のGoToキャンペーンでも十分な恩恵も受けられませんでした。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年2月3日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
立ち遅れた日本のデジタル化
新型コロナが日本の「デジタル分断」の問題を露呈しました。
諸外国に比べて遅れたデジタル対応のために、コロナ感染者の追跡フォローができず、オンラインで業務を進めるにもコロナ情報を流すにしても、アナログ人間が多いために、これから取り残される「デジタル難民」も少なくありません。
日本でのデジタル化を進めるうえで考えるべき点が浮かび上がってきました。
新型コロナの感染者追及手段として、スマホのアプリを利用する国が少なくありません。中国がこれを使って感染者の特定、隔離に成功したと言われます。
日本ではスマホでこのアプリを活用する人が少なく、感染者のフォローには今ひとつ力を出せない状況と言います。また、接触、飛沫感染をさけるために、在宅勤務やオンライン診療などがすすめられていますが、その広がりが限られると言います。
日本ではマイナンバーカードの普及が進まないなど、先進国の中ではデジタル化が遅れています。セキュリティへの信頼度が低いこと、アナログになじんだ高齢者の割合が高いことが背景にあります。
「安全面の不安」「高齢化社会」が障壁に
キャッシュレス決済での詐欺事件などのたびに、日本のセキュリティ体制に不安が持たれ、奪われた預金や詐取された金品の補償が確立されていません。
このためネット通販などで暗証番号を登録することに躊躇する人も少なくありません。
またオンライン化で個人資産や病歴など、個人情報が漏れたり、これが悪用される懸念が払しょくできません。
それ以前にこれらの情報から、国家や自治体に監視されている社会を忌避する声も少なくありません。日本でデジタル化が進まない背景には、高齢者の割合が高いことと、安全面で様々な不安が残ったまま、利便性追求型の機能、技術が先行して進んでしまったこともあります。
Next: 情報弱者は見捨てられる?菅政権はデジタル化にまい進
菅政権はデジタル化にまい進
菅政権では、日本でのデジタル化の遅れを意識し、第3次補正予算で、ポストコロナに向けた経済構造の転換、好循環の実現と称してここに18.4兆円(財投込み)の予算を付けました。
コロナ対応分が5.9兆円であることから、いかに「ポストコロナ」に熱心かがわかります。
この中にマイナンバーカードの普及、学校のICT化促進、オンライン教育の充実に多くの資金を充てています。
しかし、健康保険証や運転免許証との一体化を歌ってマイナンバーカードの普及を進めようとしていますが、その狙いが行政の効率化で、国民の利益、不安解消には向いていません。
また学校でのオンライン化の推進は、コロナ禍での授業には必要ですが、デジタル化についていけない高齢者や貧困者には目が向いていません。
今の若い人は放っておいてもデジタル・ネイティブになる人々です。
取り残されたアナログ人間
これに対して、日本では特にアナログ人間が社会の流れから取り残されています。
スマホはもちろん、パソコンやインターネットから無縁な高齢者や、コストを払えずにブロードバンドにアクセスできない貧困者も少なくありません。
米国でもデジタル・デバイド(分断)が問題になっていますが、日本はさらにこの上を行っています。
デジタル機器をブラインドでも容易に素早く操れるデジタル・ネイティブと言われる若い人々と、高齢者や貧困者に多いアナログ人間との間のデジタル分断が日本では特に大きくなっています。
旅行するにも、旅行代理店に頼んで、ホテルや交通手段をとってもらい、「Go To」の対象かも聞かないとわからない人種と、スマホで瞬時に予約が済み、賢くキャンペーンを利用する若い人とが併存しているのが今の日本です。
コロナ支援もオンライン中心
政府はこうした分断社会の認識が不十分なまま、アナログ人種が生み出した「ハンコ社会」を否定し、すべてをオンライン化に向けて動き始めました。
特にコロナで人の動きを制限したい時期でもあり、オンライン(リモート)で処理できるように制度変更も進めています。若い人々には「当然」の対応で便利になりますが、アナログ人間には暮らしにくい社会になりつつあります。
給付金の申請もオンラインででき、病院に行くのが怖い人にはオンライン診療もできると言いますが、スマホもパソコンもない人には対応のしようがありません。
コロナの感染情報、予防情報など、政府が情報発信を渋る反面、ネット上には信ぴょう性の問題はあるにせよ、様々な情報が流れています。これにアクセスできるかどうかで、情報力格差が大きくなります。
街から公衆電話が消え、銀行店舗が減り、ネットやスマホで処理するように変わりつつあります。しかし、65歳以上の高齢者が国民の3分の1を占めるようになり、その多くがスマホやネット難民の状態にあります。今の日本では、コロナ支援が国民に広く行き渡るためには、効率が悪くても、オフラインで、あるいはアナログ手段でアクセスできる道を確保しておく必要があります。
Next: ITに疎い人は切り捨てか。情報弱者を救う2つの支援策
底上げと選択肢
デジタル化、オンライン化の流れに乗り遅れた情報弱者が日本にはまだ多く、これは新たな社会保障問題になりつつあります。
経済的弱者への対応と同様に、デジタル化に乗り遅れた情報弱者に対しても何らかの支援が必要です。これには2通りの考え方があります。
1つは、今の若い人のようなデジタル・ネイティブが圧倒的多数になるまでは、アナログ的な対応が可能な選択肢を残しておくことです。
もう1つが情報弱者に対するデジタル化教育支援で、情報弱者の地位から拾い上げる道です。高齢者施設に入所している人は、周りに世話をしてくれる人がいるので、情報弱者でもある程度生活できます。しかし、高齢者だけの夫婦や高齢者の独り暮らしでは、自力でデジタル化についてゆかねばなりません。二つ折りの携帯電話もいずれなくなり、スマホにとって代わります。
銀行の店舗が減り、ATMも近くにないと、銀行取引も不自由になります。ネット決済の安全性を高め、詐欺被害の際の救済制度を用意しつつ、一方で高齢者にもスマホやインターネット、オンライン取引を身近なものにする教育支援も必要です。
政府のデジタル化政策には、こうした点への配慮も必要で、しばらくの間はデジ・アナ併存の、選択肢を用意しておく必要もあります。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年2月3日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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