2021年3月1日にヤフーとLINEの経営統合が完了。両社とも新生Zホールディングスの傘下に入りました。孫正義氏が米国GAFA・中国BATなど海外の巨大プラットフォーマーを意識していることは間違いありません。「日の丸・ニッポン」のプラットフォーマーとして、海外勢にどこまで存在感を示すことができるのでしょうか。
プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi
米国GAFAと中国BATに対抗できるか?
LINEはヤフーと3月1日付けで経営統合を完了し、これによって巨大プラットフォームが構築されることになります。皆さんもLINEやYahoo!を使わない日がないほど、頻繫に利用されていることと思います。
数字で確認すれば、月間利用者数6,700万人の「ヤフージャパン」、月間8,600万人の利用者の「LINE」、累計登録者数3,600万人のスマートフォン決済「ペイペイ」が統合することになります。
結果、新生Zホールディングスは、上記の3つが連携し、国内総利用者数は3億超、国内総クライアント数は約1,500万、国内サービス提供数は200超、グループ従業員数は約2万3,000人という一大企業グループとして浮上します。
Zホールディングスの今回の統合の狙いは、米国の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)など、海外のプラットフォーマーを意識していることは間違いありません。
これらの海外勢のプラットフォームに対して「日の丸・ニッポン」のプラットフォーマーとして、どこまで存在感を示すことができるのでしょうか。
LINE・ヤフー統合で私たちの生活は「豊かに」なる
人類は経済成長という目的を果たし、幸福度もプラトー(一定)に入っています。そして、今のステージで求められているものが「効率化」です。
その効率化を体現しているものの1つがLINEでしょう。無料で簡単にコミュニケーションを取れる「お得感」や、煩雑さから解放されることで「時間的・経済的豊かさ」を感じることができます。
しかし、この豊かさをGDPのような数字で表すことは、まだできていません。そう、世の中にはGDPでは示せないけれど、「価値があるもの」が存在しています。つまり、GDP +(i)という新しい軸が必要なのです。
いまやほとんどの人が利用しているLINEとYahoo!が統合し、私たちの生活に魅力的なサービスが提供されることで、さらなる「豊かさ」をもたらしてくれると予想しています。
具体的にどんなサービスが展開予定なのかを見ていきましょう。
Next: 世の中はどう便利になる? 経営統合後の目指す姿と4つの注力分野
経営統合後の目指す姿と注力分野
3月1日の新会社発足の戦略説明会では、経営統合後の目指す姿を「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」としています。
今後5年間で、5,000億円規模の戦略投資と、5,000人規模のAI(人工知能)人材を登用する計画が明かされています。
具体的に、強化セグメントは4つの分野です。
1.eコマース(電子商取引)
2.飲食店・旅行予約
3.フィンテック
4.行政・防災
1つ1つ、見ていきましょう。
注力分野その1:eコマース
「LINE」を活用した新しい買い物の体験の提案をしています。
「LINE」で誕生日などに友だちにギフトを贈ることができる「LINEギフト」の機能は利用したことはありますか?
私は、昨年のクリスマスに友人から「スープストック」のスープセットをLINEギフトのプレゼントでもらいました。メッセージには「まぶっちゃん。メリークリスマス!スープでも飲んで身体をあっためて」とありました。コロナでしばらく会えていない友人からのLINEギフトには、心温まるものがあり、深く印象が残っています。
この機能は将来的に「Yahoo!ショッピング」などと連携し、多くの商品から贈り物ができるようにしていくようです。効率的ですが、どこか人間らしさを感じるサービスです。
そのほか、コロナで盛り上がりを見せており定着しつつある「ライブコマース」を見ながら「共同購入」できる機能も展開していきます。インフルエンサーが紹介している動画を一緒に見ている人と交流して「共同購入」することで、商品を安く購入できます。
そして、オンラインと実店舗を連携した「X(クロス)ショッピング」にも取り組んでいきます。オンラインで購入した商品を店舗で受け取ったり、店舗の商品をオンラインで予約するなど、欲しいものを欲しい時に欲しい場所でお得に購入できる世界の実現を目指していきます。
中長期的にはオンラインに加え実店舗においても、ダイナミックプライシングでお得に購入できる「My Price構想」を検討しています。
注力分野その2:飲食店・旅行予約
飲食予約や旅行予約などでは「Yahoo!ロコ」「一休.comレストラン」「LINE PLACE」などの複数のサービスからの予約・送客や、AIを徹底的に活用することで、ユーザーとのマッチング精度の向上を目指していきます。また、フードデリバリー「出前館」の日本最大規模のデリバリーインフラの活用を検討しています。飲食予約、旅行予約のある意味「DX」を担っていると言えます。
広告においては「Yahoo! JAPAN」「LINE」「PayPay」が連携することで、事業者向けに新たなマーケティングソリューションを提供していきます。これも、プラットフォーム力の効果が大いに発揮される分野でしょう。例えば、「Yahoo! JAPAN」や「LINE」のメディア上などで広告を配信し、特定の商品を購入した方だけの、お得なクーポンを届け再購入を促すなど、効率的かつ継続的にアプローチすることが可能になります。企業にとっては無駄な広告を減らして、効果の高いマーケティングが可能となります。
ユーザーにとっては、ノイズの少ない情報を受け取ることができるようになります。広告が「うるさく」感じることも多くなってきています。これも、直接的な数字に表しにくいかもしれませんが、「ストレスのない広告」も人々の「豊かさ」に通じるものがあります。
Next: PayPayとLINE Payは統合へ。無駄を省き、価値あるものは残す方針
注力分野その3:フィンテック
今回の経営統合によって、決済分野で「PayPay」と「LINE Pay」が競合していますので、ここは統合を行っていきます。重なっていて、「ムダ」や」複雑さ」を生むものは統合していく方針です。
「決済」は消費者のすべての行動を抑える部分で、eコマースでモノを「買う」、レストランや旅先の「予約する」、そして「支払う」といったユーザーのアクションでお金が動くわけです。
また、LINEで給料の振り込みが可能になれば、お金の流通の流れがZホールディングスの中で完結してしまうことも十分にあり得ます。
ちなみに、決済事業は統合の方針ですが、「ヤフーニュース」と「LINEニュース」はそれぞれ残すとしています。経営統合したからといって、何でもサービスを統合すれば、いいというわけではなく「価値のあるものは残していく」経営判断をしています。
さらに、フィンテックに話を戻すと「決済」だけでなく、Zホールディングスは「銀行」「証券」「保険」「カード」までも押さえています。
銀行は「ジャパンネット銀行」(4月5日からPayPay銀行)、22年開業予定の「LINEバンク(LINEとみずほフィナンシャルグループの共同出資銀行)」、証券は「LINE証券」、保険は「Yahoo!保険」と「LINE保険」があり、クレジットカードは「Yahoo!カード」があります。
これらの事業を横断的に活用することで、ユーザーのニーズに合わせた、金融商品やローン、保険なども提案できるわけです。
注力分野その4:行政・防災
最後の注力分野は「行政DX」「防災」という社会課題の解決に取り組んでいきます。
21年中にYahoo! JAPANのサービスや「LINE」上で、行政手続きの情報の拡充と、内閣府の「マイナポータル」と連携した行政手続きのオンライン申請サービスを開始します。
行政の手続きは煩雑で、分かりにくいものが多いですが、LINEを利用して情報収集と手続きができるようになれば、効率化が進むことが期待できます。
また、災害の多い日本で、防災の情報は価値が高まるものとなっていきます。
平時における生活エリアの危険度チェック、災害警戒時のパーソナルタイムライン、災害発生時の避難案内、復旧・復興時の支援マッチングなど、防災にまつわるさまざまなステージにおいて、最適な情報を提供してくれます。
Next: 「すべてで業界ナンバーワンを目指す」孫正義会長の構想が根幹にある
「すべてで業界ナンバーワンを目指す」孫正義会長の構想
最後に、いつも私は、物事の1番根幹が何かを見るようにしています。
Zホールディングスはソフトバンク傘下であり、さらに、その上にはソフトバンクグループの孫正義会長という存在があります。
今回の経営統合の頂点にいるのはソフトバンクグループの孫さんです。孫さんの考えはすべてにおいて、業界のNo.1でなければならないのです。
そう考えれば、今回の経営統合は、eコマース含めてNo.1プラットフォーマーたちをソフトバンクグループの中におさめるという、孫さんの構想の1部分であることがわかるでしょう。
技術的な快適さと経済的な富を得た先の、「未来都市」に私たちは向かっています。
次のフェーズで、No.1プラットフォーマーになるためには、「真の意味で豊かさを感じる」サービスを提供できるかどうかがカギとなります。次の時代の「覇者」となるべく、GAFAもここを見据えているのではないでしょうか。
私たちの生活に密着した巨大なプラットフォーマーである新生Zホールディングスは、果たして覇者になれるのでしょうか。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年3月17日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による