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なぜ日本人の賃金は上がらないのか?本当に低かった生産性、「手取り13万」がトレンド入りする現実=原彰宏

日本の実質賃金は1970年代から下がり続けています。なぜ上がらないのか?日本人は生産性が低いとも指摘されていますが、それは本当か。給料が上がらない原因と解決策を考えます。ツイッターでは「手取り13万」というワードがトレンド入りして物議を醸しています。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年10月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

先進国で唯一「賃金が上がらない」日本

先進国という地位にあっての日本の課題は、「最低賃金」の低さです。

ここ25年間、労働者の賃金は先進国で唯一、日本だけが上がっていない……そんなことをよく耳にしませんか。

日経新聞電子版、2021年7月14日の記事です。

中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は14日、2021年度の最低賃金を全国平均で28円を目安に引き上げ、時給930円とすると決めた。28円の引き上げ額は02年度に時給で示す現在の方式となってから過去最大で、上げ幅は3.1%だった。ただ、主要先進国ではなお低い水準にとどまる。デジタル化などで生産性向上を進める必要がある。

出典:最低賃金3%上げ、全国平均930円 28円増を審議会決定 – 日本経済新聞(2021年7月14日配信)

28円の賃上げは“過去最高”の水準だそうです。最低賃金は1,000円にも満たないのです。

経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、日本の平均賃金は1990年の3万6,800ドル強から2020年に3万8,500ドル強へと、約1,700ドルしか増加していません。

一方、米国は4万6,900ドル強から6万9,300ドル強へと上昇しました。

主要7カ国(G7)で日本より低いのは、イタリアの3万7,700ドル強だけです。

日本はOECD加盟の38カ国平均よりも1万ドル超も下の水準に甘んじ、4万ドルを超えている韓国の後塵を拝しているとの指摘があります。

1人あたりGDP「世界1位→24位」へ転落

また、国際通貨基金(IMF)のデータによれば、日本の2020年の1人あたり国内総生産(GDP)は4万89ドルと世界24位で、1993年には1位でした。

1人あたり国内総生産(GDP)は、国民1人あたりの“豊かさ”を示すものだとされています。

1ドル110円として日本円に換算してみますと、以下のようになります。

2020年の日本の平均賃金は3万8,500ドル → 423万5,000円(米国515万9,000円)
1990年から2020年まで、30年かかって1,700ドルアップ → 18万7,000円アップ
2020年の1人あたりGDPは4万ドル → 440万円

最低賃金28円アップに中小企業「心が折れた」

今回の最低賃金28円引き上げで時給930円にすることが決まったことを受けて、中小企業団体は「心が折れた」というコメントを出しています。

日本商工会議所など中小企業3団体のコメントは、「極めて残念であり、到底納得できない。多くの経営者の心が折れ、雇用に深刻な影響が出ることを強く懸念する」。

また、全国労働者の団体である「連合」の冨田珠代総合政策推進局長の記者会見コメントは、「コロナ禍でも最低賃金を引き上げていくことの必要性が受け入れられた」「連合がめざす『誰もが時給1,000円』に向けて一歩前進した」です。

これを見てどう感じられますか?開いた口が塞がらないのですがね…。

Next: 日本の貧困化は明らか。物価上昇に追い付かない賃金上昇



物価上昇率に賃金上昇率が追いつかない

物価上昇率を見てみますと、政府統計の消費者物価指数(CPI)総合によれば、年平均比較だと、上記賃金比較の年を合わせると、1990年から2020年に至るまでの30年間での物価上昇率は「10.6%」ということになります。

賃金上昇率が30年間で1,700ドルアップは「4.6%」になりますので、日本物価上昇に賃金アップが追いついていない。

つまり、データ上では、1990年から30年間は、生活が厳しくなっていることになります。

「生鮮食品を除く総合」での物価上昇率は「10.1%」、生鮮食品及びエネルギーを除いた場合は「9.3%」、持家の帰属家賃及び生鮮食品を除いたら「9.8%」の物価上昇率となっています。

ですから、いずれにしても「4.6%」の賃金上昇では、とても追いつかないことになります。

日本人は1990年から年々“貧しくなっている”

日本人は、1990年から年々“貧しくなっている”ということになります。

それでもデフレだったので、デフレの申し子である「100円ショップ」や「吉野家の牛丼」「コンビニ弁当」にはずいぶん助けられています。

円高であったこともあり、輸入コストは低く抑えられていたので、生活はなんとかなったのでしょうね。事実、若者の間では、生活満足度が高いというデータもあります。

ただ、アベノミクスで円安になり、原材料費が上がる事による物価高「コストプッシュ型インフレ」が進行して、賃金上昇がない現状がクローズアップされてきました。

経済を考えればデフレはまずい、でも生活を考えたらインフレのほうがまずい…。

今選挙で盛んに各党「デフレからの脱却」と言っていますが、この状態で本当にデフレを脱したら、物価上昇だけが進んで、ますます私たちの生活は「苦しくなりゃあしませんか…」ということになりかねませんよね。

生活を守るという観点から見て、デフレが良いのか、インフレが良いのか。賃金アップは実現するのか。

各党選挙戦では最低賃金引き上げを“お題目”にはしていますが、具体的な対策は見えてきません。

まだ「れいわ新選組」は、企業への補助金で最低賃金を「1,500円」にするとしていますが、その政策にしても財政面から継続性が問われますし、そもそも本質の解決にはならないですよね。

Next: 韓国やニュージランドより低い労働生産性。どうすれば賃金は上がる?



日本人は生産性が低かった

公益財団法人日本生産性本部は12月23日、「労働生産性の国際比較2020」を公表しました。

「労働生産性の国際比較2020」では、2019年の日本の労働生産性(時間あたりおよび1人あたり)の国際的に見た位置づけや2018年の製造業における分析と併せて、コロナ禍を受けた2020年4~6月期の動向についても考察しています。

労働生産性とは、土地や設備に原料、そして人的コストに投じた資金に対して、どれだけのものが生まれて売上がたったかという割合のことです。労働人数あたり、もしくは労働時間あたりの成果ですね。

企業などが従業員に対して行う施策は、この「労働生産性」を指すものが多いです。

労働生産性の上昇により労働者1人が生み出す付加価値が増加すれば、労働分配率を一定とした場合、その付加価値の増加分の一部は賃金に分配されるため、労働生産性の上昇とともに、実質賃金は上昇することになるということです。

つまり、日本企業の労働生産性が上がることで、労働者賃金は上がるということになります。

日本の時間あたり労働生産性は「47.9ドル」で、OECD加盟37カ国中21位だということです。これは極めて「低い地位」と言わざるを得ません。

47.9ドルは「1ドル110円」で換算するとと、「5,269円」になります。米国(77.0ドル/8,470円)の約6割の水準になります。

名目ベースでは前年から5.7%上昇したものの、主要先進7カ国でみると、データが取得可能な1970年以降、最下位の状況が続いています。

就業者1人あたり労働生産性は81,183ドル(893万円)です。

韓国やニュージーランドよりも低い日本の労働生産性

これは、韓国(24位・82,252ドル/905万円)やニュージーランド(25位・82,033ドル/902万円)とほぼ同水準で、名目ベースでは前年を3.4%上回ったものの、順位でみるとOECD加盟37カ国中26位と、1970年以降最も低くなっているのです。

韓国やニュージーランドよりも“下”ということです。

製造業だけで見てみますと、日本の製造業の労働生産性は、98,795ドル(1,087万円)で、日本の水準は、米国のおおむね3分の2にあたる。ドイツ(100,476ドル)や韓国(100,066ドル)をやや下回るものの、英国(97,373ドル)を若干上回る水準となっています。

日本の生産性水準は2年連続で上昇していますが、順位でみると、OECDに加盟し計測に必要なデータを利用できる主要31カ国の中で16位にとどまっています。

つまり、日本の賃金が上がらないのは、日本企業の労働生産性が上がらないからだということになります。

1人の労働者が生み出す財が伸びていない、実に「非効率な状態」であるということです。

Next: 加速する人口減少。日本が豊かになるには生産性を上げるしかない



日本はもう「貧しい国」

人口減少が進む日本において、生産性向上は喫緊の課題です。人口が減っているのに労働生産性が上がらないということは、経済発展においては「致命的」と言えますね。

日本は経済規模ではGDP世界第3位を誇りますが、1人あたりGDPは4万89ドルと世界24位(2021年IMF調べ)です。つまり、1人あたりの経済指標を見ると、日本は今では世界のトップレベルでも何でもない「凡庸な先進国」というレベルです。しかも、現在進行形で、どんどん他の国に抜かされている状況なのです。

「GDP」はその国の豊かさの指標。もう日本は「豊かな国」ではなくなっていっているということになります。

「平均賃金」「1人あたりGDP(豊かさ)」「労働生産性」から考えて、日本はここ30年で“貧しい”国になってしまったのです。

少なくとも“豊かな国”ではないということが明らかになってきました。

「労働生産性が低い」ということは、日本は1時間あたりに稼ぐ付加価値が低い国であるということになり、それゆえ、世界に比べて賃金が安い労働者であるということが言えます。

このこととは関係なく、「働き方改革」の名のもとに、日本の労働者の労働時間は減っていっています。

「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」

さて、賃金にかかわる「労働生産性」を、もう一度考えてみましょう。

労働生産性は、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」に分かれます。労働生産性を定量的に表すことで、現状の生産性を知ることが可能です。

「物的労働生産性」とは、作物や製品の個数や重量を成果物として考えるもので、労働者1人あたりの労働生産性を計算する場合は、「生産量 ÷ 労働者数」という式を用います。

労働生産性と言えば、この数式が一般的に用いられるようで、ようは「1万個の製品を作るのに労働者100人を要するとしたら、労働者1人あたりの生産性は100個分」となります。

労働者50人で1万個の製品を作ることができれば、生産性は上がりますね。

「付加価値労働生産性」とは、製品を作るのに掛けたコストに対しての利益、例えばコスト100円で売価200円なら、利益100円が「付加価値」となります。

労働者1人あたりの生産性は、この利益総額を関わった労働者数で割ればよく、時間あたりの生産性となれば、分子は利益総額ですが、分母は「労働者数 × 製造にかかった時間」となります。

労働生産性を上げれば、賃金は上がる

政府内閣府の「年次経済報告書」には、労働生産性と賃金の関係を説明したレポートがあります。

それによると、「労働生産性の上昇により労働者1人が生み出す付加価値が増加すれば、労働分配率を一定とした場合、その付加価値の増加分の一部は賃金に分配されるため、労働生産性の上昇とともに、実質賃金は上昇することになります」とあり、労働生産性と実質賃金の伸び率には比例的な関係にあると説明しています。

これまでに述べている通り、賃金上昇には、労働生産性向上が必要であることが伺えます。

Next: なぜ日本の労働分配率は落ちたのか?手取り13万円が増えるのは必然



日本の労働分配率が低下したワケ

ただ、世界的に見ても、労働分配率は低下している傾向にあります。その背景について、前述のレポートでは3つのことを指摘しています。

「第一は、技術革新によるICT関連の資本財価格の相対的な低下です。コンピュータや通信機器の価格が急激に低下したことで労働の一部が機械に代替された可能性が指摘されています」

「第二は、自国の 労働集約的な産業がアウトソーシングにより海外に移転したことによる影響です」

「第三は、短時間労働及び 非正規労働の増加などの影響です」

この3つを指摘したうえで、レポートは「技術革新は労働生産性を高める一方で、一部の労働を代替することで労働分配率を低下させる可能性もあることを考慮すると、技術革新に対応できるような人材育成をすることも重要です」としています。

なぜ、これまで日本の労働生産性は上がってこなかったのか…。

この問題は奥が深く、デフレ経済との絡みもあります。すごく大事な問題で、「日本の大きな課題」ともいえるものです。いったいどうすれば解決するのでしょうか?

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