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勝負に勝って戦いに負けた舛添要一 品格なき知性、奸計による挫折=吉田繁治

舛添都知事が辞任の意向を示しました。自民党による不信任案に発展した原因は、本人の対応の拙さにあります。当初から「自分の嘘は見破られない」との過信がありました。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2016年6月15日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

「自分の嘘は見破られない」過信で墓穴を掘った舛添氏

策士、策に溺れる

リオデジャネイロオリンピックが終わる9月までは、無給でも続けさせてくれと泣いて頼んだ舛添東京都知事でしたが、不信任案提出を止めることはできず、ついに辞任の意向を示しました。

時間を戻すことはできませんが、支持母体である自民党による不信任案に発展した原因は、本人の対応の拙さにあります。当初から「自分の嘘は見破られない」と判断していたのです。

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頭がいい」ことを自任する嫌味は、舛添要一氏の幼少からの基本性格です。嘘を言っているという意識ではなく、法の抜け道を探すということだったのかもしれません。

「頭がいい」とは、
(1)事実の記憶量の多さ
(2)事実および事実の認識から浮かぶ想像を、言葉(一般概念)にして論理化する能力の高さ
でしょう。

小説家は、観察したことと想像したことを概念(言葉)にして書いています。考えながら書く論文も同じです。小説も論文も、その中の個々の概念が、論理でつながっています。

舛添氏の論理化能力の高さが、普通なら言い逃れができないことへの言い訳・嘘を作り、それとは反する事実が明るみになって、悲惨なまでに論理崩壊したのが原因です。才は、才で倒れます。

得意と自認していることが、人を滅ぼすことが多い。健康に自信があり、無病息災で病院に行ったことのない人が、知らぬ間に症状が進み突然死するようなものです。企業も同じです。自信が慢心になり、企業を滅ぼします。品質の企業は、品質への慢心で滅びます。

検事は、社会的な立場の高い人、誇り高い人、頭のいい人を自白に落とすのは簡単と言います。一点の論理矛盾を突き付けると、全面崩壊するからです。矛盾を突き付けられても平気な人は、最後まで自白しない。舛添氏にとってのそれは、スパホテルでの数十万円の支出でした。

「舛添要一」という人格の成り立ち

「頭がいい」そのコアの周囲に、巻き付くように舛添氏のキャラクターは作られてきました。こうした人物はプラスのことで能力を発揮する場合もあります。しかし都合の悪いことを追及されると、自分の行動を瞬時に正当化し、言い逃れるための奸計(かんけい:わるだくみ)を作ってしまいます。この奸計と事実の矛盾が、自滅的な失敗を生みました。

舛添氏にもっとも近かった親族とかつての夫人、そして自民党の政治家たちから評判が悪いのは、言い逃れるための奸計が多かったことを知っているからでしょう。

品格のない知性が発達したのが舛添氏でした。品を欠いた知性は、ナチスの天才ヨーゼフ・ゲッベルスのような安全装置のない銃です。いずれ自分を滅ぼします。

舛添氏は、東京大学法学部での4年間の成績が全部「優」だったようです。全優を取るにはコツがあります。必要な単位よりも多くの講義を受講し、ダメなものは「不可」になるように答案やリポートのレベルを下げる。あるいは試験に出ない。

この大学の成績は、優、良、可、不可の4段階ですが、良と可をとらないようにします。当時は、相当の出席があれば必ず優をくれる教授も多かった。休講も頻繁でした。全優は、就職での有利を保証します。(※編注:筆者の吉田繁治氏は東京大学仏文科卒)

政治資金の支出を見ると、全優の成績に恥じず、普通なら行わないことまで実に細かく、本人としては巧妙なつもりで行っています。これが他のすべてを代弁しています。

Next: ディベート上手が裏目。とっさに思いついた反論が命取りに



ディベート上手が裏目。とっさに思いついた反論が命取りに

とっさに思いついた奸計が、舛添本人に、追及されていることの本筋を間違えさせました。「本当はどうだったのか」という質問に対し、政治的なディベートのように対応してしまったのです。

舛添氏は、厚生大臣のときも人に任せず、自分で聞き、すべてを行う性格でした。今回もこの性格のため、過去に自分が言った言葉と事実の矛盾で追い詰められたのです。

普通なら使わない「事務方が上げてきた」という表現(「最大の反省はこれまでの前例を踏襲して、事務方が上げてきたものを何のチェックもしてこなかったことであり、きちんと改めたい」)には、部下への傲慢な接し方が見えます。

公用車の私用は、内部告発だったでしょう。飛行機のファーストクラスやラグジュアリーホテルのスイートルーム利用は、石原慎太郎元知事が始めたことです。

「気温が低いときには?」

また、シルクの中国服購入は、依頼された色紙に揮毫するためのものであり、政治資金規制法が認める政治活動の支出になるというお笑い論理まで作ってしまった。この記者とのやりとりは実に面白いものでした。

自分は柔道をしているので肩の筋肉が張っている。背広では窮屈でひっかかるが、シルクの中国服は生地がツルッとしていて毛筆の字が書きやすいから買ったという。

ここで記者から「袖のない服を着れば?」と問われた舛添氏は、一瞬、虚をつかれて、こう言いました。

気温が低いときには?

ディベートのときのように反論を思いついたのです。記者の間で、期せずして笑い声が起こりました。嘘の上に嘘を正当化する言葉を発したからです。

嘘を正しいと言い張る舛添氏には、この笑いの意味が分からない。子供のように口をすぼめ、「なぜ笑うのだろう」という表情でした。

さらには「十分に説得的で、政治活動の経費として納得できる」と是認したことが、“ヤメ検”の佐々木善三弁護士の信用をも落とし、この人も「関係者は関係者です」という名言とともに、一挙に、喜劇的人物に落ちてしまいました。

「関係者は関係者です」が表現するのは、弁護士は依頼人の不利につながる名前は言えないということでしょう。これが事実認定をしていないということの間接証明になりました。またこの表現で、「舛添氏の言うことを保証する関係者がいない」ということも示したのです。

舛添氏が、「厳しい」という余計な形容詞をつけた「第三者」としての立場は、依頼した弁護士にはあり得ません。このとき、「厳しい第三者の目」によるとした政治資金報告書の検証の信用も崩壊しました。

Next: 舛添氏幼少時代の貧困と、既存の権威への媚びへつらい



幼少時代の貧困と、既存の権威への媚びへつらい

幼少のころ貧困だったという舛添氏は、逆に、既存の権威(エスタブリッシュメント)を崇める性格をもっています。

このため、「元特捜検事から政治資金支出について厳しい追及を受けた」と言えば、メディアは服従すると世間知らずに考えたのでした。これも、佐々木善三弁護士の不用意な、したがって彼の過去の検事としての仕事の本質を現していると思える言葉により崩れたのです。

舛添氏は「立場が上になると人を見下す」下司(げす)な性格をもっています。氏が『朝まで生テレビ』などメディアに出始めたころでしたか、同僚だった助教授に聞いたところ、一言「あいつはねぇ、イヤな奴だよ」とのことでした。彼には支援する友人もいません。

ディベートには勝てるという自信から出たと思われる、奸計でしかない言い逃れなどしなければよかったのです。「政治資金報告書への計上に、認識違いと間違いがありました」と言うべきでした。「間違いはない」と言い張ったことが舛添氏を誤らせたのです。

舛添氏は、生来、詭弁の言い逃れを含むディベートに強かった。ソクラテスが唾棄した、ギリシア時代のソフィスト(詭弁家)の知性です。

「言い逃れ対応」の多さ、奇妙な論理と事実の矛盾が、メディア・都民・議員に嫌悪感を含む反感を生じさせ、都民アンケートで95%が辞任を求めるに至ったのでしょう。

しかし、メディアを通じてしか機会がない国民には、これまで実態が見えなかった。このため舛添氏は「権威」を論破する知性と見られて人気を得ました。舛添氏は200万票とれるのは自分だけだと豪語していました。票が政治権力を与えたのです。現在は何票でしょうか。1万票もない。
(注)自民党内の権力も獲得票の序列で決まります。代議制における政治的権力は国民が与えます

「間違えて計上した」とは決して言えなかった理由

しかし舛添氏には、私的支出を政治活動への認識の誤りから間違えて計上していたとは決して言えない理由がありました。後述しますが、政治団体への自分の寄付が所得控除されるという仕組みを利用して、事実上の脱税を行っていたからです。

Next: 舛添氏が龍宮城スパホテル三日月で犯した大誤算とは



舛添氏が龍宮城スパホテル三日月で犯した大誤算

他にもいろいろありますが、千葉県木更津市の龍宮城スパホテル三日月に絞って解説します。普通の時期は、夕食込みで1人1泊1万2000円から、豪勢なら3万3000円程度です。正月は2倍でしょうか。普通の人が行くところです。

このスパホテルで、しかも元日に政治的な会合とは、いかにも変です。「関係者は関係者です」の言葉を借りると、「不自然なものは、やはり不自然」です。

(1)最初の間違い

政治資金の支出は、すべてルール通りに行っていて問題はないと会見で言明していました。「見つかることはない」と考えていたからです。

それに他の多くの政治家も、程度の差はあっても、同じようなことを行っているからです。

政治資金規制法では、政治家が作る政治資金団体での資金の入りについては、1件5万円以上の寄付(政治献金)、政治資金パーティー、政党助成金などを記載するという規定があります。
(注)1994年に始まった公的な政党交付金は、1年間で320億円です。2013年には自民党が150.6億円、民主党が77.7億円でした。衆参の議員1名当たり換算では、年間で4500万円という大きさになるでしょう。政党が得票率2%、または議員が1名以上という交付条件を満たさなくなって、舛添氏のように政治団体で受け継ぐとき、政党助成金になります

ただし支出については「政治活動費」として、政治団体宛に受け取った領収書をつければいい(地方議員は1件5万円以上)。
(注)この支出でも、選挙関連での地元や支持者への寄付や便益の供与、不動産等の購入、および投機的な運用は禁じられています

総務省は政治活動費として中身が適当かどうか、税務署のような経費の審査はしていません。あらゆる飲食費も相手がある会食なら、政治活動と言うことができます。「ザル法」と言われるゆえんです。

人と会うことも含まれる政治活動の定義は難しい。1人20万円はかかる料亭での私的な会食も、必ず会話があるので、政治活動になり得ます。

ここから、毛筆で揮毫をするのは政治活動、そのとき使うのは政治活動費とも言えるという、常識にはそぐわない論理が作られます。
(注)法は、もとをたどれば社会の「常識」からできるものですが、政治資金規正法は非常識です

Next: 領収書の矛盾を突かれ“落とし穴”に陥った舛添氏



(2)支出規定の穴を狙い、家族の支出を「政治活動費」に

政治活動費にするには、家族以外の人との会談、会議、会食などがなければならない。このため舛添氏は「ホテルで会合をした」と言い切ってしまった。この時点では、事実の認定はできないと考えていたからです。

(3)“落とし穴”に陥った舛添氏

ところが、宿泊のときに書いて示す領収書の宛名は、舛添氏の政治団体でした。宿泊時点で、政治資金として支出することを決めていたからです。

しかし舛添氏は、「元日の午後、宿泊していた部屋で出版社社長との会談」があった、このため、チェックアウトで支払うときに政治団体の名前にしてもらったと言う。

そしてその政治団体名が書かれた領収書はプリンターで印刷されたものでした(公開される政治資金報告書に添付)。これにより、最初から政治団体名で予約したことが判明したのです。

(4)「領収書の宛名」に矛盾

メディア関係者がホテルで確認したところ、チェックインのときに書く領収書の宛名を、チェックアウトのときに変更すれば手書きになることが分かった。「会合があった」という立論は、物的な証拠から崩れ、どうにも言い逃れができなくなって都知事を辞任したのです。

全部がひっくり返った

政治資金の支出はルール通りであると言い切ってしまったため、それに反する事実が出たとき、「他のすべても嘘」とひっくり返ってしまいました。

当初から、法に詳しくないので政治資金としての妥当な支出への認識に誤りがあったかもしれない。私的な支出を政治資金から出してしまう誤りを犯していたかもしれない、という姿勢なら、メディアと世論の風向きは変わっていたでしょう。

他の政治家も、舛添氏ほど多くはなくても、類似のことを行っているのは知っているからです。

問われていることへの認識の誤り

本人は周到なディベートと思っていた詭弁の過程で、舛添氏に選挙民が寄せていた信頼が崩壊しました。常識に反する見苦しい詭弁を使う人は、今後も何をするか信用できないと連想されるからです。古来から言う、自ら堀った墓穴でした。

「あんなにウソばっかりついて他人を傷つけて、いつか要一は手痛いしっぺ返しを食らう」と日ごろから言っていたという舛添氏の亡き母は、未来を知っていたように思えます。


※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2016年6月15日号を一部抜粋・再構成したものです。メルマガでは今回ご紹介した以外にも、以下の内容を詳しく解説しています。

政治団体への寄付の所得控除と、政治活動費の関係

追及を受けた舛添氏が異常にしぶとく粘った原因は、私的支出が、刑事罰を受ける脱税にも発展しかねないからだった

国会議員には、タックスヘイブンと株取引の禁止が必要

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ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2016年6月15日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、本文見出し、太字はマネーボイス編集部による

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