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年に一度の「プライムデー」3つの事実と、アマゾンの真の狙いとは?=シバタナオキ

7月11日、Amazonのセールイベント「プライムデー」が行われました。過去最高の売上を記録したというその結果と真の狙いについて、公表されている数字から考察します。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)

※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年7月26日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:シバタ ナオキ
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。

3つの数字で読み解く、Amazonセール大成功の裏にある真の狙い

セールイベントには必ず目的がある

Amazonは年に1度「プライムデー」という名前でセールイベントを行っています。今年は7月11日に30時間のセールイベントとして行われました(前年までは24時間のイベントでした)。

出典:amazon

そのプライムデーの結果とAmazonの真の狙いを、公表されている数字などから考察してみたいと思います。

Amazonだけではなくて、日本の場合で言うと楽天やヤフーショッピングなどがセールイベントを実施することがありますが、セールイベントを実施する際には必ず狙いがあります

例えば、「具体的にこのKPIを改善したい」、あるいは「こういったカテゴリーの商品を売りたい」といったような運営側の狙いがあるわけですが、今回のプライムデーではAmazonはいったい何を狙っていたのでしょうか?

端的に数字に現れた3つのポイントを紹介したいと思います。

1:取扱高はYoY+60%

Amazonのプレスリリースによると、プライムデーの取扱高は以下のように増加したという数字が発表されています。

  • 前年のプライムデーと比べて取扱高がYoY+60%
  • プライムデーに購入したプライムメンバーはYoY+50%
  • サードパーティーの店舗による売上は取扱高ベースでYoY+60%、商品数ベースでYoY+50%

ここで注目すべきは全体の取扱高が増えただけではなくて、サードパーティーの出店店舗による取扱高も大きく伸びているという点です。

特にアメリカでは、Amazonはもはやファーストパーティーの直販だけではなく、サードパーティーの出店店舗まで含めた日本で言うところの楽天やヤフーショッピングの様なマーケットプレイスとしても経済圏が大きく成立しているという事実です。

そしてこのサードパーティーの出店店舗の在庫をAmazonのフルフィルメントセンター(Amazon独自の配送センター)に預けて、プライムでの配送対象にすることもできるという点が最も重要な戦略的な狙いです。

2:プライム会員数は8,500万人へ(1年間で2,000万人増)

Business Insiderによると、プライムメンバーの1日での加入者数が過去最大となったという報道もありました。

  • プライムデーにプライムメンバーに加入したユーザー数は過去最大
  • 現時点での推計プライムメンバー数は8,500万人

推計ではありますが、現時点でのプライムメンバー数は8,500万にも上ると言われています。

Amazon has around 80 million reasons to be excited for Prime Day – Business Insider(2017年7月17日配信)

そして今回のセールイベントの名前が「プライムデー」となっているように、プライムメンバーは通常メンバーより、さらにお得になるセールイベントでした。

Amazonにとってプライムメンバーは非常に重要な位置付けです。図の左上にあるようにプライムメンバーは年間平均1,300ドルの買い物をします。これは非プライムメンバーの年間購入額の700ドルの約2倍となっています。

つまりプライムメンバーを増やすことは、1ユーザーあたりの取扱高を増やすことに他なりません。

Next: なぜ赤字覚悟で前年同日比7倍ものAmazon Echoを売り捌いたのか?



3:Amazon Echoは前年同日比7倍も売れる

前述のプレスリリースで公表されている数字をさらに見てみたいと思います。

Amazon Echoの売上は前年のプライムデーに比べて7倍
スマホアプリからの注文は前年同期比で2倍以上

今回のプライムデーでの最大のプロモーションはおそらくAmazon Echoだったでしょう。通常180ドルするAmazon Echoが、なんと90ドルで販売されていました。つまり90ドルオフ!あるいは50%オフ!という驚異的なディスカウントです。

The Amazon Echo is only $90 for the next 15 hours — get it before it sells out – Business Insider(2017年7月11日配信)

しかし、いくら半額にしたとはいえ、前年比で7倍の売上になるというのは驚異的としか言いようがありません。

この驚異的なディスカウントをしてまでAmazonがAmazon Echoを売りたかった理由は明白です。

まだ日本では販売されていないようなので、Amazon Echoについて簡単に説明します。Amazon Echoは、Amazonが所有する人口知能Alexaを搭載した対話型の音声アシスタント端末です。どんなことができるかというと、話しかけるだけでニュースや天気予報を音声で回答してくれたり、好みの音楽を流してくれたり、自分のAmazonの注文履歴から再注文をすることができたり、Kindleの書籍を音読してくれたりもします。

さらに、話しかけるだけでピザを注文したり、スターバックスのテイクアウトの予約をしたり、緊急時にあらかじめ登録しておいた人に連絡してくれるという機能もついています。既存の家電と組み合わせることができるので、エアコンやテレビが接続できる機種である場合は、「エアコン(電気)を消して」と話しかけるだけでエアコンや電気をコントロールできます。

スマホのように活用範囲が広く、スマホと違って話しかけるだけで使えるため、多くの場合リビングルームに置かれ、毎日のようにユーザーが話しかける対話型のデバイスであるため、Amazon Echoを購入したユーザーはAmazonとの接触頻度が劇的に高まり、接触時間も増加します。

ユーザーの接触時間が長いスマートフォンに、EC各社が自社のスマートフォンアプリをインストールしてもらうことで注文機会を増やそうとするというのと似たロジックです。

まだ数字としては公開されていませんが、「Amazon Echoのユーザーになると、買い物をする頻度がこのくらい高まる」というようなデータがAmazon内部で既に十分取れているのだと思われます。

つまり、今回のようにAmazon Echoの端末そのものを赤字覚悟の値段で販売したとしても、後々、十分に元が取れるという計算ができているうえでの今回のセールだと思われます。

まとめ

取扱高がYoY+60%という数字も凄いですが、何と言っても、プライムデーの目的は以下の2つだったのではないかと思います。

この2つの施策は、「Amazonへの接触頻度、接触時間」を増やし、ひいては「購買頻度」を高めることにつながります。このぶれない戦略を徹底しているAmazonは改めて凄いなぁと思った次第です。
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決算が読めるようになるノート』 2017年7月26日号「KDDIはなぜ携帯料金を値下げしたのか?今後他のキャリアは追従するのか?」より抜粋
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