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Amazonの「すごい交渉力」 ホールフーズ1.5兆円買収の舞台裏で起きていたこと=シバタナオキ

Amazonが高級食料品スーパーのホールフーズをUS$13.7B(約1.5兆円)で買収するという発表がありました。今回はその舞台裏を詳しく見ていきます。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)

※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年7月28日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:シバタ ナオキ
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。

なぜホールフーズ買収は「Amazonの思うがまま」に進行したのか

公開資料で読めるM&A交渉の詳細

Amazonが高級食料品スーパーのホールフーズをUS$13.7B(約1.5兆円)で買収するという発表がなされましたが、今日はその舞台裏を詳しく見てみたいと思います。

米国証券取引委員会(SEC)が先週金曜日に公開したM&Aの開示規則(委任状勧誘規制=14A)に詳しくでています。

なぜ、こんなに交渉の詳細を公開しているのかというと、ホールフーズは上場企業であり、今回の買収に関して臨時の株主総会を開いて株主の承認を得る必要があります。従って、「なぜAmazonに対してこの値段で売却をすることが株主の利益につながるのか」ということを、株主に説明する必要があるわけです。

その説明のための資料の一部に「Background of the Merger(合併の背景)」というセクションがあります。

ここでは買収に至るまでの経緯を詳しく述べるとともに、経営陣が行った交渉にコンプライアンス上の問題がないだけではなくて、株主の利益を最大化するための行動であったということを証明するためのものになります。

ホールフーズが売却を検討せざるをえなかった事情

はじめに、今回のM&Aに至る背景を少し詳しく見てみたいと思います。

ホールフーズは食料品スーパーの中では利益率も高く、数年前までは安定的に成長し続けることができてきましたが、ここ数年は伸び悩んでいたというのも事実です。

株価を見れば一目瞭然で、2013年~15年と比べて2016年、17年の株価が停滞していたことがよくおわかりいただけると思います。株価の停滞が意味しているのは、つまり株主から見るとホールフーズの成長戦略がいまいちピンときていなかったというのが正直なところだと思います。

2016年後半から2017年の第1~第2四半期にかけて、取締役会がそのための議論を続けてきたという記載が、SECに公開された文書にもあります。

実際、2人いた共同CEOを1人にしたり、新しい取締役を任命したり、取締役会としても一緒にこの状況を打開しようとしていたという意図は十分に読み取れます。

ホールフーズの2人の共同CEO

そして2017年の3月、取締役からなる「Ad Hoc Committee(特定の目的のための特別委員会)」というものを結成します。

In order to more effectively discuss and oversee engagement with shareholders between regularly scheduled meetings of the board of directors and topics that could arise from such engagement

このAd Hoc Committeeの目的は、「株主との対話をより円滑にする」といった非常に曖昧な目的ではありますが、株主に対して何かしらきちんと説明をしていく必要を取締役会が強く感じていたことは間違いありません。

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アクティビティストが8.8%の株式を取得して、ゲームスタート!

そんな中、ついに大きな動きが株式市場で起こりました。

2017年4月10日、JANA Partnersという投資ファンドがホールフーズの発行済株式の約8.8%を取得したという大量保有報告書を提出しました。

JANA Partnersという投資ファンドは、日本で言うところの一昔前にあった「村上ファンド」の様なアクティビストと考えれば良いかと思います。

つまり、投資ファンドから見ると、ホールフーズの株価は実体に対して安すぎる。そして経営陣が必ずしも素晴らしい仕事をしているとは言えない。という風に見えていた可能性が高いわけです。

2017年4月17日にホールフーズは、ファイナンシャルアドバイザーと契約をして、そのアクティビストにどのように対応していくかという協議を開始します。

翌日の4月18日には、とある事業会社Xから「戦略的なパートナーシップ」のディスカッションをしたいという内容のレターが届きます。

M&Aを体験したことがある人はよくご理解いただけると思いますが、この「戦略的なパートナーシップ」という言い方はいろいろな意味を含みます。単なる事業提携を示す場合もあれば、今回のようにM&Aといった非常に大きなトランザクションに至ることもあります。

4月20日から5月4日の間までに、事業会社Xだけではなく、他の会社や投資ファンドからも、「もしホールフーズがバイアウトを含めた大きな構造転換をするのであれば、その取引に参加したい」という連絡が複数届きました。

つまり、JANA Partnersというアクティビストが8.8%もの株式を取得した時点で、他の事業会社や投資ファンドもこれからホールフーズ周りで大きな取引が発生する可能性が高いということを嗅ぎつけて声をかけてきたわけです。

ここまで来ると会社としてはもう仕方がありませんので、正々堂々と一社一社と交渉していくしかありません。

さて、ここからどのように交渉が進んで行くのでしょうか…。

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買収の経緯1:ホールフーズ側からAmazonへ打診

4月17日の週にホールフーズのオペレーション担当副社長が「あること」を思い出します。「あること」というのは、以前、Amazonがホールフーズの買収を試みて断念したことがあるという報道です。そこで、そのオペレーション担当副社長は――
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買収の経緯2:X社より具体的な買収提案が届く…

買収の経緯3:Amazonからは「超強気」の買収提案が届く

買収の経緯4:1兆円超のM&Aもデューデリジェンスが2週間で終わる!

個人的な感想


※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年7月28日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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決算が読めるようになるノート』 2017年7月28日号「Amazonがホールフーズを約1.5兆円で買収した際のM&A舞台裏 – Amazonの交渉力が強すぎた」より抜粋
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