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国民経済が第一。あなたは本物のエコノミスト「下村治」を知っているか?=施光恒

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年10月13日号(国民経済を重視したエコノミストの迫力)より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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今なお新鮮な下村治氏の「国民経済の充実こそ第一」という考え方

「国民経済」を重視する政党が必要

10月10日発売の『Voice』11月号に「愛国の経済左派が必要だ」という論説を書きました。「日本のリベラル派は、国民意識や国民の連帯、愛国心といったナショナルなものを軽視する傾向があるが、これはおかしいのではないか」ということを論じています。

本来、「自由」「平等」「民主主義」といったリベラル派の理念は、どれも、国民の連帯といったナショナルなものがないところでは成り立たないはずです。

今回の総選挙を前にして、民進党が国民の支持を得られず、事実上の解党に至ったのは、この点をよく理解していなかったのではないかと述べています。ナショナルなものを重視していないという印象の強かった同党のあり方が、国民の多くに愛想をつかされた結果ではないかと思うのです。

また、タイトルにもあるように、現在の日本の経済状況のもとでは「愛国の経済左派」の政党が必要だとも述べています。「経済左派」というのは、少々誤解を招くかもしれませんが、つまるところ「グローバルな投資家や企業の評価をもっぱら気に病むのではなく、日本の庶民一般の苦境に心を痛め、庶民のための経済政策を実施する政党」が必要だと論じています。

言い換えれば、「経世済民」「国民経済」を重視する政党です。

「自公」にしても「希望・維新」にしても、相変わらずのグローバル化路線というか、新自由主義的色彩の強い経済政策を多く訴えており、下手をすると、選挙後、両勢力が競って、構造改革路線を突っ走るという「新自由主義二大政党制」ができるのではないかと心配です。

現代でも響く、故・下村治氏の言葉

ところで、「国民経済」と言えば、『Voice』の原稿では触れていないのですが、昭和を代表する大蔵官僚であり、エコノミストでもある下村治(しもむら・おさむ)(1910-1989)の言葉はいいですね。30年前に書かれたものですが、最近の多くのエコノミストには欠けている力強さがあります。

下村治は、政府が、経済政策を進める上で大切なのは、「国民経済」という視点を持つことであり、それについて次のように説明します。

では、本当の意味での国民経済とは何であろうか。それは、日本でいうと、この日本列島で生活している一億二千万人が、どうやって食べどうやって生きていくかという問題である。

この一億二千万人は日本列島で生活するという運命から逃れることはできない。そういう前提で生きている。中には外国に脱出する者があっても、それは例外的である。全員がこの四つの島で生涯を過ごす運命にある。

その一億二千万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。

出典:『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』著:下村治/刊:文春文庫 ※本書の最初の出版は1987年

「国民経済」についての下村氏のこの言葉は、今からちょうど30年前の1987年のものですが、今読むと新鮮です。

Next: 本当に大事なことはすべて、30年前に下村治氏が言っていた



最近の経済政策は「グローバル投資家・企業」の利益こそが第一

最近の経済政策は、残念ながら、グローバル市場を円滑に運営すること、つまりグローバルな投資家や企業の利益こそが第一であり、各国の国民経済の充実は二の次といわんばかりのものが普通になっています。

下村の議論は、この傾向がすでに表れていた当時のアメリカの経済政策を批判します。アメリカの経済政策の背後には「国民経済の論理」と矛盾する「多国籍企業の論理」が存在すると指摘し、この奇妙さを批判するのです。

多国籍企業というのは国民経済の利点についてはまったく考えない。ところがアメリカの経済思想には多国籍企業の思想が強く反映しているため、どうしても国民経済を無視しがちになってしまう。

出典:『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』著:下村治/刊:文春文庫

下村がこの頃、懸念していた「多国籍企業の論理」は「グローバル・スタンダード」とされ、その後、アメリカだけでなく、日本やそれ以外の多くの国にも広まってしまいます。

グローバルな投資家や企業に有利なように、「構造改革」の名の下、各国の国民経済のあり方をどんどん変えていこうという本末転倒の事態、つまり「グローバルな投資家や企業の利益 > 各国の国民経済(一般国民の利益)」という事態に陥ってしまいました。

下村の文章は、この奇妙さにあらためて気づかせてくれます。

廃れてしまった「国民経済の充実こそ第一」という考え方

各国の経済政策は、自国の国民経済の充実であることこそ基本です。もちろん、各国が「自国の国民経済ファースト」でいけば、利害は少なからず対立します。

下村は、それをうまく調整していくことこそ国際経済の役割だと指摘します。ここでは、自由貿易も絶対ではありません。自由貿易は、国民経済を富ませるための、つまり自国の国民に多くの高付加価値の就業の機会を与えるための一手段にすぎないと述べます。

こうしたひと昔まえまで常識だった国民経済の充実こそ第一という考え方が廃れ、下村が批判するところの「多国籍企業の論理」が世界を席巻しているのが現状です。

今回の選挙では、「しがらみの打破!」とか単純なことを言わずに、国民各層、各業界の声を丁寧に聴き、多様な利害の調整を繰り返しつつ、国民経済の充実という第一目標の達成を目指す政治家に出てきたもらいたいものです。

そのうえで、選ばれた政治家は、せっかく英国のEU離脱やアメリカのトランプ大統領の選出のように、国民経済の充実という路線を再評価しようという機運が世界の一部で昨年来、高まっているわけですから、そういう動向をよく見極めてほしいですね。そして「多国籍企業の論理」ではなく、各国が国民経済の充実という目標を推し進めることのできるまっとうなポスト・グローバル化の世界秩序を提案し、実現に向けて行動してほしいと思います。

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』(2017年10月13日号)「国民経済を重視したエコノミストの迫力」より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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