国民的アニメ番組『サザエさん』の新スポンサーの1社に決定したと報じられているAmazonですが、日本では法人税を支払っていないことをご存知でしょうか。一体なぜそのようなことが可能なのか、今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、著者で元国税調査官の大村さんがそのカラクリを解説するとともに、Amazonが行っている「賢い税金戦略」を暴露しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2018年2月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
背景は不平等な「日米租税条約」? Amazonの賢い税金戦略とは
なぜアマゾンは日本で法人税を払っていないのか?
なぜアマゾンが日本で法人税を払っていないのか、「日本の国税当局とアマゾンの対立の構図」的な話は、ビジネス誌などでいろんな方が紹介しています。日本の国税当局と、アマゾンの間で、税法の解釈面で対立があったというわけです。
確かに、日本の国税当局とアマゾンの間では、税法の解釈について齟齬がありましたし、表面的にはそれがこの問題の要因だといえます。が、この問題の本質は、実はそこにはないと思われるのです。なので、私としては、「日本の国税当局とアマゾンの税法解釈の対立」だけではない、別の面からこの問題の分析をしたいと思います。
「アマゾンが日本で法人税を払っていない」ということが、広く世間に知れ渡ったのは、2009年のことです。東京国税局が、アマゾンに対して140億円前後の追徴課税処分を行ったことがきっかけです。東京国税局は、日本で法人税を払っていないアマゾンに対して、「日本国内での販売収益に関しては、日本の法人税を払うべき」と指摘したのです。このニュースが報じられたとき、「アマゾンは日本で税金を払っていなかったのか」と世間で騒がれました。
外国企業であっても、日本で商売をし日本で収益を上げている会社は、原則として、日本で法人税を払わなくてはなりません。アマゾンがなぜ日本で法人税を払っていなかったのか? 簡単に言うと次のようなことです。
日本での販売業務は、アマゾンの日本子会社である「アマゾン・ジャパン」と「アマゾンジャパン・ロジスティクス」が主に行っています。「アマゾン・ジャパン」と「アマゾンジャパン・ロジスティクス」は、アマゾン本社から販売業務を委託されているという形になっておりますが、システム的に会社の利益のほとんどがアメリカ本社に吸い上げられる形になっており、日本ではほとんど利益が残らないのです。そのため、アマゾン・グループは日本で法人税を払わなくなっているのです。それに対し、日本の国税当局は、アマゾン本社が日本から得ている収益は本来、日本で納税すべきとして、課税に踏み切ったのです。
アマゾンのアメリカ本社はアメリカで納税しており、「日本で納税すれば二重課税になる」として、日本の国税当局に異議を唱えました。そして「日米の二国間協議」を申請したのです。要は、「アメリカ本国の税法に従って納税しているので、文句があるならアメリカ政府に言え」ということです。それで、実際に日本とアメリカの二国間協議になったのです。その結果、どうなったのか、というと…、日本が全面的に譲歩する形になったのです。。。
日米租税条約は不平等条約?
「日本で商売をして儲かった金は、日本で税金を払うべき」というのは、普通に考えれば当たり前の話ですよね? 日本企業が、アメリカで商売をして儲かった場合はアメリカで納税しています。にもかかわらず、なぜこういう無理なことがまかり通ったのでしょうか?
実は、国際間の税金ではこういうことは、よくあることなのです。他国籍企業やグルーバルで収入がある人の税金については、関係各国で結ばれた「租税条約」に基づいて課税されることになっています。「租税条約」というのは、表面上は、お互いの国が平等にできています。しかし、細かい実務の運用となると、両国間での協議となります。そして、両国間の協議では、その国同士の力関係が大きくモノを言うのです。
たとえば、日本のプロ野球に来る助っ人のアメリカ人は、日本で所得税を払うことはほとんどありません。が、日本人選手が大リーグに行った場合は、アメリカで所得税を払っていることがほとんどなのです。日本とアメリカの外交関係は、表向きは平等になっています。しかし、実務運用面となると、アメリカ有利になることが多々あるのです。日本とアメリカとの関係は、今でも実質的には「不平等条約」なのです。
Next: タックス・ヘイブンも巧みに利用
アマゾンの(ズル)賢い税金戦略とは
アマゾンは、現在、先進国を中心に、世界中でビジネスを行っています。そして、アマゾンはタックス・ヘイブンをうまく活用して、大幅な節税を行っていることで知られています。アマゾンは、子会社を税金の安いタックスヘイブンに置き、グループ全体の利益をそこに集中させて、節税をしているのです。クレジットの決済機能をアイルランドのタブリンに置いたり、ヨーロッパでのビジネスの利益はルクセンブルグに集中するようになっています。アイルランドもルクセンブルグも、世界的にタックスヘイブンであり、特にルクセンブルグは、アマゾンに対してはさらなる税優遇措置を講じています。もちろん、これは世界中から非難を浴びています。
が、アマゾンは、グループ全体の納税額の半分をアメリカで納めています。2013年を例にとると、アマゾンは全世界で300億円程度の税金を納め、その約半分はアメリカに納めています。実は、ここがミソなのです。
アメリカにもっとも多くの税金を納めることで、アマゾンはアメリカの税務当局の心象をよくしているのです。そのため、アマゾンが他の国から課税問題でもめたときには、「文句があるならアメリカ政府に言え」ということができるのです。アメリカの税務当局は、アマゾンが他の諸国で税金を払うよりは、自国で税金を払ってもらいたいと思うわけです。結果、アメリカの税務当局がアマゾンの後ろ盾になる形で、アマゾンのグローバル節税が可能になっているのです。
Next: 黙って見てはいない世界各国
世界各国の反撃
もちろん、アマゾンのこのようなグローバル節税に対して、世界各国も黙っているわけではありません。つい最近も、EU(欧州連合)が「アマゾンはルクセンブルグで不当に税を逃れている」と断定し、ルクセンブルグ政府に対して追徴課税をするように指示しました。またイギリスでも、アマゾンやグーグルなどのアメリカ系グローバル企業の税逃れを防ぐ法案をつくりました。EUやイギリスになると、アメリカ政府が出てきたとしても、それなりにモノが言えるので、アマゾンとしてもかなり手強いということになります。
またアメリカ本国でも、アマゾンがその収益に対してまっとうな税金を払っていないとして、批判されることがしばしばあります。年間売り上げは10兆円をこえ、10%を超える高い利益を上げておきながら、数百億円程度の税金ではあまりに少なすぎます。
まあ、このままの状態はそう長くは続かないでしょう。いくらなんでも、税金が少なすぎですからね。
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『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』(2018年2月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授。「正しい税務調査の受け方」や「最新の税金情報」なども掲載。主の著書「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)