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ただの食い物屋になってしまった「鳥貴族」、客数と株価を落とした戦略ミスとは?=山田健彦

銘柄選定において「マーケティング力がある会社かどうか」は意外と重要です。客離れによる株価低迷で苦しむ鳥貴族<3193>を例に、失敗要因を解説します。(『資産1億円への道』山田健彦)

マーケティング戦略を大きく間違えた? 口コミも悪評が目立つ…

良いものを提供すれば売れるのか?

マーケティング力がある会社かどうかは、銘柄選別には意外と重要です。

世の中の誤解の一つに「良いものは売れる」というのがあります。しかし「良いもの」と「売れるもの」の間には何の関係もありません

営業をやっている人なら分かると思いますが「ライバル企業のあの劣悪な商品、買う人の気が知れないなぁ。教えてあげたいけど、営業妨害になっちゃうし…」とか、「うちの製品はこんなに良くて価格も良心的なのになぜ売れないんだろう?」ということがしばしばあります。

「良い製品だから売れるはずだ!」と社長がトップセールスで走り回っても、社員が夜中まで血の滲むような努力をしても、売れないものは売れません

真面目で誠実で、世のため人のためになる高品質の製品を提供している会社でも潰れるときは潰れます。

「売れる」要因とは何なのか

では、「売れる」「儲かる」の要因は何なのでしょうか

それは粗悪製品を売っている会社を考察してみるとよく分かります。

彼らはもともと売れるはずのない商品を抱えています。赤道直下で石油ストーブを売ろうとしているようなものです。そのままでは誰も買いに来ません。販売が不振なら会社はその国から撤退し、自分たちは路頭に迷うことになります。

だから「どうしたら買ってくれるのか」を真剣に考え、工夫します。

どのような広告を出せば興味を持ってもらえるのか、興味を持ってくれた潜在顧客にどのようなトークをすれば、さらに話を聞きたいと思ってくれるのか、どのような営業の流れにすれば効率的な成約に結びつくのか、徹底的に工夫します。

ところが、なまじっか良い製品(商品)を持っている会社は、製品(商品)に自信があるため、売り方についてあまり考えません。「うちは本当に良いものを扱っているんだから、そのうちに必ず売れるはずだ」と高をくくってしまいます。しかし、いつまで立っても相変わらずで、売上は低迷したままの状態が続きます…。

ここに組織的な販売の仕組み、つまりマーケティングの巧拙が出てくるのです。

鳥貴族はマーケティングで失敗したのか?

今回は外食産業のマーケティングを例に考えていきます。取り上げるのは、低価格居酒屋の代表鳥貴族<3193>です。

マーケティングの教科書に必ず出てくるのが「マーケティングの4P」というものです。

<マーケティングの4P>

Product:商品
Price:価格
Place:場所、流通
Promotion:販売促進

外食産業では、消費者の強い節約志向と人手不足による人件費の上昇原材料価格の上昇など強い向かい風が吹いています。

そのような中で各社の競争戦略はどのようなものなのか、「マーケティングの4P」を用いて少し考察してみます。

Next: ただの「食い物屋」になってしまった? 鳥貴族の株価が低迷したワケ



立派な経営理念を掲げているが…

外食産業のProduct(商品)とは何でしょうか。

焼き鳥、ステーキ、そば、カレー等という口に入れる食べ物でしょうか? 単に食べ物を提供するのであれば「早い、安い、うまい」がキーとなる、「食い物屋」であれば十分かもしれません。

外食産業で重要なのは、味、立地、スタッフの接客態度、客層だと言われています。「食い物屋」では味と立地が重要で、それよりやや重みは薄れてスタッフの接客態度、客層と続きます。

さて、鳥貴族<3193>ですが、そのユニークな社名は、「お客様を【貴族】扱いする(大切にしていく)」「オシャレな名前にする(女性客を増やす)」という2つを狙ってつけたそうです。

同社は、世界一の焼鳥屋を目指し、全世界で2千店舗の出店を目指し、中間目標は2021年7月期、東京オリンピック・パラリンピックが開催される事業年度中までに1千店舗の出店です。

直近の有価証券報告書から「事業の内容」を見てみましょう。

経営理念として、

1.販売価格
すべての商品を均一価格にして客が商品を選ぶ楽しさを提供。

2.商品開発
食材は全品国産を使用。鶏肉は劣化が早いことから、酸素に触れる時間を短くするため、店舗で串打ちを行っており、セントラルキッチンを保有していない。

3.接客
「元気でホスピタリティあふれる接客の提供」をスローガンとして、お客様の再来店につながる接客を工夫。

4.内装
「焼き鳥屋」でイメージされる「赤ちょうちんにカウンター」というイメージを払拭し、若者や女性でも入りやすい、テーブル席を増やすなど明るい空間づくりを目指す。

としています。

ただの「食い物屋」になってしまった

事業、株価の動向ですが、昨年10月に値上げをして以来、客単価は伸びているものの来店客数が減少していて、7月6日には通期業績予想の下方修正を行いました。株価も低迷しています。

鳥貴族<3193> 日足(SBI証券提供)

同社は人手不足、人件費高騰対策として注文用タッチパネルを導入して省力化を進め、1店舗平均で月20万~30万円ほど人件費低減ができたようです。

しかし、その結果「従業員の主要な仕事が品出しと片付けのみとなり、お客さんとのコミュニケーションが希薄になり、追加注文などの声がけがなくなった(会社側資料による)」としています。

コミュニケーションの希薄化は、経営理念(3)の「元気でホスピタリティあふれる接客の提供」からの方針転換とも考えられ、それまでは外食産業の中でのポジションニングでは「食い物屋」よりは少し上に位置していたのが、ほぼ完全な「食い物屋」になってしまったと思われます。

Next: メディア戦略を間違えた? チグハグになっているマーケティング



メディア戦略を間違えたか?

「値上げ後、特にファミリー層や40代以上のお客様を中心に来客数が減少したものの、もともとのターゲット層である20~30代の社員・学生のお客様は値上げ以降も来店の減少は見られない」との会社側分析を公表しています。

「もともとのターゲット層である20~30代の社員・学生」以外の層が増えてから減ってしまった要因ですが、会社側では「上場や過去のTV放映等を背景とした認知度向上により自然と広がった客層(ファミリー、シニア)が、価格改定を機にご来店を控えられているものと想定」と分析しています。

考えるに安易にメディアの取材を受けてしまったため、本来のターゲット層以外のお客さんが一時的に増えてしまい、それが値上げを機に去っていったということのようです。
※参考:http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/2015/0409/

ネット上のコメントでも「鳥貴族に行ってきました。夫婦で『どれもこれも塩辛い。もう2度といかない。大学生向けだね』と話してました」とか、『今の鳥貴族はサラリーマンはほとんど行きたがらない。特に年齢が高ければ高いほど行きたがらない。仕事帰りに寄ってもほとんどが20代前半の客層で、それ以上の年齢の人間には非常に入りにくくなってしまった。今では焼き鳥を食べようかとなっても、『鳥貴族以外で』が仲間内では暗黙の了解事項となっている」など、年齢層が比較的高いと思われる層が離れているのが分かります。

マーケティングがチグハグ?

本来であれば、ターゲット層以外の層が離れていくのは「想定内」として、放っておいても良いのでは、と考えられます。

しかし、店舗のHPを見てみると、会社の上司と部下たちの飲み会のようなイメージ写真を載せて、年齢が高い層にも来て欲しいようなアプローチをするなど、マーケティングがチグハグな印象を受けます。

マーケティングを見直さないと成長は難しい

鳥貴族の株価が低迷している要因は、
・タッチパネルの導入でお客さんとのコミュニケーションがなくなった
・メディア戦略の間違い
・チグハグなマーケティングが混乱をもたらした
ことにあるのではないかと筆者は考えています。

本来のターゲット層は離反していないので、業績の下落はもうしばらくで止まるのではないかと思われます。

しかしマーケティングを見直さないと、混乱は続いたままになりそうな気がします。

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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資産1億円への道』(2018年8月16日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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資産が1億円あるとゆとりある生活が可能と言われていますが、その1億円を目指す方法を株式投資を中心に考えていきます。株式投資以外の不動産投資や発行者が参加したセミナー等で有益な情報と思われるものを随時レポートしていきます。

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