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2019年末までに日経平均4万円超えか、今年の「10大リスク要因」から円・日本株の動向を読む=矢口新

2019年は、過去3年で大きく育った変化の潮流が吹き荒れる年になると見ている。2018年を回顧しながら、今年の10大リスク要因と円・日本株の動きについて解説したい。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)

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プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

何を買っても儲かった時代は終焉へ。消費増税ほかリスク要因は?

2019年の動きを過去から読む

2018年の相場は荒れた。私は、2016年に始まった大きな変化が、小康状態の2017年相場を経て、2018年に顕在化し始めたためだと見ている。そして、2019年はその変化が本格化するのではないかと見ている。

では、2016年に何が起きたのかを見るために、過去2年間の私の「年初の見通し」を振り返って見る。

<私の「2017年、年初の見通し」>

【関連】荒れる2017年相場のキーワードは「カネ余り」その矛先はどこへ向くか?=矢口新

2016年の金融市場は内外ともに大変な年だった。大きな出来事を3つ挙げると、(1)日銀のマイナス金利政策、(2)ブレグジット、(3)トランプ氏の米大統領選勝利だ。

日欧の金融政策は、少なくとも、2017年いっぱいは緩和的だ。超低金利と量的緩和が続く。これは、銀行経営の難しさと、カネ余りとを意味する。銀行は生き残りのために、投機的にならざるを得ず、その成否が、経営そのものを左右する。

原油の協調減産はいつまで続くのか? OPECと非加盟国は12月に原油の協調減産で合意した。合意はサウジアラビアの大幅譲歩により成立したが、原油価格さえ上昇すれば、大産油国であるサウジの原油収入は増加する。

非加盟国であるロシアも減産に同意したが、減産幅はミニマムで、それも6カ月にわたって漸減させるというものだ。あるいは、6カ月後には合意が反故になっていると見越しているのかもしれない。そう思うだけの根拠がある。

デフレを理由にした緩和的政策が、供給サイドにしか働かないために、更なるデフレを生んでいる。

これを変えるには、既存システムではもう駄目だと、英米伊の国民は意識しないまでも気付いている。「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の対義語は、「富裕層1%迎合主義」かと気付き始めている。ここで英米伊の政治家たちが、国民の潜在ニーズに応えられないと、世界は更に不安定になる。

2017年もカネ余りで、根っこのない状態はまだ続く。欧州の政治、ユーロ、欧州連合、原油価格を鑑みても、相場は荒れると見るのが自然だ。そんな中で、利上げを継続すると思われる米国に、世界の資金が集まると見ている。

<私の「2018年、年初の見通し」>

【関連】2018年「カネ余り」の終わりの幕開け。それでも日経平均は4万円を目指す=矢口新

2017年の金融市場は、思いのほか平穏だった。それは2016年に起きた予想外の出来事、(1)日銀のマイナス金利政策、(2)ブレグジット、(3)トランプ政権誕生などの余波が、思いのほか、大きな悪影響とはならなかったからだ。

また、2016年末からのOPECと非OPECのロシアとの減産体制が、2017年間を通して機能し、原油価格も概ね50ドルを挟んで推移したことも大きい。

(1)の日銀のマイナス金利政策では、銀行収益の極端な悪化、短期金融市場の消滅、国債市場の機能停止、それに伴うノルウェー国富ファンドの日本国債投資からの引き上げなどが起きていて、近未来から中長期にかけての(破滅的な?)悪影響は必至なのだが、少なくとも2017年中は、大きな問題とはならなかった。

(2)のブレグジットは、フランス大統領選挙で、EU支持が勝利したことが、EU安定への勢いを引き寄せた。とはいえ、ドイツ総選挙ではEU支持の与党が十分な支持を獲得出来ず、カタルーニャでは独立派が独立投票と解散総選挙の2度にわたって勝利した。EU支持派は、今後も独立派を「強権」で押さえつけていくのだろうが、それが根本的な解決とはならないのは明らかだ。

(3)のトランプ政権は、問題が山積みなのだが、税制改革案などでしのいだというところだろう。

とはいえ、(1)(2)(3)のどれもが、本来の意味では金融市場の安定を示唆するものではない。後述するが、大きな問題を先送りにしただけだ。それでも、株式市場は上昇し、債券市場には大崩れがなく、商品市場はマチマチながら不穏な兆候が見えなかったのは、「カネ余り」が主因だと見ている。

未だに、「何年ぶり、何十年ぶり、過去のサイクルでは」などと述べる識者は多いが、世界の主要中央銀行が空前の資金供給を続けてきた市場で、以前のことと比較するのは意味がない。空前とは、以前にはなかったことなのだから。

カネ余りの行く着く先は「投機バブル」だ。各地で住宅市場が急騰し、美術品や宝石などの多くが最高値で落札されたことなども兆候だが、2017年で最も目立ったバブルは、何といっても「仮想通貨ブーム」だった。

こで、2018年の金融市場を動かすと思われるリスクを、10個選んで箇条書きにしよう。

1、日銀のマイナス金利政策継続の悪影響
仮に2018年の金融市場が平穏だったとしても、日本の金融システムは、マイナス金利政策により根元から腐ってきていると考えていいだろう。

2、EUからの独立運動
EUが統一国家になるためには、財政資金の統一が不可欠だ。ところが、格差が拡大してしまった今となっては、豊かな国は貧しい国と財布を共有したくないのは道理だ。私はユーロ圏の崩壊は、時間の問題でしかないと見ている。もっとも、EUを含めた現政権は既得権のために強権を振るって「独立運動」を押え込んでいる。2018年にいきなり危機になる可能性は低いと思われる。

3、トランプ政権が導いた米国の孤立
米国は1991年のソ連崩壊以来、一貫してロシアの孤立化を進めてきた。そのために、ロシアの周辺国を陰に陽に支援し、中近東諸国にも軍事援助を続けてきた。それが、エルサレム問題1つで、オセロゲームのように、一転して孤立化したのは米国となったのだ。

4、地政学的リスク(中近東と東アジア)
トランプ大統領は、エルサレム問題で米国に反対すれば経済支援・軍事支援を打ち切ると牽制したが、それでも各国は反対した。ここで米国が本当に支援を打ち切れば、周到に築き上げてきたイラン包囲網が崩壊する。これでは、米国は簡単にはイランを叩けないので、中東情勢はより混沌としてきたと言える。

東アジアでは、内側に大問題を抱えた中国の対外進出が最も大きなリスクだ。北朝鮮は、米中が本気で現体制を排除する気持ちを固めたなら、できないということはないのだろうが、まだまだ利用価値があるのだろう。金正恩委員長の綱渡り外交が続く見通しだ。

5、中国の金融政策(通貨と金融政策)
米国と同様、中国も引き締め政策に転じている。以前に通貨危機を経験した国々に比べ、中国経済は強いかも知れないが、債務の大きさは同様だ。高金利、通貨高、デレバレッジによる景気減速で、これまで以上に不良資産が増え続けると、金融システムが持たなくなってくる可能性が高い。

6、ロシア・ゲート
米国は大統領が代わると、官僚を含めた行政スタッフ全員が代わるので、連続性がなくなると言われている。ところが、対ロ戦略や対日政策を見る限り、米国の政治にはブレがなく終始一貫してきた。このことは、米国には大統領府を超える「力」が存在することを示唆している。米国の、いわゆるグランドプランを立てている勢力だ。前2回の世界大戦時では、ダウ構成企業の創業者などが「影のプランナー」だと言われている。

ところが、トランプ大統領は異質だ。(3)トランプ政権が導いた米国の孤立、(4)地政学的リスク(中近東と東アジア)で述べたことが真実に近いとすれば、トランプ大統領は米国の一貫した政策からはみ出している。同氏は「影のプランナー」たちの虎の尾を踏んだ可能性が高い。果たして、無事でいられるのだろうか?

7、選挙の季節(ロシア、イタリア、米国)
2018年3月にはロシア大統領が行われる。イタリア総選挙は2018年5月までに行われる予定。また、2018年11月には米国議会の中間選挙が行われる。

8、住宅バブルの崩壊(オーストラリア、カナダ、中国、ノルウェー、スウェーデン)

9、米国内の貧富格差の拡大(税制改革案)
近年の世界経済フォーラムでは、毎年のように格差問題が取り上げられているが、それでも「カネ余り」が、社会全体の資金不足を防いできた。しかし、米国は2015年12月からの利上げに続いて、2017年10月からは資金の吸い上げも開始した。

10、カネ余り相場の終わりの始まり(FRB新体制の利上げ政策と、他中銀)
過去8年近く、世界は空前の緩和政策を採り、カネ余りと、超低水準の資金調達コストを維持してきた。空前、前例がないことは、正常とは見なされない。ニュー・ノーマルという見方もあるが、さらなる危機が起きた時には、もはや打つ手が何もない状態だったことを鑑みれば、やはり、異常事態だった。

そうした事態から、いち早く正常化への舵取りを行ったのは、米国だ。そして、日本を除く主要各国はいずれも、近い将来の正常化への舵取りを明言している。このことは、いずれ「カネ余り」相場は終わることを意味している。

いずれは、2018年ではない。2019年でもないかも知れない。だが、数年という期間で見れば、カネ余りは解消し、投機バブルは間違いなく崩壊する。

とはいえ、相場で先を読み過ぎることは禁物だ。収益に繋げるには、目先を読む必要がある。その意味では、多くのリスクがありながらも、引き続き米株が世界の資金を引き付ける可能性が高いと見ている。

日本株は、金融緩和が継続することに加え、外貨や債券に比べて、最もリスクが小さいことから、引き続き上昇すると見ている。あえて、予想するなら、2019年10月までに、日経平均4万円超えもあると見ている。ちなみに、2019年10月には消費税率が10%に引き上げられる。

さて、2019年の動向を読むために、2018年に噴出した日銀マイナス金利政策継続の悪影響ほか10項目をしっかりと振り返っておきたい。

Next: 金融市場、2019年のリスク要因とは?「何を買っても儲かった」時代は終焉へ



2018年の回顧

以上に挙げた10項目を振り返って見よう。

1、日銀のマイナス金利政策継続の悪影響
メガバンクは海外と益出しで、2018年中は健闘したが、地域銀行はリスクを拡大しつつも、減益に甘んじている。スルガ銀行のような例も出た。

2、EUからの独立運動
カタルーニャは完全に抑え込まれたが、ドイツは政権与党が敗北、イタリアは反EU政権が成立、フランスは荒れている。危機が顕在化しつつあると見てよさそうだ。

3、トランプ政権が導いた米国の孤立
トランプ政権は依然として独自外交を貫いている。そんな中で、これまで世界で最も孤立していた北朝鮮との会合が興味深い。

4、地政学的リスク(中近東と東アジア)
トランプ大統領は米英仏ロ中独の6カ国とイランが結んだ「イラン核合意」を、各国の反対にもかかわらず単独離脱した。そして、独自の「イラン制裁法」を復活させ、各国に順守を強要している。

これだけを見ると地政学的リスクの高まりを感じさせるが、一方で、シリアからの米軍全面撤退を決め、アフガニスタンからも米軍の大幅削減を検討中だ。これらの件では、マティス国防長官が異論を唱えて辞任した。

ここでも米国の「影のプランナー」たちの意に背いていると思われるが、多くの同盟国をないがしろにし、軍隊を引き揚げていることは、地政学的リスクが低下していると見ていいかと思う。ソ連崩壊後の地政学的リスクを、実際のところ高めてきたのは米国だからだ。

5、中国の金融政策(通貨と金融政策)
中国の巨大債務、不良資産の問題は継続中だが、成長ペースを落とすことを受け入れ、無理しないことで、今のところ乗り切っている。それよりも大きな問題は、米中貿易戦争となった。

6、ロシア・ゲート
11月の中間選挙では、下院を民主党に奪われた。「影のプランナー」たちの虎の尾を踏んだ可能性が高いトランプ大統領の弾劾リスクは、2019年に顕在化する見通しだ。

7、選挙の季節(ロシア、イタリア、米国)
ロシア大統領選には勝利したものの、年金給付年齢引上げ以降、地方を中心にプーチン大統領の求心力が落ちてきている。イタリアは反EU勢力が勝利し、各国でEU政府を支持している大衆が少数派であることが明らかになりつつある。米国議会の中間選挙では、下院の多数派が共和党から民主党に入れ替わった。

8、住宅バブルの崩壊(オーストラリア、カナダ、中国、ノルウェー、スウェーデン)
2018年に住宅価格が値下がりした市場は多く見られたが、バブル崩壊というような形にはならず、むしろ適正価格に近付く形となった。以下にロイターの記事を引用する。

世界の住宅価格は香港が最も割高だが、シカゴでは割安物件が見つかる──。スイスの銀行大手UBSが行った調査「UBSグローバル・リアル・エステート・バブル・インデックス2018」のリポートで明らかになった。

調査では世界の20都市の住宅用不動産の価格を分析。ミュンヘン、トロント、バンクーバー、アムステルダム、ロンドンは住宅バブルのリスクに直面しているが、ストックホルムとシドニーは今年バブル水準を脱し、ジュネーブは適正価格に近づいた。シカゴは今回も唯一、過少評価されている都市だった。

ロサンゼルス、チューリヒ、東京、ジュネーブとニューヨークの住宅価格も割高だが、ボストン、シンガポールとミラノは適正と分析された。

UBSによると、2000年代半ばの不動産ブームの時のように、貸し出しと建設が同時に過剰になる状態は世界的に見られなかった。住宅ローンの貸付残高の伸びは金融危機前の半分のペースで推移している。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・エーフル最高投資責任者は「多数の金融センターがなお住宅バブルのリスクにさらされているが、今日の状況を金融危機前の状況と比較すべきではない。それでも香港、トロント、ロンドンなどバブルのリスクを抱える地域の住宅市場については引き続き選択に注意すべきだ」と指摘した。

リポートによると、過去4四半期の住宅価格上昇率はインフレ調整後で平均3.5%と、過去数年と比べるとかなり低いが、それでもなお10年間の平均を上回っている。

出典:世界の住宅価格、香港は「バブル」でシカゴ割安=UBS調査 – Reuter(2018年9月28日配信)

9、米国内の貧富格差の拡大(税制改革案)
米国の「分断」はさらに根深いものになってきた。

10、カネ余り相場の終わりの始まり(FRB新体制の利上げ政策と、他中銀)
米国の量的緩和は2017年10月で終了し、以降は資金の引き上げが始まっている。ECBの量的緩和は2018年12月で終了。

こうなるとカネ余り相場で「何を買っても儲かった」時代は終わり、仮想通貨バブルなどは崩壊した。また、選別が重要となるのだが、2018年前半の米国株市場をけん引していた比較的新興のFAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフィリックス、グーグル)などが個人情報の取り扱い方などで崩れ、代わりに昔ながらの銘柄回帰などと牽引していたベビーパウダーのジョンソンエンドジョンソンが、発がん性物質隠ぺいで大崩れした。

また、長期保有が機能しなくなり、短中期のスウィングトレードがより効果的なってきた。

一方、2018年ここまでの日本株市場では、海外勢の売越額が1987年以降で最大となる5.3兆円で、それを日銀の買い6兆円ほどで支える形となっていた。ここに出てきたのが、12月19日のソフトバンクの2.6兆円という売り出しだ。12月20日は日経平均が海外市場の下落を受けて約9カ月ぶりに年初来安値を更新したが、国内需給という観点からも、ソフトバンクの売り出しは、最悪のタイミングだった。この3者だけの単純計算でも、安値更新、下げ波動確認の背景が見えてくる。ソフトバンクの夢の実現に、多くの人々がコストを払って協力した形となった。

金融市場、2019年のリスク要因

ここから2019年について、同様に10大リスク要因を挙げて解説したい。

2019年のリスク要因その1:米中貿易戦争
中国経済は、これまでの過剰債務、不良資産問題以上に、米国との貿易戦争が最大のリスク要因となった。過剰債務、不良資産問題に関すると、過去の新興市場国のとの大きな違いは、中国が対外債権国である点だ。この点では、むしろ日本経済と似ていて、もちろん健全ではないものの、目先の大きな危機ではないかもしれない。そして、その危機が顕在化する時は、大き過ぎて潰せない金融機関と同様、危機が多くの国々に波及する。

米国との貿易戦争のリスクは、関連する次項で詳しく述べる。

一方、米中貿易戦争は、米国が中国の台頭に警戒して仕掛けた「戦争」だが、世界第二位の経済国との貿易摩擦は、米国の景気をも悪化させるとの見方も強い。

12月12日に発表されたデューク大学CFO世界ビジネス展望では、米国の最高財務責任者のほぼ半数(48.6%)が、米国が来年末までに景気後退入りすると信じているとされた。また、ウォールストリート・ジャーナルが12月中旬に行った世論調査では、米景気が来年改善するとの回答が28%、悪化するとの回答が33%で、悪化が改善を上回ったのは、一部の政府機関が閉鎖された2013年10月以来初めてだった。

2019年のリスク要因その2:イラン制裁再開とファーウェイ
2018年5月にトランプ大統領がイラン制裁再開を決めた時、私は多くの識者たちと同様、制裁の対象はイランだと思っていた。ところが、ファーウェイ孟CFO逮捕の経緯を見て、制裁の対象はもっと広く、奥が深いことを知らされた。

これは米中貿易戦争にも絡むので、少し長くなるが、ここに私の見方を展開する。

Next: 2019年の鍵を握るのは「ファーウェイCFO逮捕劇」。米国の真の狙いとは?



孟副会長逮捕の経緯は…

ファーウェイ孟CFO逮捕について、少し長くなるが、ここに私の見方を展開する。

中国、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(メン・ワンツォウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)が12月6日、カナダのバンクーバー空港でメキシコへの乗り継ぎ便を待っているところを、米国政府の要請を受けたカナダ当局に身柄を拘束された。逮捕容疑は、米国がイランに科しているハイテク機器の輸出禁止措置を回避したことに絡んで、金融取引で不正を働いた疑い。

7日に行われた保釈審理では、孟氏はファーウェイの香港子会社を通じて、少なくとも130万ユーロのヒューレットパッカード製技術を使用したコンピューター設備を、イランのモバイルテレコミュニケーション(MCI)に販売、このとき制裁違反を隠すためにアメリカの金融機関に虚偽の報告を行った詐欺容疑を検察側は主張している。孟氏が指示を出していたと見られ、この容疑が事実で米国に引き渡されれば、最悪30年の懲役刑もありうるらしい。

孟氏は、ファーウェイの創業者、任正非(レン・ツェンフェイ)最高経営責任者(CEO)の娘。今年、副会長に昇進したことで父親に次ぐ地位に就き、輪番で会長を務める幹部3人と肩を並べた。

ファーウェイは、1987年に人民解放軍出身の任正非氏が創業した世界最大の通信ネットワーク機器サプライヤーで、世界第2位のスマートフォンメーカー。昨年の売上高は約920億ドル。他の中国テクノロジー大手と異なり、主要市場は海外で、欧州やアジア、アフリカの多くの国々で市場最大手になっている。解放軍を背景にしていると言われているが、表向きの顔は民営の多国籍企業で、今も非上場、株主の詳細は明らかにされていない。本社は深センにあり、約18万人を雇用している。

同社が警戒されるのは、後述のスパイ容疑の他に、近く実用化される5Gで、リーディング・ポジションに一番近いとされているため。

<米国の対イラン制裁>

イランと米英仏ロ中独の6カ国(独以外は核保有国)は2015年7月、イランの核開発を制限することと引き換えに、経済制裁を大幅に緩和する「イラン核合意」を結び、2016年1月にイランに対する経済制裁はほぼ停止された。

ところが、トランプ大統領は2018年5月8日、「オバマ前大統領によるイラン核合意は悪い合意だ」と主張、イラン核合意からの単独離脱と、イラン制裁再開を発表した。

一方、他の締結国はそれを非難して米国に同調せず、米国だけによる一方的な孤立行動となっている。日本政府も表向きは各国と同様、イラン核合意の維持を支持している。

しかし、トランプ政権は各国企業に圧力をかけ、イランとの取引を続けるならば、米銀との取引を禁じ、ドル調達ができなくなるとした。それに伴い、仏石油大手トタルなどは、イランとの合弁事業を一方的に破棄、多額の損失を計上した。

日本企業に対しても、例えば、イランからの原油輸入を原則禁じるとしている。

<ファーウェイとイラン>

ファーウェイとイランとの関係について、米国は2016年からZTE(中興通訊、中国大手スマホメーカー)とともに商務当局が調査を開始。今年4月からファーウェイに対しての、刑事捜査が始まっていた。米国がイランとの関係正常化に向けた交渉の中で、米国の制裁期間中、イランと交易した中国企業リストの提出を要求したところ、華為、ZTEの名前が出てきたのが調査開始のきっかけという。

米政府は4月、ZTEに対しイラン制裁違反を理由に米企業との取引禁止を命じた。この際、ZTEはスマホ向け半導体を調達できなくなり、生産停止に追い込まれた。ZTEから得た内部報告の中に、ZTEのライバルであるファーウェイが北朝鮮やイランに対しての秘密貿易の詳細があったことで、孟氏の刑事捜査に入ったようだ。

<逮捕容疑の「イラン制裁法」とは>

米国の「イラン制裁法」は米国の国内法だ。中国企業がイランにスマホや基地局を輸出しても、外国人同士の外国での行為である以上、米国がそれを訴追して処罰する権限はない。それをカナダという米国の領域外で外国人である中国の孟氏に適用し、刑事事件として罰するのは、他国の主権を侵害するもので、国際法の原則に反する。

トタルの例に見られるように、「イラン核合意」後に始めた合弁事業がいきなり違法とされ、継続不能となって大損失を被っている。

今回の孟氏逮捕も、容疑に関連した米企業ヒューレットパッカードから逮捕者が出たとは、これまでのところ報道されていない。

とすれば、国際法に触れてまで孟氏を逮捕したのは、依然としてイランとの取引を続ける各国企業への牽制に加え、ファーウェイを標的としたものと考えるのが自然になる。

<スパイ容疑>

米情報機関は、ファーウェイ製品には政府のスパイが使用できる「裏口」機能が埋め込まれている可能性があるとしている。その証拠は公表されず、ファーウェイ側はこの疑惑をたびたび否定している。
※参考:ファーウェイ輪番CEOが米国に「証拠を見せろ」と反論、記者会見で

こうしたスパイ容疑が孟氏逮捕の本当の狙いだったとすれば、イラン制裁法違反は、いわゆる別件逮捕となる。

とはいえ、スパイが使用できる「裏口」機能は、ファーウェイ製品のようなハードウェアだけとは限らない。ソフトウェアによるスパイ容疑、情報漏洩、情報操作は、ハッカーだけでなく、フェイスブックを始めとしたプラットフォーム企業でも問題化し山のような証拠が出ているが、それら大手米企業からの逮捕者は出ていない。

一方で、トランプ政権の圧力より、ファーウェイ製品排除の動きが各国企業に出てきている。日本政府は安全保障上の懸念から、省庁や自衛隊が使う中国製の情報通信機器を事実上排除する方針を決めた。

<真の狙いは?>

こうした流れから判断すると、トランプ政権による5月8日の突然の「イラン核合意」離脱、「イラン制裁法」再開は、ファーウェイ潰しのためのものだったという推測も成り立つ。解放軍がバックにいるとされる企業がスパイ行為と行わないとは断言できないが、孟氏逮捕に「イラン制裁法」違反容疑しか使えなかったことは、むしろ、「ファーウェイ側のスパイ疑惑否定」の信憑性を高めることになった。

米国のファーウェイ敵視、あるいは中国敵視には、前例がある。米ソ冷戦終結後、米国は仮想敵国を日本に定め(軍事ライバルが消えたため、経済的な脅威をライバル視した)、税制改革を含む様々な外圧で目的を達してきたことだ。
※参考:米国がおびえる2つの「転換」

とはいえ、米国にとって日本はもはや経済的脅威ではなく、代わって一番の脅威になったのが中国だ。中でもファーウェイは、次世代通信規格「5G(第5世代)」開発での急成長により、いずれ米企業が同社から機器を購入する羽目になりかねないとの懸念を膨らませている。ファーウェイが通信機器部門で主に競合するのはスウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアで、もはや米企業はない。

また、中国はロシアと並んで、米国の軍事的な脅威でもある。ファーウェイをつぶせば中国の通信覇権の野望を砕き、米国の国家安全を脅かす中国のサイバー戦、情報戦を抑え込むことが容易になる。米国の理工系大学院には中国人留学生が約8万人もいて、博士号を得る者が年に約5000人もいるという。ちなみに、日本人は約200人と、この面でも脅威とは言えない。

とすれば、真の狙いは中国の経済的、軍事的な脅威の芽を潰すことで、4月のZTEに対しての米企業との取引禁止、5月の「イラン制裁法」再開から、孟氏の逮捕を準備していたことになる。更に穿って見れば、「イラン核合意」もまた、制裁期間中の制裁破りの情報を得るための「罠」だった可能性すらある。合意が2015年7月、2016年から制裁破りの情報を求め、ZTEやファーウェイの調査を始めているからだ。

また、「イラン核合意」には各国が反対しているために、各国企業の重要人物逮捕への道を開いたことになる。トタルが諦めたのはイランとの天然ガス開発なので、米国の天然ガス産業が大きな恩恵を受けるが、諦めねばトタル経営陣逮捕の可能性もあったわけだ。

<今後の懸念>

これらを整理すると、孟氏の逮捕は、「1、米中貿易戦争」の局地戦の1つと見るのが、良さそうだ。狙いは中国の経済的、軍事的な脅威の芽を潰すことだ。かつて米国に敵視された日本が、税制改革の翌年から税収が減り始め、消費税率を5%に上げた翌年が経済成長のピークであったように、座していれば中国経済もいずれは死ぬ。もっとも、戦えば即座に死ぬ可能性が高いので、日本のような選択が必ずしも悪かったとは言えない。

ここで不気味なのが、ファーウェイのバックには解放軍がいる可能性があることだ。これは、本格的な米中サイバー戦争の「宣戦布告」にはならないのか?

米中が貿易、サイバーを含む多方面での戦争を本格化させると、世界はいずれ二者択一を迫られる可能性がある。日本はどちらについてもいいことはないのではないか。また、仮に中国が譲歩し続ければ、トランプ政権は様々な「制裁カード」と、「違反逮捕カード」を乱発してくる可能性が高まる。「イラン制裁法」での別件逮捕は、どの国に対しても適用可能だ。世界にまた、大きな不安定要因が加わったと言える。

Next: 失脚しても悪影響なトランプ政権ほか、2019年を揺るがすリスク要因は?



2019年のリスク要因その3:トランプ政権、ロシア・ゲートと案件処理能力の低下

米国の歳出には毎年度の上限が設けられているが、財政再建のために2020年度の上限は2019年度よりも低い水準に設定されている。一方で、財政赤字は拡大しており、新たな法律によって上限を引き上げなければ、米国は政府機関の閉鎖に加え、緊縮財政を強いられることになる。

予算面では、軍事、教育、医療、エネルギー、退役軍人、労働関連プログラムについては、すでに年度末の来年9月30日までの予算1兆ドル近くが議会で承認されている。これは、政府業務全体の約75%に相当する。仮に予算審議が行き詰まっても、連邦政府が完全に閉鎖されることはない。例えば、国境警備、空港警備、FBIの業務、NASAの業務など、必要不可欠と判断される業務は継続される。

もっとも、閉鎖され自宅待機となった職員も、必要不可欠な業務を継続する職員も、予算問題が解決するまで給与は支払われない。やはり、政府機関の閉鎖は極力避けねばならないのだ。

ところが、トランプ政権の高官離職率は65%もあるので、案件処理能力の低下が危惧されている。政権の能力不足で予算審議が進まず、政府機関が閉鎖される事態も想定内となっているのだ。

また、政策的に「影のプランナー」の虎の尾を踏んだ形のトランプ政権には内外に敵が多いが、高官離職率の高さは、政権を支える味方が極めて少ないことを強く示唆している。

12月23日のCNBCの報道によれば、トランプ大統領は、共和党支持のミリオネアの支持すら失ってきている。ミリオネア全体では、2017年にはトランプ再選の支持者が45%いたが、直近の調査では34%に低下した。

仮にロシア・ゲートで弾劾裁判となった時、民主党の「下院で過半数の賛成があれば訴追できる」のだが、共和党の「上院で裁判が行われ有罪の判決には出席議員の3分の2の賛成が必要」なので、有罪になる可能性は低いと言い切れるのだろうか?

トランプ大統領のお騒がせな存在は世界経済のリスクだが、失脚はこれまでの政策が反故にされる可能性を伴うので、これもまた大きなリスクなのだ。

2019年のリスク要因その4:ブレグジットと、フランス・イタリア

英国のEU離脱は、英国時間2019年3月29日午後11時(ブリュッセル時間30日午前零時)に行われる。

ブレグジット投票から約2年半が経過したが、EUと英国との離脱に向けての合意は、その時からほとんど何も進んでいない。2018年11月にメイ首相がEUと交わした合意事項は、ほぼEUの主張を飲んだもので、これ以上の移行期間を置いても、EUが譲歩する見通しは何もない。英領北アイルランドと、アイルランド共和国との国境管理を人質に、このまま英国全体が無期限にEU法に従う可能性が出てきているのだ。

そこで、合意なき離脱か、再度の国民投票でブレグジットを反故にするかといった、両極端の可能性が高まってきている。では、ブレグジットを反故にし、EUに残留することに、果たして魅力があるのだろうか?

EUの欧州委員会は、2019年のイタリア財政赤字の対GDP比率を2.04%とする同国の提案を受け入れた。当初案では2.4%としていた。今年は1.8%だった。

財政赤字を拡大したい国は皆無だと言っていい。イタリアがEUと揉めてでも、財政赤字拡大の容認を勝ち取ったのは、景気をてこ入れする必要があるからだ。

最近のイタリアの経済指標を振り返ってみよう。

イタリア第3四半期のGDP改定値は前期比0.1%減、前年比0.7%増だった。2014年第2四半期以来のマイナス成長となった。内需が低迷した。

イタリア10月の失業率は10.6%だった。9月の10.3%から上昇した。

イタリア10月の製造業新規受注は前月比0.3%減、前年比2.0%増だった。工業販売は前月比0.5%減、前年比2.0%増だった。

イタリア11月の消費者物価指数は前月比−0.2%、前年比+1.6%だった。EU基準では前月比−0.3%、前年比+1.6%だった。11月の生産者物価指数は前月比−0.7%、前年比+4.5%だった。

イタリア11月の製造業PMIは48.6だった。10月の49.2から低下した。この指数は50を下回ると減速だとされる。

イタリア12月の消費者信頼感は113.1だった。11月の114.8から低下した。業況判断は103.6と、104.4から低下した。

どうだろう? イタリア政府としては財政出動でもして、景気にてこ入れしたいと考えて当然だ。しかし、EUが当初のGDP比2.4%案では制裁金を課すと脅したために、規模を縮小するしかなく、中途半端な景気対策しか取れなくなった。

イタリアだけではない。フィリップ仏首相は財政赤字のGDP比が来年は3.2%程度になる公算が大きいとの見通しを示している。そこで、仏政府はEUの承認を待たずに、アップルやグーグル、フェイスブックへの大幅課税を決定した。

英国がEUに戻る意向を示しても、発言力は以前のままには戻らない。戻ったところで、フランスやイタリアのような待遇を望んでいるのだろうか?

フランスやイタリアの苦境は、通貨金融政策を統一しながら、財政資金を統一せず、「口は出すがカネは出さない」というユーロ圏の構造的な欠陥からきている。とはいえ、ドイツ政府とドイツ国民が、ギリシャを含む各国と統一財政、統一年金制度を受け入れる可能性は限りなく低いために、この欠陥は直らず、フランスやイタリアの苦境は続く。

一方、ブレグジットによる英国の苦境は、どんなに厳しいものであるにせよ、一時的だ。例えば、英ポンドが半値になれば、関税が倍になっても何とかなるのだ。

英国人は、フランスやイタリアの窮状を見ているため、私はEU復帰よりも、「合意なき離脱」を選ぶと見ている。

Next: 世界の金融政策は「引き締め」へ。日本は量的緩和を続けていてよいのか?



2019年のリスク要因その5:原油価格

原油価格はOPECとロシアの協調減産合意以降、着実に下値を切り上げ、WTI先物価格は10月には1バレル76ドル台にまで上昇したが、その後、40ドル台前半まで急落した。最も大きな要因は米中貿易戦争がもたらす需要減の懸念と、米国シェール原油の増産だ。

WTI先物が50ドルを超えてくると、シェール原油生産者による実需のヘッジ売り(トータルコストが50ドルなら、55ドルで売れれば利益が確定)が出てくるとされている。価格の上昇局面ではより多くの利益を狙っての様子見もでるだろうが、下落局面では先先へのヘッジ売りも出てくる。55ドルで1年分売れば1年間採掘できるが、45ドルが長引けば縮小せざるを得なくなるからだ。

一方、サウジアラビアが潤沢なオイルマネーを謳歌したのは昔のことのようで、同国の財政を均衡させるためには、原油価格が95ドルになる必要があると試算されている。とはいえ、95ドルなどになれば、米国産シェールが次々と増産されてくる。一方、どんな価格でも売らないと原油収入にはならない。サウジアラビアは追い詰められていると言える。
※参考:Saudi Arabia Makes Rare, Bullish Call on Oil in Its 2019 Budget

こうして見ると、OPECとロシアの協調減産もいつまで続くか分からない。原油価格の下落は、ディスインフレ要因、金利低下要因、日本の貿易黒字要因、合わせて、円高要因ともなる。

2019年のリスク要因その6:世界の金融政策

米連銀は2015年12月から利上げを開始、バランスシートの縮小は2017年12月から始めた。また、ECBは3年に及ぶ2兆6000億ユーロ規模の量的緩和政策をこの12月で終了、金利は少なくとも来夏にかけて現在の記録的な低水準を維持するが、方向は利上げで、時期だけの問題となる。

以下は、私が把握している各国の政策金利の変化で、時期の近いものから過去に向かって10件掲げることにする。(据え置きは省く)

メキシコは政策金利を0.25%引き上げ、8.25%とした。
スウェーデンは政策金利を0.25%引き上げ、−0.25%とした。利上げは7年ぶり。
米FOMCは政策金利のFF金利誘導目標を2.25−2.50%に引き上げた。
タイは政策金利を0.25%引き上げ、1.75%とした。
韓国は政策金利を0.25%引き上げ、1.75%とした。
南アフリカは政策金利を0.25%引き上げ、6.75%とした。
フィリピンは政策金利を0.25%引き上げ、4.75%とした。
メキシコは政策金利を0.25%引き上げ、8.00%とした。
インドネシアは政策金利を0.25%引き上げ、6.00%にした。
カナダは政策金利を0.25%引き上げ、1.75%とした。

ご覧のように、すべて引き上げだ。世界の趨勢は金融引き締めに入っている。このことは、「カネ余り相場」は既に過去のものとなりつつあるということだ。

もっとも、日英は未だに量的緩和を継続中で、真っ先に量的緩和を終えた米連銀のバランスシートも、未だに10年前の約4倍の規模でいる。その意味では、カネ余りは続いている。しかし、その資金で高値まで買ったのだから、資金が減少すれば、高値を維持できなくなってくる。そして、高値の更新がないと、いつの間にか売り物が出てくるのが相場なのだ。

2019年のリスク要因その7:企業倫理

何でも買われるカネ余り相場の終わりが始まり、選別が進む2018年の米株相場をけん引したのは、FAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフィリックス、グーグル)など、比較的新興の勢いのある企業だった。それが個人情報の取り扱いなどで失速。年後半の下げを主導した。

代わって買われたのが、生活必需品や一般消費財などの、古き良き銘柄だった。しかし、その一角、ジョンソンエンドジョンソンが、ベビーパウダーの発がん性物質含有を長年にわたって隠ぺいしていたとして、急落した。多くの訴訟もされていると言う。また、ハラスメントなど、これまで以上に企業倫理が株価に影響を与えるようになってきた。

2019年のリスク要因その8:気候変動

ニューヨーク・タイムズ紙は、2018年を「激甚災害元年」と名付けた。これまでなら何十年に一度という自然災害が、世界各地、日本各地で頻発した。

そうした自然災害の根っこには、地球温暖化があるとされているので、2019年以降も、我々の生活、あるいは金融市場の大きなリスクであり続ける見込みだ。

Next: 消費税こそが諸悪の根源? 2019年に家計を直撃する増税の大波



2019年のリスク要因その9:消費増税

消費税は売上に掛ける税金、所得税・法人税は利益に掛ける税金だ。消費税率が10%になると、単純化すれば100億円の売上が90億円になる。ここから諸々のコストを引いて利益とするので、人件費も圧迫されれば、所得税・法人税も減少する。

実際に、消費税を導入した翌年の1990年が日本の総税収のピークとなった。所得税・法人税が減ったためだ。そして、所得税率を5%に引き上げた1997年が日本の経済規模のピークとなった。国の税収は減ったのに、個人の税負担が増えて、成長できなくなったのだ。

こうした過去の教訓から学べば、2019年10月の消費増税は、日本経済の息の根を止める可能性すらあると言える。

それで政府は消費増税対策として、軽減税率を発表したが、これは中途半端な政策だ。消費増税対策の抜本的な対策は、景気後退の要因だとされる増税を止めることだ。

もっとも、軽減税率をどこに配分するかは政治家の判断となるので、自己の裁量権を高めるためには財源がいる。消費増税とは、そのための財源なのかと疑いなくなる。そんな小さな個人の野望など捨てて、国民のために尽くして頂きたいものだ。

消費税は安定財源とされ、財政再建の切り札のように言われているが、財政を悪化させたのが消費税であることは、財務省のホームページを眺めていればよくわかる。安定財源とは、景気が良くても税収が増えず、悪くても一定額は徴収するという悪法の典型だ。政府、官庁に、1989年以前の税制に戻すことを強く要望する。

2019年のリスク要因その10:日銀の政策

日銀の政策目標は、消費者物価コア指数が2%程度で安定することだが、マイナス金利を導入し、バランスシートの規模をGDP比100%以上にした今も、その目的を達成できていない。それどころか、いつまでには達成するという文言も、とうとう聞けなくなった。ちなみに、目標を達成して引き締めに転じた米連銀のバランスシートの規模はピーク時ですら、GDP比21.5%だった。

このことは、消費増税の悪影響が出た時に、日銀には打つ手が何もないことを意味している。

黒田日銀は、マイナス金利導入で短期金融市場を日本からなくし、日本国債の市場を指標の新発10年債ですら取引がない日が出現するなど機能不全にし、日本の金融機関を構造不況業種にしたが、物価目標を達成できなかった。そして、文字通りの限界まで金融緩和を行ったために、何が起きても、もう撃つ弾がない。これが日本経済最大のリスクだろう。

消費増税の悪影響を排除するには、1989年以前の税制に戻して財政再建を図るのが本筋だと思うのだが、どうも日銀の本願は、消費増税のようにも思える。

だとすれば、2019年10月までは緩和政策を継続し、何としてでも株価を持ち上げる必要がある。昨年の見通しでは「あえて、予想するなら、2019年10月までに、日経平均4万円超えもあると見ている。ちなみに、2019年10月には消費税率が10%に引き上げられる」としたが、まだその可能性がゼロとなったわけではないのだ。

Next: 日経平均4万円超えもある? 2019年の円と日本株見通し、その結論は…



結論:2019年の円と日本株見通し

こうしてリスク要因を掲げていると、何が起きるか分からないというのが実感だ。それで、相場で生き残りたいなら、時間のリスクを持ち越さない短期トレードが一番確実で、そうでなければ、売りと買いと組み合わせることで時間のリスクを管理するポートフォリオ運用が機能すると、私はお勧めしている。とはいえ、長年相場に携わってきたので、中長期の見通しがないわけではない。

昔、長期的な円高が続いていた背景には、膨大な貿易黒字額が示す、膨大な実需の円買いがあった。その貿易収支が、2018年はほぼ均衡した。2019年も、貿易実需は円相場にニュートラルである可能性が高い。ここでの最も大きなリスク要因は原油安だろう。輸入金額減少による貿易黒字は、円高要因となる。

中長期のトレンドに影響を与える資本実需は、大きく円安を示唆している。マイナス金利の国内に運用先がなく、信用リスクや流動性の観点から運用商品として申し分のない米国債が3%前後の利回りを提供しているからだ。ほぼ日英だけが、世界的な利上げ局面から取り残された環境も、外貨建て投資を後押しする。

となれば、円高リスクは、膨大な外貨建て投資のヘッジの円買いと、投機的なものだけとなる。これをまとめると、トレンドは円安で、円高局面は勢いがあったとしても長続きしないことになる。

円安が定着すれば、海外勢の日本株の買い戻しが期待できるようになる。また、株高時には配分比率いっぱいまで日本株を買っていた年金は、株安では比率が下がるため、また買えるようになる。買い手の主力1つ、企業の自社株買いも株安で出易くなる。そして、日銀の日本株買いは、少なくとも2019年いっぱいは続く見通しだ。そうして見ると、日本株はそれほど下がらないことが見えてくる。

世界の金融市場は、基本的に何でも買えた「カネ余り相場」から、選別しないと大損してしまう相場に変わってきている。そんな中で、日本株のように下値が限られた市場は魅力的に見えるのではないか? 世界で緩和を継続している市場は、ブレグジットの英国と、消費増税を前にした日本しかないのだ。一方で、いち早く利上げサイクルから抜け出す米株も、案外、健闘するように思える。

最後に、過去のバブルの、約1年前から崩壊までのチャートをいくつか付け加えておく。このチャートをどう見るかは自由だが、私自身は、2019年末までに日経平均4万円超えの可能性を、まだ捨てていない。

2019年が皆様にとって、良いお年でありますように!

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チャート出典:tradingview

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年1月6日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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