2018年の金融市場を動かす「リスク」にはどんなものがあるのか。日銀マイナス金利政策継続の悪影響や不動産バブルなど、10項目について詳しく解説したい。(矢口新)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
今年の10大リスクを検証。それでも2019年には株価4万円超えも
思いのほか平穏だった2017年
2017年の金融市場は、思いのほか平穏だった。それは2016年に起きた予想外の出来事、
- 日銀のマイナス金利政策
- ブレグジット
- トランプ政権誕生
などの余波が、思いのほか、大きな悪影響とはならなかったからだ。
また、2016年末からのOPECと非OPECのロシアとの減産体制が、2017年間を通して機能し、原油価格も概ね50ドルを挟んで推移したことも大きい。
(1)の日銀のマイナス金利政策では、銀行収益の極端な悪化、短期金融市場の消滅、国債市場の機能停止、それに伴うノルウェー国富ファンドの日本国債投資からの引き上げなどが起きていて、近未来から中長期にかけての(破滅的な?)悪影響は必至なのだが、少なくとも2017年中は、大きな問題とはならなかった。
(2)のブレグジットは、フランス大統領選挙で、EU支持が勝利したことが、EU安定への勢いを引き寄せた。とはいえ、ドイツ総選挙ではEU支持の与党が十分な支持を獲得出来ず、カタルーニャでは独立派が独立投票と解散総選挙の2度にわたって勝利した。EU支持派は、今後も独立派を「強権」で押さえつけていくのだろうが、それが根本的な解決とはならないのは明らかだ。
(3)のトランプ政権は、問題が山積みなのだが、税制改革案などでしのいだというところだろう。
とはいえ、(1)(2)(3)のどれもが、本来の意味では金融市場の安定を示唆するものではない。後述するが、大きな問題を先送りにしただけだ。それでも、株式市場は上昇し、債券市場には大崩れがなく、商品市場はマチマチながら不穏な兆候が見えなかったのは、「カネ余り」が主因だと見ている。
未だに、「何年ぶり、何十年ぶり、過去のサイクルでは」などと述べる識者は多いが、世界の主要中央銀行が空前の資金供給を続けてきた市場で、以前のことと比較するのは意味がない。空前とは、以前にはなかったことなのだから。
カネ余りの行く着く先は「投機バブル」だ。各地で住宅市場が急騰し、美術品や宝石などの多くが最高値で落札されたことなども兆候だが、2017年で最も目立ったバブルは、何といっても「仮想通貨ブーム」だった。
昨年1月1日時点の予想では…
昨年のここでの予想では次のように述べた。
金融市場で言えば、投資運用の根っこは国債利回りだ。ここを基準に、すべての金融商品の割安、割高が計算できる。反対に、ここを基準にしない割安、割高の判断は、根っこがないために、過去や類似商品との比較といった漠然としたものにならざるを得ない。
日欧がその国債利回りをマイナスとしたことは、投資運用の根っこを腐らせる政策だった。
根っこがない運用は投機的になる。投機が悪いというのではない。投資と投機とはやり方が違うので、銀行や年金、保険会社には、少しばかりハードルが高いのだ。また、資金が巨額過ぎると、事実上、投機ができない。これは世界の運用者が一様に抱える問題だ。
2017年もカネ余りで、根っこのない状態はまだ続く。欧州の政治、ユーロ、欧州連合、原油価格を鑑みても、相場は荒れると見るのが自然だ。そんな中で、利上げを継続すると思われる米国に、世界の資金が集まると見ている。
2018年金融市場の主なリスク
金融市場にそれほど馴染みのない方々は、「また、リスクかよ。リスク、リスクと驚かさずに、もっと明るい話をしてくれよ」と、思われるかも知れない。
とはいえ、投資、投機とは、リスクに向き合うことで、リターンを追求するものなのだ。従って、そのリスク分析が曖昧だと、思い通りのリターンは望めない。例えば、ビットコインに対しても、そのリスクを理解し、リスクと向き合うことなしに、投機すれば、リターンどころか大損もしてしまうのだ。
そこで、2018年の金融市場を動かすと思われるリスクを、10個選んで箇条書きにしよう。
- 日銀のマイナス金利政策継続の悪影響
- EUからの独立運動
- トランプ政権が導いた米国の孤立
- 地政学的リスク(中近東と東アジア)
- 中国の金融政策(通貨と金融政策)
- ロシア・ゲート
- 選挙の季節(ロシア、イタリア、米国)
- 住宅バブルの崩壊(オーストラリア、カナダ、中国、ノルウェー、スウェーデン)
- 米国内の貧富格差の拡大(税制改革案)
- カネ余り相場の終わりの始まり(FRB新体制の利上げ政策と、他中銀)
(1)~(3)は、2016~2017年からの懸念を2018年向けに表現し直したものである。次項から1つずつ検証したい。
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