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2019年の米国株は「甘く見ない」!安易な上げに飛びつかないように注意が必要=江守哲

2019年の米国株のテーマは「甘く見ない」。高いボラティリティのなか、上値の重い展開となりそうです。どうしてそうなるのか、その背景について詳しく解説します。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年1月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

米株市場、年前半はレンジ相場の可能性も…

今週の上昇は、年末の急激な下げに対する自律反発的な買い

米国株は上値の重い展開に。19年のテーマは、「市場を甘く見ない」ということになるでしょう。

年前半はもしかすると、レンジ相場になるかも知れません。昨年末にかなり急激に下げましたので、自律反発的な買いが入る可能性があるからです。

その場合、繰り返すように、ボラティリティの高い相場展開の中で、上値を試すことも出てきそうです。

しかし、とはいってもトレンドが変わることはありません。すでに下落トレンドに入っていますので、目先の動きで見方や考え方が変わることもありません。

いまは歴史的な相場の調整局面です。すぐには終わりません。ある程度の時間が必要です。

戻しても、それは一時的なものです。安易に買いつくと残念な結果になりがちです。注意したいところです。

トランプ大統領が「通商問題が解決すれば、株価は上昇する」と発言したことも米中貿易摩擦の緩和期待につながり、ダウ平均は上昇しました。

また、FRBのパウエル議長が4日に開催された討論会で、「必要なら政策を大幅に変える準備が常にできている」と発言し、利上げペースを見直す可能性を示唆したことが市場の不安を緩和させました。

さらに、7・8日に米中両国が次官級の貿易協議を開くことが発表され、両国間の貿易摩擦緩和への期待が広がったことも株価の上昇を後押ししました。

何と安易な上げでしょうか。市場心理がいかに不安定かを物語っています。

4日には昨年12月の雇用統計が発表されました。この内容が強かったことも、安心感につながったとの解説があります。

しかし、これは大いなる矛盾をはらんでいます。

景気実態が良ければ、パウエル議長の発言は何だったのか。そして、この日の株価の上昇は何だったのか。

全く整合性がありません。

つまり、これまでの下げに対する買戻しにすぎないわけです。

Next: 大幅反発にもかかわらず、米株市場が重い理由は…



金融政策はデフレ脱却やインフレ創出につながらなかった

もちろん、市場には強気派もいますし、割安だと判断して買っている投資家もします。だからこそ、株価は反発しているわけです。

しかし、その投資行動に矛盾があることに気づいていないのでしょう。だからこそ、いまの株価水準で買うという行動に出ているのだと思われます。

たしかに、雇用統計は強い内容でした。失業率は3.9%と前月から0.2ポイント上昇しましたが、非農業部門の就業者数の伸びは前月比31万2,000人と、昨年2月の32万4,000人以来、10カ月ぶりの高水準となりました。

失業率も、FRBが想定する長期水準の4.4%を依然として下回っており、堅調な景気を背景とした雇用の改善を示しています。

また、物価上昇の先行指標として注目される平均時給は前年同月比で3.2%増と、10月に続いて9年半ぶりの高い伸びとなりました。

しかし、いまはっきりしていることは、賃金の伸びとインフレ率の連動性はほとんどなくなっているということです。

したがって、賃金の伸びが利上げにつながるという図式はほとんど考える必要はないといえます。

金融政策がデフレ脱却やインフレ創出につながらなかったことは、すでにグローバル金融市場での常識です。

それを認めていないのは日銀とECBぐらいでしょうが、ECBもそれを認める方向にあります。

今後は原油安もあり、再びインフレ率の伸びが低下していくことになり、再びデフレへの懸念が強まる可能性があります。

こうなると、株価も上がりづらくなります。

それはともかく、そもそも、いまのステージは、繰り返すように「バリュエーション調整」です。

この根本的な部分を間違えないことが重要です。

Next: パウエルFRB議長の利上げ停止発言で株価が上がったのは間違い?



これ以上の金利引き上げは、景気悪化の引き金となる可能性

パウエルFRB議長の発言が材料視され、金利も大きく上昇しました。これは、非常に興味深い動きといえます。

つまり、パウエル議長は「景気悪化と株安を懸念している」ことを意識していることを認め、これまでのFRBの見方が間違いだった可能性を間接的に示唆したからです。

これは、メルマガで何度も指摘してきたことであり、ようやくパウエル議長が、私が指摘してきた問題点を認めたことになります。

つまり、これ以上の金利引き上げは「オーバーキル」になるため、これ以上の積極的な利上げはできないことを認めたわけです。

さらに言えば、利上げをすると景気も悪化する可能性を理解しているわけです。これは、すでに景気が頭打ちになっており、株価も下げ基調に入っていることを認めたことと同義です。

しかし、市場は利上げ停止を買い材料ととらえました。明らかに誤った考えです。いまの戻しはあくまで自律反発的なものであり、短期的な下げに対する買戻し主導の動きです。

利上げ停止が景気回復、株価上昇という解釈にはなり得ません。すでに米国株はピークアウトしています。

「利上げ停止が株安のサイン」とこれまでも何度も申し上げてきました。まさに、パウエル議長の発言はこのシナリオに見事に乗った発言といえます。

これで戻していけば、下げが厳しくなるだけでしょう。

そもそも、今回の調整が「バリュエーション調整」であることを忘れてはいけません。

株価形成の根幹である企業業績も気になりますが、これも昨年第4四半期の決算発表で、今後の傾向がはっきりしてくるでしょう。

つまり、米GDPの成長スピードに対して速すぎた株価上昇ペースは調整されざるをえないということです。

これは、金融政策の調整では止まりませんし、全く関係がありません。市場がいかに理解不足であるかを物語っているといえます。

このような、下げ局面での戻りがあるのが通常の動きです。上下動しながら下げていきます。

一直線に下げないのが難しいところです。いずれ下げるにしても、上下動するため、対応が難しくなります。

もちろん、安易にロングなどできません。ショートするにも、どのタイミングで行い、手仕舞いするかが非常に難しいわけです。

しかし、ショートを維持できれば、いずれ報われる相場であると考えます。

Next: 米株市場の動きを左右する、重要なチャートポイントとは?



バリュエーション調整は始まったばかり、本格的な調整は年後半から

これまで「今後はボラティリティが高まる」とかなり以前から指摘し、実際にそのようになっていますが、これは今後も続きます。仕方がありません。

景気拡大の最終局面では、このようになると何度も解説したとおりの展開です。驚くことではありません。ですので、このような動きを大前提に対応するしかありません。

過去の値動きを見ると、年前半は大きな値幅でのレンジ相場になり、本格的な調整は年後半からになることが想定されます。

そのため、ショートする場合でも、買戻しを入れながら、慎重に行いたいところです。

ダウ平均は2万3,000ドルが重くなるとみていましたが、いきなりこれを超えてしまいました。なかなか見通しは難しいですね。

しかし、重要なチャートポイントである2万3,500ドルを超えるかをまずは確認したいと思います。S&P500は2,540ポイント、ナスダック指数は6,740ポイントが相当します。

これらを超えると、一時的に大きく戻す可能性があります。

これらを超えた場合には、それぞれ2万4,500ドル、2,650ポイント、7,000ポイントまで戻す可能性がありますが、ここが精いっぱいでしょう。

「米国経済は何も変わっていない」「株価の下落はマインドの悪化」との指摘もありますが、すでに9年間も上げています。

また、「クレジット・サイクル」からすれば、10年サイクルを前提とした調整があってもおかしくありません。むしろ、普通でしょう。

そもそも、住宅指標が明らかに悪化しています。「何も変わっていない」というのは誤った考えであり、株価が上がってほしいと考える向きのポジショントークでしかありません。すでに基調は下向きです。

昨年末の下落で、四半期チャートが完全に崩れました。3月末にダウ平均が2万ドル、S&P500が2,300ポイント、ナスダック指数が5,700ポイントを下回れば、さらに下落基調が鮮明になるでしょう。

繰り返すように、今回の株安は「バリュエーション調整」です。今回の株価推移はハイテクバブルと同じと考えています。

15年から16年当時と比較する専門家が多いようですが、私は全く考え方が違います。それはすでに何度も解説した通りです。

「バリュエーション調整」はまだ始まったばかりです。これが完了し、調整が行き過ぎるまで長期ベースのロングは難しいと考えています。

ダウ平均で1万5,000ドル程度まで調整すれば、安心して買うことができると考えています。少なくとも、1万8,000ドル以下になるまで、いまの市場をじっくりと見ていきたいと思います。

Next: 株価に影響を与える外部要因は、いまどんな状況なのか



五輪の前年にいろいろなショックが起きている

今後はボラティリティがきわめて高い状態が続きます。その中で戻り売り戦略を継続します。ボラティリティが高くなりますので、19年はトレーディングを上手くやることが肝要です。

19年は「トレーダーの年」になります。「BUY AND HOLD」などの長期投資は報われないと考えています。「QUICK IN AND QUICK OUT」でトレードすることが肝要です。

間違ったら、すぐに手仕舞いし、次に備えることです。そして、大半を現金にし、余裕資金だけでトレードすることです。

このルールを守ることが、19年の市場ではきわめて重要です。長期投資を再開するのはまだまだ先でしょう。20年までのチャンスを待ちたいと思います。

「株価は割安」と判断できる水準になるには、ダウ平均は1万5,000ドル、S&P500は1,500ポイント、ナスダック指数は4,000ポイントです。相当下の水準です。

ハイテクバブルの崩壊当時と同じような下げになるでしょう。

市場関係者のほとんどは、いまの株価下落を「リーマンショック」と比較しています。これが大きな間違いです。いまはハイテクバブルと同じ局面です。

株価の調整期間も3年程度と長くなるでしょう。長期投資のポジションは、ここまで下げる過程で構築することで、心理的な安心感を保つことができます。それまではトレーディングに徹することが肝要です。

20年には東京五輪・パラリンピックがあります。近年は五輪開催の前年に、いろいろなショックが起きています

16年のリオ五輪の前年にはチャイナショック、12年のロンドン五輪の前年には欧州債務危機、08年の北京五輪の前年にはサブプライムショック(08年にはリーマンショック)がありました。

何の因果かはわかりませんが、事実としてこのような事態になっていたことは念頭に入れておきたいところです。

中国景気の懸念も、今後は米国株や世界経済の重石になるでしょう。

中国人民銀行は、金融機関から強制的に資金を預かる比率である預金準備率を1.0%引き下げると発表しました。

長期化する米中貿易摩擦の影響で経済の減速感が強まる中、金融面からの景気下支えを強化する方針です。かなり慌てている様子がわかります。

今回の引き下げは昨年10月以来で、今月15日、25日の2回に分けて実施します。

準備率の引き下げにより、金融機関は手元に保有する資金が増加することになります。市中に出回るお金は1兆5,000億元増える見通しです。

人民銀はこうした資金が民間企業の資金繰り支援などに活用され、経済活動が活発になることを期待していますが、人民銀は「金融政策を慎重に運営する姿勢に変化はない」とし、大規模な金融緩和には当たらないと強調しています。

しかし、景気が崩れるのを未然に防ぎたいという意思の表れと見ることができる一方、それだけ厳しい状況にあるということです。

中国の実質的な経済成長率はすでに4%台にあるとの指摘もあります。中には、3%台との指摘もあります。

いずれにしても、中国の長期的な大幅な経済拡大は終了したといえます。今後は厳しい状況が続くことで、日米欧の景気はこれに大きく影響を受けることになりそうです。

Next: 米株市場1月の想定レンジは…



パウエル議長は利上げペースを減速させることに含み

一方、前述のパウエルFRB議長の発言については、もはや説明の必要も無さそうです。

パウエル議長は4回に開催されたアトランタで開かれた米経済学会(AEA)年次総会の討論会で「インフレが落ち着いている状況では、利上げ判断は忍耐強くなる」とし、引き上げペースを見直す可能性を示しました。

また、利上げに不満を持つトランプ大統領が辞任を迫っても、「応じる考えはない」と明言しました。

さらに、世界的な株安について「市場が将来を先取りして下向きリスクを織り込んでいる」と分析し、「市場が発するリスクを注視し、今後の政策運営で考慮する」と発言するとともに、「必要なら政策を大幅に変える準備が常にできている」と説明しました。

FRBは昨年12月のFOMCで、今年2回の利上げ想定を示しましたが、市場では景気の先行き減速や米中貿易摩擦の影響を警戒し、引き上げは困難との見方もあります。

パウエル議長は、経済・金融情勢次第で利上げペースを減速させることに含みを持たせたといえます。

一方で、トランプ大統領が辞任を求めても受け入れない考えを強調しています。

パウエル議長は、「FRBは政治的ではない政策決定をする非常に強い文化を持っている」とし、政治から独立して金融政策に取り組む決意を表明しました。

トランプ大統領は利上げ方針に不満を募らせ、パウエル議長の解任を議論したとされています。

また、討論会に同席したイエレン前議長は、「大統領は金融政策について発言する権利があるが、批判が強まればFRBへの信認が損なわれる恐れがある」と憂慮し、バーナンキ元議長も「FRBが独立して政策判断をすることが明確であることが望ましい」と擁護しました。

もっともな発言といえます。

最後に今年と1月の想定レンジを掲載しておきましょう。弱気シナリオのレンジのみです。

【ダウ平均株価:2018年の想定レンジ】
弱気シナリオ2万483~2万3,675ドル、年末2万2,296ドル

【ダウ平均株価:1月の想定レンジ】
弱気シナリオ2万1,951~2万3,675ドル

【S&P500:2018年の想定レンジ】
弱気シナリオ2,183~2,561ポイント、年末2,336ポイント

【ダウ平均株価:1月の想定レンジ】
弱気シナリオ2,373~2,561ポイント

【ナスダック指数:2018年の想定レンジ】
弱気シナリオ4,794~6,871ポイント、年末5,224ポイント

【ナスダック指数:6月の想定レンジ】
弱気シナリオ6,064~6,871ポイント

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株式市場:日本株は米国株の写真相場

為替市場:ドル円は下落基調に転換

コモディティ市場:金は上昇継続、原油は戻りを試す局面

今週の「ポジショントーク」~現金化からタイミングを待つ

今ヘッジファンド投資戦略~「大変だった18年が終わる」

ベースボール・パーク~「本年もお世話になりました。」

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年1月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した日本市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

2019年1月7日号の目次

★新年のご挨拶
◎まぐまぐ大賞2018の受賞御礼
◎新メルマガ「江守 哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ」のお知らせ
☆トレード用インジケーターのご紹介
*「EMORI CLUB」の会員募集のお知らせ
*「EMORI CLUB」新年会のお知らせ
◆マーケット・ヴューポイント~「年前半はレンジ相場の可能性も」
*株式市場~米国株は上値の重い展開に、日本株は米国株の写真相場
*為替市場~ドル円は下落基調に転換
*コモディティ市場~金は上昇継続、原油は戻りを試す局面
◎今週の「ポジショントーク」~現金化からタイミングを待つ
○ヘッジファンド投資戦略~「大変だった18年が終わる」-投資戦略構築のポイント
◇ベースボール・パーク~「本年もお世話になりました。」
■セミナー・メディア出演のお知らせ

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