手放す必要のない優良銘柄を見つけ、1円でも安く買うこと。バイ&ホールドの長期投資で資産を増やすための王道を、どうやって実践するのかを解説します。今回は、つばめ投資顧問代表・証券アナリストとして活躍し、マネーボイスの人気著者でもある栫井駿介氏の連載『誰でもバフェット投資術 〜 バイ・アンド・ホールドで人生100年時代の資産を築く』第8回(最終回)をお届けします。
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
あとは実践あるのみ。5ステップのバリュー投資で資産を築く方法
投資家への第一歩をどう踏み出すか
ここまでの連載で、ウォーレン・バフェットが実践するバイ&ホールド投資の考え方について解説してきました。
しかし、これを読んだからといってすぐに成功できるわけではありません。資産を築くには自らリスクを取って投資を実践していかなければならないのです。
あなたが全くの投資の初心者であると想定しましょう。一体何から始めたら良いでしょうか。
【その1】元手を準備する
株式投資を始めるには、何よりもまず元手が必要です。どんな偉大な投資家であっても、最初はわずかな元手から始まりました。バフェットですら、新聞配達でせっせと稼いだお金が数兆円もの資産を築く最初のスタートになったのです。
現時点でお金持ちでない普通の人が元手を作るには、働いて稼いだお金をせっせと貯めなければなりません。私は収入の2割を投資資金として貯蓄することを推奨しています。ここで貯めたお金が、あなたが資産家になるための最初の一歩になるのです。
1単元の株式を買うだけなら数万円からですが、本格的に投資をしたいと思うなら最低100万円は用意しましょう。それすら準備できない人は諦めてください。元手も準備できない人に、長期投資で成功する素質はありません。
100万円を準備してそれで十分かと言うと、決してそうではありません。よっぽど才覚に恵まれない限り、100万円から増やせる金額はたかが知れています。まして1億円を目指すのは非現実的です。
最初の100万円を貯めてからも、元手の確保は続けましょう。常に資金流入があることは、後で説明する相場の流れに対処するという意味でも非常に重要となってきます。
【その2】年間の投資予算を設定する
元手が準備できたら、次に年間の投資予算を設定しましょう。
毎年100万円の貯蓄ができる人なら、100万円にすると良いでしょう。収入が続く限り、毎年100万円を投入し続けます。
逆に退職金などでまとまった資金がある人は、それを一度に投資してはいけません。5,000万円の資金があるとしたら、それを5年に分けて投資すると考え、年間の投資予算を1,000万円に設定します。
なぜ投資予算を設定するのでしょう。それは先の見えない相場に立ち向かって行く覚悟を決めるためです。
相場は結局のところどう動くか予測することは不可能ですから、「投資する」と決めなければ、ああでもないこうでもないと考えて、いつまでたっても踏み切ることはできません。しかし、一度決めてしまえば迷いはなくなります。
ただし、予算はあくまで生活に影響の出ない範囲内で設定しなければなりません。株価の動きはコントロールできませんから、お金を引き出したい時に運悪く株価が下落していたら、無用な損切りをしなければならないからです。
逆に言えば、余裕資金で設定されていれば、その後の株価の細かな動きを気にする必要はありません。バイ&ホールドの投資では、資金は固定するものと考えてください。
予算を設定するのは、無謀な投資を避ける意味もあります。
野放図に買いたい銘柄を買い進めていくと、すぐに資金がなくなってしまいます。運悪くその時が株価の天井だったら、後はただ下がり続けるのを傍観するしかなくなってしまいます。
しかし、予算が有限であるとわかっていれば、急いで買い進めることは避けられるはずです。また、ある年が天井でも、翌年以降も資金が残っていればまたチャンスは巡ってきます。逆に、チャンスが来た時に資金が残っていないほど悲しいことはありません。
Next: 最高の銘柄を見つけても焦りは禁物。1円でも安く買う方法とは?
【その3】良い銘柄を探し、安くなるのを待って買う
予算を設定したら、買いたい銘柄を探します。どのような銘柄を買ったらいいかについては、これらの記事を参考にしてください。
最高の銘柄を見つけたら、早速買おう、と思って焦ってはいけません。一歩立ち止まって現在地を確認する必要があります。PERは割高ではないか、配当利回りは納得できる水準か、過去の株価水準と比較して高いのか低いのか、といったことを見なければなりません。
しかし、そこまでしてもなお、絶好のタイミングとは言えません。
バイ&ホールドの長期投資で必要なことは、1円でも安く買うことです。少しでも有利に取引を行うために、買う価格を慎重に見極めなければなりません。
目をつけた銘柄の株価を見ていると、やがて大きく下落する局面がやってきます。それは、相場全体の下落であったり、その銘柄固有の悪材料であったりします。このような時がいよいよ買いに動く局面です。
下落した要因が相場全体の下落で、企業そのものに大きな問題がないと考えられるなら、おそらく買うべき瞬間でしょう。下落要因が固有の問題だとしたら、改めてその企業の本質に立ち返って分析し、問題がないと判断できた場合に限り下落に乗じて安い価格で買いつけるのです。
買い方は圧倒的に指値注文を推奨します。特に下落基調となっている相場においては、目の前の価格よりも安く指すことで、より安く買える可能性があります。
そうは言っても相場に張り付いている時間はないという人もいるでしょう。そのような方にもうってつけの方法があります。それは「階段状の指値注文」です。
指値注文では、注文期間を設定することができます。証券会社によりますが、1週間~30営業日程度です。目をつけた銘柄を安く買うために、できる限り長い期間で今の株価を基準に段階的に下方に指値を入れておきます。株価が下がったら、自動的に約定していく仕組みです。
<階段状の指値注文(例)>
この方法だと注文を入れてから放っておくことができますし、株価が下がれば下がるほど、購入単価を下げることができます。株価を毎日チェックする必要もありませんし、相場の下落時には悲観的になって買いを躊躇する前に、いつの間にか買われていることになります。
おおよそ、買うべきタイミングはテレビのトップニュースで株価の下落が伝えられる時です。この時はあらゆる投資家が一斉に売りに動きます。アルゴリズム取引が大勢を占めるようになった現在の株式市場ではその傾向がより顕著です。
賢明な長期投資家は、そのような時にアドレナリンを高めて買い向かうか、上記のように指値注文でさらっと買ってしまうものです。
Next: 予算が続く限り「買い下がる」。そして、ただ相場上昇を待つのみ
【その4】予算が続く限り「買い下がる」
目をつけたいい銘柄を、株価が大きく下落した時に買えたでしょうか。基本的にはそのまま持ち続けるだけですが、状況はそれだけでは終わりません。
もう下がらないと思って意気込んで買っても、そこから更に下がることも往々にしてあります。むしろ、そうなると思っておいた方が良いでしょう。どんな天才的な投資家であっても、大底で買うことはできないのです。
ここで予算の考え方が重要になってきます。まだ下がることを想定していれば、最初から予算を使い切るほど多く投資することはないでしょう。大きく下落するごとに買い増しを行い、購入単価を下げていくことが必要です。
これを「買い下がる」といい、1円にこだわるバリュー投資家にとって不可欠な手法です。
2019年は軟調な展開が想定されますから、この手法を使わない手はありません。予算の範囲内で、慎重さを保ちながらも買い下がり、最終的に予算いっぱいまで買うことが長期投資家がやるべき仕事です。
【その5】1~4を繰り返し、相場全体の上昇を待つ
さて、良い株を安く仕込んだら成果が出るのはいつになるでしょうか。運が良ければ明日にでも上がることはあります。しかし、それを期待してはいけません。
株価は毎日動いていますから、上がることもあれば下がることもあります。それを予測することは極めて難しく、日々の変化にこだわると投資は投機に姿を変えてしまいます。また、複数の銘柄のうち一つの銘柄が多少上がったところで、全体の資産の増え方はわずかなものです。
本当に資産が大きく増えるのは、相場全体が上昇する時です。どんな上手な投資家でも、相場全体の上昇がなければ資産を大きく増やすことは難しく、逆にどんな下手な投資家でも、相場が上昇すれば資産を増やすことができます。
投資の成果の半分以上は相場次第です。この事実を認めることで、投資家はようやくスタートラインに立つことができます。
長期投資の成功は、上昇相場が来るまでにどれだけ多くの株式をどれだけ安く仕込めるかにかかっています。株価の動きはコントロールできませんが、年間予算を設定することで仕込む量はコントロールすることができます。
最終的にはどれだけ資金を投じられたかどうかが、将来の資産額を分けるのです。
Next: あなたも今日から実践できる。バイ&ホールド投資の王道「まとめ」
今すぐバイ&ホールド投資を実践しよう!
さあ、あなたがやるべき事はもう見えているはずです。少しでもたくさん資金を投下するには、今すぐにでも資金を準備し始めることです。
もちろん途中うまくいかないこともあるでしょう。株価は思うようには動いてくれませんし、あなた自身の能力も日々改善しなければなりません。
しかし、良い企業を選ぶ力を身につけることで、投資した企業は確実にその価値を増やし続けます。早い段階でそのような企業に目をつけ、安いうちに仕込んでおくことこそがバイ&ホールドの長期投資で資産を増やすための王道なのです。
<【まとめ】バイ&ホールド投資の実践手順>
(1)元手を準備する
(2)年間の投資予算を設定する
(3)良い銘柄を探し、安くなるのを待って買う
(4)予算が続く限り「買い下がる」
(5)1~4を繰り返し、相場全体の上昇を待つ
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年1月31日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。