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北朝鮮のミサイル発射理由「米国への挑発」はミスリード、裏側にあるメッセージとは=江守哲

北朝鮮がきな臭いですね。とはいえ、本格的な動きになることはまずないでしょう。メディアの報道は表向きの見方しかしていません。今回はミサイル発射の裏側について解説します。(江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2019年5月10日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

真逆の反応を示す米国と韓国、なぜミサイルは発射されたのか?

韓国軍関係者「弾道ミサイルではない」

やはり北朝鮮がきな臭いですね。とはいえ、この動きはまだまだ序の口です。国際情勢への関心を高めるための、撒き餌といってよいでしょう。本格的な動きになることはまずないでしょう。まだまだ先は長いです。

今回の北朝鮮のミサイル発射について、時系列で見てみましょう。

韓国軍合同参謀本部は5月4日、北朝鮮が東部の元山付近から東北方向の日本海に向けて飛翔体を数発撃ったと発表しました。飛距離は70〜200キロメートルで、当初はロケット砲との見方が出ました。

韓国軍は、飛行特性や軌跡などから新型の300ミリ多連装ロケット砲としました。射程がばらばらなため、複数の種類の武器を発射した可能性も指摘されました。

発射したのがミサイルであれば、17年11月29日の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」以来、1年5カ月ぶりです。

ただし、韓国軍関係者は「弾道ミサイルではない」としました。ここに大きなポイントがありました。

(編注:米国国防総省は9日、北朝鮮が発射した飛翔体について「弾道ミサイル」と断定しました。日本政府も「短距離弾道ミサイルを発射したものとみられる」との分析結果を発表し、外交ルートを通じて北朝鮮に抗議しています。)

本当に米国へのいらだちが発射理由か?

2月の米朝首脳会談が事実上決裂したあと、経済制裁を緩めない米国に北朝鮮はいらだちを強めていました。そこで、北朝鮮はいら立ちの象徴として飛翔体を発射したという見方が大勢を占めました。さらに発射は米国へのけん制との見方が浮上しました。

これが、一般的なマスコミの報道であり、国民もそのようにとらえたでしょう。

今回の発射がロケット砲であれば、国連安全保障理事会決議に違反しないことになります。したがって、発射のメッセージとしては、国際社会との決定的な対立は避けたい思惑も示したというわけです。

これも、正しい見方がどうか、疑ってみるべきでしょう。みなさんはどのように感じたでしょうか。

さて、このように危機を演出する、北朝鮮が得意とする「瀬戸際戦術」をどのようにとらえるか、です。

そもそも、この行為自体が瀬戸際戦術かどうか、といった問題があります。

また、マスコミが報じるように、米国から制裁緩和など譲歩を引き出す狙いや、朝鮮半島における主導権争いなどが、背景にあるのでしょうか。

さらに、今回の発射で、非核化プロセスの膠着状態が長引く懸念が強まったのでしょうか。

すべて違うといえます。

もう少し、事実を確認しましょう。

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真逆の反応を示す米国と韓国

北朝鮮が4日に発射した飛翔体について、国営朝鮮中央通信(KCNA)は5日に、「北朝鮮が金正恩委員長立ち会いの下で4日、東海で多連装ロケット砲と戦術誘導兵器の攻撃演習を実施した」と報じました。そのうえで、「大口径の長距離多連装ロケット砲と戦術誘導兵器」の能力を試すことが目的だったとしています。

一方、この発射に対して、トランプ米大統領は「依然として金委員長との合意実現に自信をもっている」と発言しています。さらにツイッターに「金正恩氏は北朝鮮の素晴らしい経済的潜在性を完全に理解しており、それを妨げたり終わらせるようなことはしない。私が彼と共にいることも知っており、私に対する約束を破りたくはないはずだ」と投稿しています。

米国側に緊迫感はないといってよいでしょう。もちろん、トランプ大統領の発言は、米国の本音を示しているかは疑ってかかるべきであることは言うまでもありません。明確なのは、この段階では何も問題がないということです。つまり、すべてシナリオの範囲内であるというわけです。

一方、韓国大統領府は安全保障担当者を緊急招集し、敵対行為の全面中止を定めた2018年9月の南北首脳会談での軍事合意に反するとして、「朝鮮半島の軍事的緊張を高める行為の中断を要求する」との見解を発表しました。米国の対応に比べると、かなり強硬です。

金正恩もシナリオ通りに動いている?

専門家の中では、ベトナム・ハノイでの2回目の米朝首脳会談が物別れに終わったのは、金委員長にとって大きな誤算だったとの声が多いようです。トップ交渉で部分的な非核化と引き換えに制裁緩和を直接引き出す狙いでしたが、完全な非核化を求めるトランプ大統領が応じなかったことで決裂したというわけです。

しかし、この見方は正しいのでしょうか。あまりに当たり前の見方です。このような見方が正しいことは、まずありません。そう考えて問題ないでしょう。

一方、金委員長は4月12日の施政演説で、3回目の首脳会談に意欲を示し、「年末までは米国の勇断を待つ」と交渉期限を自ら設定しています。

さらに、これまで袖にしてきたロシアのプーチン大統領とも4月25日に極東ウラジオストクで会談し、「自分の疑問を米国に伝えてほしい」とトランプ大統領への伝言を託しています。

これまでは中国に頼る戦術でしたが、中国が米中通商協議関連で米国から尋常ならざる圧力を受けています。経済戦争を仕掛けられる中、中国に近づくのは賢明ではないとの見方に傾いたわけです。

というのも、これも表向きです。

米国側から、現在の米国の対中政策についてある程度の説明を受けている可能性があります。つまり、中国に近づくと、北朝鮮にとって良くないことが起きることを説明している可能性があります。

Next: 韓国の失政でおかしくなった朝鮮半島情勢、米国も北朝鮮も怒り心頭?



韓国の失政でおかしくなった朝鮮半島情勢

朝鮮半島情勢は、韓国の文大統領の失政でおかしくなってしまいました。米国は相当の怒りでしょう。文大統領を北朝鮮との橋渡し役に指名し、動かしてきましたが、使えない人物になってしまいました。

この点も北朝鮮からすれば誤算だったといえるかもしれません。

もっとも、韓国自体は本件ではそれ以上の役割は求められていません。あくまでつなぎ役であり、朝鮮半島情勢の改善において主役になることはあり得ません。経済も落ち目で国民性にも大きな問題があることが露呈しています。世界基準にはなりえないことは、米国が最もよく理解しているでしょう。

ロシアの登場で日本はやりやすくなる

こうなってくると、国際社会における中国の弱体化ロシアを利用した国際情勢の枠組み再構築の目論見が進みやすくなりそうです。

少し話はそれますが、5月3日の米ロ首脳電話協議では、段階的な非核化や早期制裁緩和を唱えるプーチン氏に対し、トランプ大統領は「ロシアが圧力を強化し続け、非核化につなげることが必要だ」とはねつけたことになっています。

しかし、北朝鮮が飛翔体を発射したのはそれから半日もたたない間でした。このように、いろいろな演出があるわけです。

ロシアが今回の朝鮮情勢の枠組み再構築に加わる可能性が出てきたことは、日本にとってもやりやすいといえます。

米国の手のひらの上で暴れる北朝鮮

北朝鮮をネガティブにとらえる向きは、北朝鮮の苦しい状況がミサイル発射につながったとしています。北朝鮮が米国に譲歩を求めるのは、苦しい内部事情があるというわけです。例えば、軍や軍需産業の関係者は非核化に強く反発しているといいます。金委員長が4月の最高人民会議で新首相や国務委員会の幹部に軍需部門に精通した人物を登用したことからも、軍部の掌握に躍起になっている様子がうかがわれるというわけです。

金委員長は、市民には「自力更生」のスローガンを掲げ、長引く経済制裁に耐え抜く構えを説いてきました。しかし、国連世界食糧計画(WFP)は、「北朝鮮で数百万人に飢餓状態が迫り、人口の4割に当たる1,010万人が食料不足に直面している」としています。

国内情勢的には、金委員長はかなり厳しい状況に追い込まれていることも確かでしょう。そのため、北朝鮮の行動がエスカレートし、先鋭化するとの指摘も専門家からは上がってきています。

しかし、そのような動きに対して、米国が慌てて動くことはありません。いまの動きはまだまだ演出の域を超えていません。

Next: トランプの最優先は来年の大統領選、日本はどう立ち回る?



トランプの最優先は来年の大統領選

米国は、「名目上は」完全な非核化と制裁の全面解除を一括合意する「ビッグディール」を目指していることになっています。そのうえで、「ボールは北朝鮮にある」とのスタンスを維持しています。

振り返ると、一昨年まではトランプ大統領は金委員長をぼろくそにこけ落としていましたが、第1回目の米朝首脳会談以降、弾道ミサイル発射や核実験が長らく実施されていないことを自身の政治成果として誇示しています。

したがって、国連決議に反しない範囲であれば、表向きの米朝対話を継続する方針を変える必要もありませんし、いまのやり方を継続することができます。

最大のポイントは、来年の大統領選であることを忘れてはなりません。これが何にもまして優先されます。それがいまの米国の基本戦略です。そのうえで、国防を最優先して対処するのが現在の政策です。イラン情勢の緊迫化もその範囲内です。

さて、今後は中国とロシアを巻き込み、北朝鮮を巡る主要国の駆け引きは活発になるでしょう。しかし、それも表向きだけの話です。

静観を続ける日本

6月末には大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されます。格好の演出の場になります。

G20には米中ロ韓に日本を加えた5カ国の首脳が集まります。中国の習近平国家主席がG20に先立って平壌を訪れるとの観測もあるようですが、これはむしろ自らの身を危険にさらすだけでしょう。

習近平主席がこのことを正しく理解しているかどうか、6月にはかなりはっきりとしてくるでしょう。

日本の対応ですが、いまは静観です。米国に任せています。ミサイル発射時にアフリカを訪問していた河野外相は、ポンペオ国務長官、韓国の康京和外相と個別に電話で協議しましたが、あくまで情報共有が表向きです。

日本政府は飛翔体発射に冷静に対応したことになっています。発射直後の防衛省発表では、日本の安全保障に直ちに影響を与える事態は確認していないと強調し、安倍首相も当時は静養先の山梨県鳴沢村で過ごしています。

森友・加計学園問題で政治が大いに揺れた時、北朝鮮から何度もミサイルが飛んできました。それも、日本上空を超えたものもありました。普通であれば戦争です。しかし、そうはなりませんでした。

これだけでも十分なヒントでしょう。したがって、いまの情勢があくまで表向きのものであることは容易に理解できるはずです。

このように、国際社会にとって、北朝鮮は非常に使い勝手が良いわけです。かなり過激に聞こえるかもしれませんね。

Next: 金正恩に拉致問題を解決する気はあるのか?マスコミ報道の裏で起きていること



金正恩に拉致問題を解決する気はあるのか?

さて、金委員長は2月末の米朝首脳再会談で、拉致問題に言及していたとされています。

金委員長は「日朝間の懸案として日本人拉致問題があるのは分かっている。いずれ安倍首相とも会う」とトランプ大統領に語ったといいます。トランプ大統領はこのやりとりを安倍首相に伝えたとされています。

米朝再会談時の金委員長の拉致問題への直接的な言及の存在が確認されたのは初めてです。ただし、金委員長が問題解決に意欲を持っているかどうかは明らかになっていないとされています。安倍首相は金委員長の真意を探ると同時に、日朝首脳会談の無条件開催に向けた調整を進める方針とされています。

これが、マスコミが伝えている報道です。あくまで表向きの話です。

マスコミが真の情報をつかんでいるとは思いませんが、国民は「そのような状態にあるのだろう」と考えているはずです。

一方、拉致被害者の家族はどうでしょうか。北朝鮮の拉致被害者である横田めぐみさんの弟拓也さんら家族会メンバーは、ワシントンでポッティンジャー米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長と面会しました。ポッティンジャー氏は、2月に行われた米朝首脳会談で、トランプ大統領が繰り返し拉致問題を取り上げたことを伝え、解決に向けた協力を約束したとされています。

面会に同席した古屋拉致議連会長は、「2日間にわたった2月の首脳会談で、当初話題を変えようとした金委員長に対し、トランプ大統領はそういうわけにはいかないと繰り返し拉致問題に言及した」としています。

しかし、この問題は非常に複雑です。というのも、だれがどこまで真実を知っているかがわからないからです。それによって、話す内容が大きく変わってくるからです。

一部の拉致被害者は真実を知っているはずですが、その周りや米国サイドはどうでしょうか。トランプ大統領や政権の中枢部は知っていると思いますが、とにかくこの問題はタッチーです。

安倍首相はトランプ大統領と電話会談で、北朝鮮の日本人拉致問題に関し「あらゆるチャンスを逃さない。私自身が金正恩朝鮮労働党委員長と条件を付けずに向き合わなければならない」とし、前提条件なしに日朝首脳会談を模索していく考えを伝えました。

安倍首相はこれまで日朝首脳会談について「行う以上は拉致問題の解決に資する会談にしなければならない」と強調しています。

6カ国協議の参加国のうち、日本だけが北朝鮮と首脳会談を行っていない現状を踏まえて方針転換した形です。しかし、実現の見通しは立っていません

とはいえ、これもあくまで表向きの話です。この話は、日本の外交の根幹にかかわる、きわめて重要な問題ですので、本当の話は絶対に出てこないでしょう。

それくらい、厳戒態勢で情報統制が行われているはずです。

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北朝鮮、9日にも再びミサイルとみられる飛翔体発射

動き始めたイラン情勢

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