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小泉進次郎氏、ポエムよりも言うべきことがあったはず。原発処理水問題での大失態=原彰宏

新環境大臣に就いた小泉進次郎氏は、就任してすぐに福島に赴きました。前任者の原発処理水「海洋放出」発言を受けての行動ですが、対応を誤ったと言えるでしょう。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年9月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

知識不足の大臣が多すぎる。実際、原発処理はどうなっている?

小泉進次郎大臣、なによりもまず「お詫び」

内閣改造で環境大臣に就いた小泉進次郎氏は、就任してすぐに福島に赴きました。千葉ではなく福島に行きました。

事前の予定で報道陣に知らされていた県庁を訪問する前に、いわき市で県漁業協同組合連合会の関係者らと面会し、原田義昭前環境大臣が、東京電力福島第一原発でたまり続ける処理済みの汚染水について「海洋放出しかない」と発言したことをお詫びしました

小泉環境大臣は県庁で報道陣に、「この発言によって、お怒りになった方、また大変苦しい思いをされた方にまず会って、自分なりの気持ちをお伝えしたいと思った」と説明。具体的な内容を問われ「率直に申し訳ない、と。大臣としてその思いを伝えないといけない」などと述べたとあります。

前環境大臣が真実をぽろり?

ここで問題となっているのは、原田前環境大臣の、新閣僚の発表を翌日に控えた大臣就任最終日での発言です。

福島第一原子力発電所にたまり続けている、放射性物質のトリチウムなどを含む水の処分について、原田環境大臣は「海洋放出しか方法がないというのが私の印象だ」と述べました。

福島第一原発で出る汚染水を処理したあとの水には、取り除くのが難しいトリチウムなどの放射性物質が含まれ、毎日170トン前後増え続けています

この水について、原田環境大臣は10日の閣議後の会見で、「環境省の所管を外れる事柄だ」と前置きをしたうえで、「思い切って放出して希釈すると、こういうことも、いろいろ選択肢を考えるとほかに、あまり選択肢がないなと思う…」と述べました。

記者から、「水を海洋放出して希釈するということか」と確認する質問が出ると、「それしか方法がないなというのが私の印象だ」と重ねて述べたうえで、

「しかし、これは極めて重要な話なので、軽々にこうすべきとは言えないが、まずは安全規制や科学的な基準をしっかり説明する。風評被害の回避も含めて内外に誠意を尽くして説明することが何よりも大切だと思う。政府全体でこれから慎重な議論をすると思う…」と述べました。

原田環境大臣の発言について、福島県の漁業関係者は強く反発しています。

世論は海洋放出に否定的

国民感情では、この発言を批判的に捉えているようで、小泉大臣は世論の流れを読む天才ですから、即座に福島に飛んで「お詫び」というパフォーマンスに出たと思われます。

それだけ世の中の風潮は、汚染水の海洋放出を否定的に捉えているようです。

原田前大臣も、海洋放出の世間の反応は読めたはずなのに、あえて主張したのは、「誰かが言わなければならない、自分はその捨て石になってもいい…」という思いからだと、自身のFacebookで述べています。

「なぜ海洋放出を受け入れなければならないのか」というところがポイントかと思います。

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知識不足の大臣が多すぎる

原田前大臣への批判は、発言内容は後で検証しますが、発言が内閣改造の前日だったことについて、就任の際に発言して議論するのではなく、大臣交代の前に言うのはあまりにも無責任だという漁業関係者の思いは大事にすべきだと思います。

少し論点がずれますが、原田前大臣は、この指摘に対して、就任してから1年かけて考えて出た結論だったと述べてますが、よく大臣就任記者会見で「これから勉強します」と答えますが、そんな人を所管大臣に据えてよいのかと思いますね。

適材適所なら、たとえばずっと環境問題を意識的に携わってきた人を据えるべきで、農業なら実際に農業現場に精通している人を大臣にすべきで、今もそうですが、パソコンにさわったことがない人をIT大臣にしたり、今のIT担当大臣だってとてもITに精通しているとは思えず、もっと若手でITに精通している人はいるはずです。

国民をなめていますね。

だから官僚の言いなりになり、どうせお飾りだから数年我慢すれば居なくなるとか、うまく操れば良いと政治家が官僚に軽視される風潮になるのです。

汚染水の海洋放出発言を聞いた人への配慮が足らないことは事実で、そこは明確に原田前大臣の失敗だと思います。

ただでさえ風評被害で苦労している福島の人たちの感情を、逆なでしたことになりますからね。

発言が「捨石」覚悟の重要な話だったとしても、もっと丁寧に、十分な前置きを入れて「海洋放出」という単語につなげるべきだということは否めません。

これがエリートの限界と言えばそれまでですけどね。

ここでは「配慮の欠如」の問題はここまでにして、発言内容の重要性に触れたいと思います。

トリチウムは有害か

福島原発処理の現実はどうなっているのか?

まず押さえておかなければならないキーワードは、

・トリチウム
・汚染水と処理水
・毎日170トン前後増え続けている現実

です。

トリチウムは「三重水素」と呼ばれるもので、不安定なため天然には微量しか存在しないものですが、トリチウムがこんなに騒がれるのは、最後まで除去できないところにあります。

福島第一原発では、毎日5,000人の作業員が防護服を着て、敷地の中の水を汲み上げて、約1,000基のタンクに貯めることを行っています。

その水のほとんどは、単なる雨水と地下水なのです。

一般に原発から出る水は、強い放射性物質を除去した残りは薄めて流しますが、2011年の事故で原子炉の炉心が溶融し、それを冷却した水に大量の放射性物質が混入しました。

これを除去するために、国の予算で多核種除去設備(ALPS)という最新鋭の設備を導入し、62種類の放射性物質を除去しています。

つまり、この時点で「汚染水」ではなく、ALPSで放射性物質が除去された「処理水」となるのです。

しかし、トリチウム(三重水素)だけはALPSでは除去できないで、処理水の中に残ってしまうのです。トリチウムは自然界にもある水素の放射性同位体で、酸素と結合して水に混じっているので、化学的には水素と同じで、原理的に分離できないのです。

トリチウムの含まれる水の量は福島第一原発全体で57ccと見積もられていますが、これが100万トンの水の中に混じっているのです。

ただトリチウムがごく微量のベータ線を出すのですが、水中を0.006mmしか伝わらないので人体にほとんど影響はありません。たとえば体重60kg程度の人の場合、50ベクレル程度のトリチウムを体内に保有していると言われています。

このことは、少しでも化学物質を勉強すれば分ることなのですが、「トリチウム」という名前が仰々しいのか、一般の人には理解してもらえないのが問題なのです。

Next: 「トリチウムは無害」は伝わらない。信用をなくした政府に打つ手なしか



「トリチウムは無害」は伝わらない

いくら専門家がデータを駆使して説明しても、日本の隅々までにトリチウムは無害であることをいきわたらせることは不可能です。

福島県漁業協同組合連合会が、汚染水(処理水と表現するほうが妥当かもしれませんが)海洋放出を反対するのは、「トリチウムが危険だ」と主張したいのではなく、「消費者が危険だと思うので魚が売れない」ということなのです。

トリチウムの害が“いかに小さいか”を説明しても、漁協の「風評被害は消えない」という論理には勝てないのです。

となると、お金で解決するしかない…。

漁業関係者にも生活があります。そもそも風評被害の原因を作ったのは東電ですから、風評被害による経済的損失を要求する、つまりは賠償責任を求め続けるわけですが、東電側はすでに休業補償を出していて、2回も補償金を出すことはできない、事故の責任は東電にあるので国が賠償することもできないという立場を取っているのです。

そんな中で、今回、当時の東電経営陣の事故責任は無罪判決が出されました。とても重要な判決です。

毎日170トン前後増え続けている現実

現在、毎日170トンの汚染水が発生します。

それを処理タンクに貯蔵しているのですが、すでに977機のタンクが満杯状態で、このままでは、今の敷地面積では2022年夏ごろには敷地内保管の限界が来るのです。

処理水をこれ以上貯めるのは危険で、このままタンクが増え続けることで、福島第一原発の敷地を埋め尽くす2022年以降に大地震が起こったら、あふれてしまいます。

2015年には作業員がタンクから転落して死亡しました。

このとき原子力規制委員会の田中俊一前委員長は「世論に迎合して人の命をなくしては元も子もない」と批判し、トリチウムの海洋放出には技術的に問題がないと述べていました。

科学的には、トリチウムが含まれる処理水に問題はないとされてますが、地元漁民の反対や世論の動向を気にして、処理水の対応を協議する経産省小委員会でも結論を先送りして今日に至っています。

もうあと3年で貯蔵タンクが限界になることで、原田前環境大臣は「捨石になる」として、すぐにでの海洋放出をすべきだという持論を打ち上げたのです。

あの発言のタイミングや配慮のなさは指摘どおりですが、発言の趣旨としては、ここまで結論を先送りしている経産省小委員会に結論を急ぐ意味合いもあり、また世間に、処理水の深刻さを理解してもらうため、海洋放出の結論ありきではないですが、処理水の議論を前に進めて欲しいという思いが込められた発言だったようでもあります。

さらに福島圏内の汚染土は約1400万立方メートル、これは東京ドーム11個分に相当し、中間貯蔵蔵開始後30年以内(2045年)に県外の最終処分場へ持ち出すことになっています。

政府は、30年以内に県外の最終処分場へ運び出すとしているが、その候補地すら決まっていません。

Next: あと3年で溢れる原発処理水。小泉進次郎新環境大臣は意味不明な発言?



小泉進次郎新環境大臣は意味不明な発言?

中間貯蔵施設が“事実上の最終処分場”になるのではないかという懸念に、具体的な対応が求められているなかで、小泉進次郎環境大臣は「約束は守るためにあるもの、しっかり形にするために全力を尽くしたい…」と述べるにとどまりました。

汚染土処理に対して具体的に思っていることはとの記者団の質問に対し

私の中で30年後を考えた時に、30年後の自分は何歳かなと発災直後から考えていました。だからこそ私は健康でいられれば、30年後の約束を守れるかどうかという、そこの節目を見届けることが、私はできる可能性のある政治家だと思います…

と、まったく真正面から答えない意味不明な回答をしています。これを橋下徹前大阪市長は「ポエム」と称したのです。

「竹下型」を極める小泉進次郎氏

松井一郎大阪市長は、科学的根拠で安全性が担保できれば大阪湾に処理水を流しても良いと述べていますが、輸送コスト等を考えると現実的かどうかという意見もあり、政治家特有のパフォーマンスであることは明白ですが、小泉大臣の発言に苦言を呈しているようでもあります。大阪湾の漁業関係者は、福島県漁業組合同様、松井市長の発言に対し、即座に反対の意を表明しています。

小泉進次郎氏は、今回、環境大臣兼内閣府特命担当大臣(原子力防災担当)となりました。

いままでは、言い放しで責任が及ばない発言に終始していてもかまいせんでしたが、これからは大臣としての行動が問われ、成果が求められます

テレビでもおなじみの山口真由氏は小泉進次郎大臣発言に対して、「あれは政治家の答弁のひとつの型で、竹下型と言われるものなんです」と指摘し、その上で

「宮沢総理に代表される宮沢型っていうのは、どんなことを聞かれてもまっすぐ答える。これは圧倒的な知識量を前提とするといわれ。竹下型というのは、どんなことを聞かれても誠実な面持ちをしてまったく違うことを答える。言語明瞭意味不明と言われたタイプで、これも立派な型なので、こちらをお極めになるおつもりなんだろうなという気がします…」

と、小泉進次郎大臣を評しています。

宮澤型でも竹下型でもかまいませんが、この福島原発汚染水(処理水)に関して、小泉進次郎環境大臣は「東京電力福島第一原発の処理済みの汚染水対策の所管は環境省でない…」と発言しています。

「海洋放出しかない」と発言した“原田見解”について記者に問われ、「福島の漁業関係者に(原田氏の発言の)お詫びをしに行ったら、のどぐろが獲れると聞いた。今度、環境省に来てくれると言うので、部屋で一緒に食べられないかと思います…」と答えたそうです。

Next: 発信力も影響力もある小泉進次郎氏だからこそ、言うべきことがあるのでは?



発信力も影響力もある小泉進次郎氏だからこそ…

小泉進次郎環境大臣は「所管外」という言葉を使って、汚染水処理の責任から逃げています。

しかし、彼ほどの発信力と影響力があるのであれば、むしろ、小泉進次郎氏の言葉で「トリチウムは無害だ」「汚染水(処理水)は安全だ」と言うべきではないでしょうか

東電の幹部の人は「飲んでも大丈夫です」と明言しています。

それが漁業関係者の生活を守ることであり、原子力廃炉推進に繋がるのではないでしょうか。

原田前大臣は、後任の小泉進次郎氏に対して、「寄り添うだけでは被災地は救えない」と語っています。

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R2d2ki at Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons


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らぽーる・マガジン』(2019年9月23日号)より一部抜粋
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