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ベネッセ、文科省と蜜月関係か。英語民間試験「TOEIC不参加」の理由で見えた不平等=原彰宏

大学入試「英語民間試験」の導入はいったん延期となりましたが、ほか教科でも問題は山積みです。そもそも日本教育と受験生のことを考えた改革なのでしょうか?(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年11月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

まさに「入試の民営化」。いったい誰のために導入されるのか?

大学「新テスト」採点業務、ベネッセが約61億円で落札

今年の8月30日に、大学入試改革「新テスト」の記述式問題の採点業務委託先がベネッセコーポレーションに決まりました。落札額は約61億6,000万円です。

ベネッセコーポレーションと言えば、
・進研ゼミ
・たまごクラブ・ひよこクラブ
・こどもチャレンジ
・しまじろう
…と挙げれば「あ~あれね」という言葉が出てくるでしょう。

これで、
・記述式問題の採点
・英語民間試験の実質的に数少ない選択肢の1つである「GTEC」
・今後大きな話題になるであろう「eポートフォリオ」
という、大学入試改革の目玉のすべてにベネッセが大きく関わることになります。

GTECとは、ベネッセコーポレーションが実施する「スコア方英語4技能検定」で、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能の英語力を測定する検定試験で、正式名称は「Global Test of English Communication」です。

文科省に強いコネクション?

2020年度の大学入学共通テストへの導入が延期された英語民間検定試験に関し、実施団体の一つであるベネッセの関連法人に旧文部省、文部科学省から2人が再就職していたことが明らかになった。

出典:英語試験法人に天下り 旧文部省次官ら2人 – 中日新聞(2019年11月7日配信)

記事には、旧文部省の事務次官経験者が同法人に再就職し、10月1日まで理事長を勤めていたとあります。国立大学の事務局長を務めた文科省退職者も、同日まで参与を務めていたと報じています。

大体この手の話では、民間企業と政府ないし政治家との癒着は想像がつきます。官僚の「天下り」を企業が受け入れるのも、このためですからね。

ベネッセと下村博文元文部科学大臣の密接な関係

週刊文春と週刊新潮は、ベネッセコーポレーションと下村博文元文部科学大臣との密接な関係を伝えています。

記事によれば、ベネッセ教育総合研究所の所長と理事だった人物が下村氏を支援する「博友会」のパーティーなどにたびたび出席、ベネッセコーポレーション元社長である福島保氏も後援会名簿に名を連ね「蜜月関係」にあるというものです。

「ベネッセは2014年に、3500万件の個人情報漏れが発生。同社は受注していた高校の英語力調査をいったん停止されながら、すぐに再開が許された。下村氏の後ろ盾のおかげだともいわれました」

出典:【下村博文】民間試験問題をめぐり…ベネッセと文科省の“深すぎる関係” – 日刊ゲンダイDIGITAL(2019年11月7日配信)

今回問題となった民間の英語検定試験に関して、ベネッセコーポレーションの「GTEC」採用の背景に「黒い霧」があると指摘しています。

その根拠として、ベネッセと「GTEC」を共催している「進学基準研究機構」(CEES)の

理事長の佐藤禎一氏は、元文部次官
評議員の安西祐一郎氏は、元中央教育審議会会長
理事の武田美保氏は、教育再生実行会議の有識者メンバー

だったことを挙げています。

また、ベネッセグループの福武財団理事・鈴木寛氏は、下村文科相時代に文科相の補佐官でした。

Next: なぜTOEICは不参加? 新テストは受験生にとって本当に公平・公正なのか



受験生にとって本当に公平・公正なのか

今回の大学入試改革と言われる制度変更のポイントは、次の2つです。

1)英語民間検定採用
2)記述式問題の導入

今回、大学入試において「英語民間検定」採用は延期となりましたが、これに関してはかねてより、

・事業者の利益相反
・受験機会の不平等
・適正な評価ができる状態にない

などの問題が指摘されてきました。「公平性」と「公正性」が問われていました。

英語民間検定業者選別に関しては、ここまでも述べてきた通り、ベネッセコーポレーションを軸に今あるメジャーな検定試験を採用しましたが、なぜか「TOEIC」は入っていません

「TOEIC」が不参加となった経緯を見れば、今回の問題の本質がわかると思います。

なぜTOEICは不参加?

「TOEIC」不参加の理由の1つが、スケジュールの問題です。

2020年度入試対象となる現役生は、現在高校2年生で、民間試験を受験する機会は高校3年生になる年の4月から12月までに2回あることになっています。

すでに受験まで1年を切っている段階で英語検定実施概要が発表され、第1回検定の予約申し込みは今年9月に終了しています。

「TOEIC」はほか試験と違い、4技能を1回の試験で測れないスケジュールとなっています。大学入試には「聞く・読む」(L&R)、「話す・書く」(S&W)の2つの試験が必要で、実施日も申込日も違うのです。

「TOEIC」を運営する国際ビジネスコミュニケーション協会の山下雄士常務理事は、昨年3月の認定時には、「4技能について2つの試験の成績を足して提出すればいいものと認識していました」として、不参加の理由をこうに説明しています。

「他民間試験との公平性を保つために2つの試験の受験時期を近づけることや、AO入試や推薦入試などに合わせ3つの時期に区切った成績提出も要求され、現行のシステムでは対応しきれない問題が出てきた。

L&Rは申込者が全員受けられるのに対し、コンピューターを使うS&Wは台数に限りがあるため申し込みは先着順。受験生が希望するタイミングで確実に受けられるという保証ができない。試験日も世界各国で調整し設定されるため、大学入試に合わせ融通を利かせることも難しい

山下専務は、「実際の入試でご迷惑をおかけする前に、と取り下げの決断に至りました」と説明しています。

TOEIC側は「受験機会の不平等」を問題としたのですね。

「TOEIC」がこれらの理由で不参加を表明したにもかかわらず、文部科学省は6つの民間団体と7種類の試験を用意して、英語民間検定導入を推し進めてきました。

そもそも種類の違う7つの試験を受けて、公平平等に評価できるのでしょうかね

Next: 指定の民間試験を受けないと大学受験できない不公平さ



受験生たちを平等に評価できるのか?

受験生自ら検定を選ぶ仕組みなのですが、各試験によっては受験地設定に関して都市と地方との格差が出ていることや、検定受験料負担の重さが家庭によって異なることで学生間で受験回数に差が出ることや、そもそも受験できない学生も出てくることが懸念されていました。

検定受験会場が都市部に集中していることで、地方の学生の交通費や宿泊費負担が、受験そのものをあきらめることにも繋がります。

「予備校に通う高校生と通わない高校生がいるのと同じ感覚」と文部科学省は説明しているようですが、ある現役高校生は、「予備校に通わなくても大学受験はできるが、検定試験を受けなければ大学にいけない仕組みが問題」と訴えていました。

この英語検定受験料に関して萩生田光一文部科学相の「身の丈“失言”」により、結局は英語民間検定導入は先送りとなりましたが、2024年度までに、あらためて導入を含め、抜本的に検討するとしています。

「廃止」ではなく「延期」です。

今回の改革はひと言でいうと「入試の民営化」だ……このような意見も出ています。

受験生のため?大企業のため?

なぜ、今回のような英語に限って、民間検定を入試に採用する必要があったのでしょう。

グローバル人材育成のためと言っているが

学問の世界もビジネスの世界も英語が事実上の共通語となっている現代社会において、いつまでも「翻訳と文法」だけの英語学習ではグローバル人材を育てることができないので、読み書きだけでなく、聞く話すを加えた4要素の学力検査が必要だという考え方があります。

そもそも「入試制度を変えることで、グローバル人材を育成することができるのか?」という疑問もあります。

そもそも「高校で4技能を学ぶカリキュラムにはなっていないのに、入試でその技能を求めるのはいかがなものか」という意見もあります。

グローバル育成なら『TOEFL』一択で良かったのではないか」という意見もあります。

これに対しては、「TOEFLは米語であり、英国系の検査も入れないとバランスを欠く」という意見もあるようです。

また、「TOEFLなど外国の団体だけを指定するのは国策として資金流出に繋がるので、国内の民間企業にも参入を許した」という見方もあります。

民間企業選別には「大人の事情」が絡んでいるようで、そう考えるとベネッセコーポレーションがなぜ落札したのかが、非常に気になってしまいます。

この「大人の事情」を優先させ、6つの民間団体から7種類の試験を受験させることで、

・試験形態の違いをどう標準化させるのか
・受験費用の差をどうするか

など、どう考えてもフラットにならない歪な状況を「後解釈」で無理やりねじ伏せたような感覚を持つのは、どうしても否めないでしょうね。

この複数の民間企業が学生確保のために、

・点が取りやすい
・有利になる

などという謳い文句とともに、セールス活動がされているとのことです。なんなのでしょうね。

Next: そもそもは自民党から出た案だった。「入試の民営化」の目的は…



そもそもは自民党から出た案だった

2012年10月、安倍晋三自由民主党総裁は、就任後ただちに経済再生と教育再生を日本の再生と位置づけ、党の組織運動本部に教育再生実行本部を設置しました。

発足時本部長が下村博文衆院議員、現在の本部長は馳浩衆議院議員で、いずれも安倍総理の出身派閥細田派(清和会)所属議員です。

教育再生実行本部の具体的な提言は、

・英語教育、理数教育、ICT教育を中心とした「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」
・「平成の学制大改革」、「大学・入試の抜本改革」、「新人材確保法の制定」などを 盛り込んだ「第二次提言」
・教科書検定の在り方特別部会の 「議論の中間まとめ」
・教育再生推進法の制定に向けてその骨格を示した「第三次提言」
・教育投資・財源特別部会の「中間取りまとめ」
・チーム学校の推進、高等教育の成長戦略などを盛り込んだ「第四次提言」
・必要な教育投資とそのための財源の在り方に関する「第五次提言」

となっています。

その自民党教育再生実行本部による2013年4月の「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」で、英語における4技能習得の必要性が訴えられ、「TOEFL」の活用が強く提言されました。

大学の従来入試の見直して「TOEFL」の一定以上の成績をもって受験資格とするように求められました。

このときの本部長は遠藤利明元東京オリ・パラ担当大臣、さらに副主査が萩生田光一現文科大臣です。

とにかく「TOEFL」採用を強く推したのが遠藤利明本部長(当時)で、ご自身はTOEFLは受けたことがなく、受けても10点ぐらいだろうと公言しておられるようです。遠藤議員自身が「自分は英語が全然ダメだ」と表明しています。

なぜ「TOEFL採用」が強く推されたのか?

その遠藤氏が、なぜこうも強く「TOEFL」採用することを推すのでしょうかね。

この「TOEFL」を英語教育に導入することは、2013年10月、内閣府に設置された教育再生実行会議でも議論され、「TOEFL」等を活用することが強く求められました。

この自民党案が、2014年に文部科学省中央教育審議会(中教審)で議論され、同年10月に4技能を総合的に評価できる民間試験の活用する答申が出されました。

つまり、英語民間検定活用は、文部科学省主導ではなく自民党主導で出されたもので、それを文部科学省は、数々の問題点が出ることを承知しながら推し進めざるを得なかったという経緯があります。

英語を話せる教育を学校現場に導入しようという議論に賛成の人は総じて英語が苦手で、反対の人は総じて英語が上手い……なんてことが、皮肉を込めて語られているようです。

Next: 英語民間検定導入は「蟻の一穴」? 日本の教育が崩壊しかねない…



英語民間検定導入は「蟻の一穴」

先ほど「入試の民営化」という表現をご紹介しましたが、大学入試に英語民間検定を導入するその先にあるのが「教育の民営化」で、つまり今回の英語民間検定導入は「蟻の一穴」であるとの指摘があります。

高校生のための学びの基礎診断」というのがあります。

文部科学省ホームページには

義務教育段階の学習内容を含めた高校生に求められる基礎学力の確実な習得とそれによる高校生の学習意欲の喚起を図るため、高等学校段階における生徒の基礎学力の定着度合いを測定する民間の試験等を文部科学省が一定の要件に適合するものとして認定する仕組み。

出典:「高校生のための学びの基礎診断(PDFファイル)」 – 文部科学省ホームページ

とあります。

民間検定試験に丸投げ…?

いわゆる「英検」だけでなく、実用数学技能検定(数学検定・算数検定)もあり学研系の「基礎力測定診断」、ベネッセ系の「ベネッセ総合学力テスト」、リクルート系の「スタディサプリ学びの活用力診断」などが民間企業にはあります。

たとえばスマホでも学習できる「スタディサプリ」を学校が一括契約して、通常よりも安い価格で学生に提供し、それを使って検定試験にチャレンジさせる学校もあります。

そもそも大学入試改革の最終的な目的は、一発勝負のペーパーテストを減らし、推薦入試やAO入試のような形式の入試を増やすことだと言われています。

つまり、これらの民間試験が将来の大学入試の大部分において大きな役割を担うことになっているとの指摘があります。

これが安倍政権が言う「明治以来の教育大改革」なのでしょうか。

教育の民営化とは、誰のためになされるものなのでしょう…。

数学や国語の記述式問題と採点の不透明さ、おまけにバイトが採点?

来年度からの共通テストでは、従来のマークシート式に加え、国語と数学の一部で記述式の問題が出されることになります。

このうち国語の記述式は小問3題で、成績は点数化せず、各小問の評価を組み合わせた総合評価をA~Eの5段階で示すことになっています。

評価方法が複雑なため、正確に自己採点しづらいことで、受験生は、採点結果が通知される前に出願する大学を決めなければならないため、精度の高い自己採点ができないのは大きな問題だとの指摘があります。

最大50万人以上の答案を民間業者が短期間で採点するため、公平性などを不安視する声も根強いです。

記述式の導入は、マークシートからは読めない創造性をはかることが目的のようですが、はたしてその目的は果たせるのでしょうか。創造性よりも、あるべき解答を忖度して書くようになるのではないかとも言われています。

Next: 子どもたちの教育もビジネス重視? ベネッセへの委託費用は税金だ



ベネッセへの委託費用は税金

なお冒頭にも触れましたが、この採点を全面的に委託されるのがベネッセコーポレーションです。落札額は約61億6,000万円、これは「国民の税金」です。

受験の民営化で、公費を大企業に流す構図として、数学や国語の記述式が採用されたのではないのか……このような指摘が出るくらい、今回なぜ記述式導入が必要なのかがわからないのです。

しかも、記述式は解答が無限大にもかかわらず、採点をアルバイトが行うのではとの話もあるそうです。

現場の教師に民間試験の情報はほとんど下りてきていない見切り発車すぎる……。

英語は消費財だからビジネスになる……そうです。日ごろから、英語を使わない日本人にとっては、英語教材はビジネスに最適なのだそうです。英語が公用語になればビジネス以前の話ですし、たしかに英会話学校はいつの時代も人気ですしね。そもそも英語は話せなければならないという概念は正しいのでしょうか。

はたして受験制度改革および教育改革は、いったい誰のためになされるものなのでしょうかね…。

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image by:ja:User:Sanjo at Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

※本記事は、らぽーる・マガジン 2019年11月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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らぽーる・マガジン』(2019年11月11日号)より一部抜粋
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