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楽天「送料無料」騒動で客離れ加速。なぜAmazonやYahoo!と差がついたのか?=栫井駿介

楽天が一定額以上の購入で「送料無料」を出店者に強制したことで、公正取引委員会を巻き込む大問題に発展しています。楽天はオンラインショッピングモールの覇権争いで生き残れるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

わかりにくいのは送料だけ?楽天とお店から大量の広告メールが…

楽天は小規模事業者用

先日、バイク用にワークマンの「イージス防水防寒ツナギ服」を買おうとネットを探していると、公式サイトと楽天の売り場が出てきました。

楽天には、以下のような注意書きがありました。

出典:楽天

ワークマンが楽天から2020年1月いっぱいで撤退するという内容です。確かに、飛ぶ鳥を落とす勢いのワークマンなら、もはや楽天に頼らなくてもやっていけるという算段があるのでしょう。

このように、楽天は小規模業者のためのプラットフォームであることがわかります。

出店者の反発を買った「送料無料の強要」

しかし、いまその小規模業者たちから大きな反発を買っています。

その原因が、出店者に対する送料無料の強制です。3,980円以上購入した顧客に対し、3月18日以降の送料を無料にしなければならないと出店者に通知しました。

これに対し、事業者で構成される「楽天ユニオン」は、楽天側の通知が独占禁止法上の「優先的地位の濫用」にあたるとして、公正取引委員会に署名を提出しました。

送料無料は消費者としてはありがたい話ですが、楽天側の一方的な姿勢に両者の対立は深まっています。

楽天<4755> 週足(SBI証券提供)

騒動を懸念してか株価は下落し、10ヶ月ぶりの安値を更新しました。

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わかりにくいのは送料だけか?

一連の騒動には、楽天のビジネスモデルの特徴と問題点がよく表れています。

ネットショッピングをするために商品を検索すると、楽天市場が検索結果の上位に表示されます。クリックすると、楽天市場への入場です。

サイトに入ってまず思うのは「ごちゃごちゃしていて、わかりにくいサイトだな」ということです。どこから注文して良いのかわからず、気がついたら別の商品にたどり着いてしまったりします。

同じ商品でもどれが最安値なのかもわからず、さまようことになります。仕方なく最安値は諦めて、店舗のレビューから間違いのないところを探そうとしていると、いつの間にか日が暮れてしまいます。

そうまでしてようやく決断し、最後のクリックを押す時にはダイレクトメールのチェックを外すのを忘れてしまいます。気がつけば大量のメールが受信ボックスを埋め尽くし、1つ1つ「配信解除」を行う羽目になるのです。

このように、楽天の最大の弱点が「ユーザービリティ」であることは間違いないでしょう。一目で最安値がわかり、ワンクリックで買い物ができてしまうAmazonとは雲泥の差です。

送料無料は「支払総額をわかりやすくするため」とのことですが、わかりにくいのは支払総額だけでしょうか。サイトの作り全体がそのわかりにくさを際立たせていると感じるのは私だけではないはずです。

ポイントは実によくできた「撒き餌」

それでも多くの人が楽天で買い物をします。最大の理由は「ポイントが付くから」です。購入金額の数%ものポイントが還元されます。

楽天スーパーポイントは、楽天のサービスを利用すればするほど付与率が上昇します。楽天銀行で口座を開き、楽天カードで買い物をして、スマホの契約も楽天モバイルにすれば、付与率は何倍にも上昇します。

何を隠そう、私自身がポイント中毒者になっています。楽天モバイル、楽天銀行(住宅ローン)、楽天証券、楽天トラベルと楽天のサービスに依存しきりです。これだけやっていると、気がついたら何千ポイントも貯まっていることが珍しくありません。

ポイントという「撒き餌」効果もあり、クレジットカードや銀行、証券などの楽天の金融事業は輝かしい業績を挙げています。

いまや、楽天の営業利益の半分は金融事業から生まれているのです。

Next: 金融事業で儲かっても「楽天市場」は重要? 楽天がハマった落とし穴



金融事業で儲かっても「楽天市場」が重要な理由

これだけ楽天に毒されている私ですが、最近はポイントが貯まってもあまり楽天で買い物をしなくなりました。

最大の理由は、「わかりにくい」「使いにくい」というものに加えて「欲しい物がない」ということです。

ネットショッピングをしようと思って、まず訪れるのがAmazonです。すぐに欲しい物が見つかりますし、最安値探索をする必要もありません。レビューも豊富で、明らかな割引目的のレビュー(「すぐに到着しました!」など)が多い楽天よりも有用です。

さらに、冒頭のワークマンのように、出店者側の知名度が上がれば、彼らは楽天から「卒業」することになります。楽天だと手数料を取られますから、ネットショップを自社で構築できるならそのほうが「お得」になるのです。

その結果、楽天に残るのは自社だけではマーケティングが難しい小規模な業者、訪れる顧客はポイントにうるさい「ケチな客」ばかりということになり、まさに露店が連なる「青空市場」のような状況になっているのです。

そこでしか使えないポイントを持っていても仕方がありませんから、あえて銀行や証券の口座を作ろうとは思わなくなります。

したがって、いくら金融事業で儲かっていると言っても、楽天経済圏がポイントを軸に形成されていることを考えると、楽天グループとしての肝はやはり「楽天市場」なのです。

ECサイト運営で鍵を握るのは「物流」だ!

私は半分「卒業」してしまいましたが、それでも小規模な出店者や、あえてそこで買い物をしたい消費者にとって楽天は不可欠なものです。知名度(検索優位性)とポイントの力は非常に大きいと言えます。

しかし、楽天もそれに甘えてばかりもいられません。ライバルのヤフーショッピングは出店の無料化を打ち出し、楽天の牙城を切り崩しにかかっています。

海外勢でもAmazonはもとより、カナダ発の「Shopify」という簡単にECサイトを立ち上げられるサービスも上陸しています。まさに、領地の奪い合いが起きているのです。
※参考:アマゾンキラー、ショピファイ 世界で100万社超導入 – 日本経済新聞(2020年1月23日配信)

そんな時に、出店者の反感を買う送料無料化はいただけません。

彼らはこぞって他のサービスに流出してしまう可能性があります。ヤフーはその隙を抜け目なく突いてくるでしょう。

送料無料化の前に楽天がすべきことは、物流網を整備することです。Amazonがあれだけシンプルな注文ができるのは、先に倉庫などの物流網を作ってしまったからです。

Amazonの出店者は、商品を倉庫に預けてしまえばあとは注文があればAmazon側が発送してくれ、運営がとても楽になります。これがあるからこそ、手数料が高めでも出店したい業者が次々に現れるのです。

最近になって楽天もようやく物流網の整備に取り掛かったようです。2,000億円を投じて自前の物流網を整備しようとしています。楽天の自社発送は現在10%程度ということですが、2021年には50%にまで引き上げるとしています。
※参考:楽天・三木谷社長が語る送料無料ライン全店舗3980円以上を行う理由と今後の物流戦略 – ネットショップ担当者フォーラム(2019年8月7日配信)

楽天が行うべきことは、送料の負担を出店者に押し付けることではなく、発送の負担を自ら担って、出店者をより楽にすることだと思います。

これとサイトの改善ができれば出店者が増え、この先もオンラインモールの雄としての立ち位置を確立していけると考えます。

Next: ZOZOを手本にすべき? 楽天はネットショップの覇権争いに生き残れるのか…



楽天が手本にすべき「ZOZO」

楽天が参考にすべきなのは、ZOZO<3092>だと思います。

前社長の前澤氏の奇抜な行動ばかりが目立ちますが、ZOZOのサイトは非常に洗練されたものです。カテゴリーやブランドから容易に検索でき、ストレスはほとんどありません。

物流に関しても、早い段階で「ZOZOベース」と呼ばれる物流拠点を構築していました。ZOZOで注文すると、商品がZOZOから直接届いていることに気がつくでしょう。

サイトと物流をきちんと構築することにより、出店者はストレスなくECサイトを立ち上げることができます。これがあるからこそ、それなりに知名度のあるブランドも、「じゃあZOZOに任せてみようか」ということになったわけです。

出典:ZOZOタウン

そのZOZOを買収したのが、Zホールディングス(ヤフー)<4689>です。この買収は、単に規模を追うだけではなく、ECサイト構築のノウハウを獲得する目的もあったのかもしれません。

楽天とヤフー(ZOZO)、Amazon、Shopifyなど、オンラインショッピングモールの覇権争いはまだまだ続きそうです。この中で楽天が生き残れるかどうかは、最終的に顧客(消費者および出店者)に本当に役立っているかどうかに尽きるのです。


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image by:Michael Vi / ShutterStock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年1月29日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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