メルカリの子会社・メルペイが、スマホ決済サービス「Origami Pay」を運営するOrigamiを買収すると発表しました。これでキャッシュレス業界は3極化による小康状態へ向かいます。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
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消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
ヤフー・LINE統合との相違点は?なぜ今、メルカリは動いたのか
スマホ決済統合の先駆けとなったヤフーとLINE
スマホ決済(QRコード決済)の統合が進み始めました。
きっかけとなったのはPayPayとLINEPayの動きです。昨年11月に、ポータルサイト大手のヤフーとメッセージアプリ大手のLINEが今年の10月をめどに統合する予定だと発表しました。
正確にいえば、ソフトバンクグループ傘下のZホールディングスの100%子会社であるヤフーと韓国の大手IT企業ネイバーの子会社であるLINEが統合するということですが、実質的にLINEがソフトバンクグループになったことを意味し、これによって、両社が提供するスマホ決済サービスのPayPayとLINEPayの行方に注目が集まったのです。
同時に、QRコード決済の事業者の間に衝撃が走り、いよいよ数多くあるQRコード決済サービスの統合、淘汰が始まるのではないかと、みな戦々恐々となりました。
新ビジネスへの足掛かりになるQRコード決済
QRコード決済の仕組み自体はさほど難しいものではありません。
たとえば、1v,000万人規模の会員がいる事業者がその会員向けにQRコード決済サービスを行えば、効率的な顧客囲い込みとマーケティングで、ある程度の採算が見込めます。
また、事業者にとってQRコード決済サービスが、信用スコアであるとかMaaS(マース・トヨタが始めようとしている交通系のサービス)といった新しいビジネスへの足掛かりになるという魅力があります。
そのため、あらゆる業種の事業者が鵜の目鷹の目で参入してきており、QRコード決済サービスの種類は今や50を超えるともいわれています。
そのカオス状態がいよいよ〝臨界点〟に達しようとしているのではないでしょうか。
Next: ヤフー・LINEの統合と同じ?まったく違う? なぜ今メルカリは動いたのか
QRコード決済サービスの草分けオリガミ
そして、年明け早々、明らかになったのが、メルカリのオリガミ買収でした。
オリガミは2012年に創業したQRコード決済の草分け的存在で、2015年に「オリガミペイ」をスタートさせました。ファストフードのケンタッキー・フライド・チキンと組んで「半額キャンペーン」なども行ってきましたが、昨年あたりから、地方に重点をおく戦略に大転換しました。
具体的には、信金中央金庫と業務提携し、地銀や信用金庫などと協力して、それぞれの地域に根差した中小店舗でのQRコード決済の普及をサポートしてきました。青森ではJR東日本と提携して街づくりにも深くかかわっています。そんなこともあって、私にとっては「将来性を感じる」QRコード決済のひとつでした。
例えば、富山の北日本放送のテレビ出演をしたとき、地銀や信金をサポートするオリガミの話になりました。ほかの地方に行ってもオリガミの話がよく出ました。
また、オリガミはトヨタファイナンスと組んで、TOYOTA TS CUBIC Origami Payの発行も始めていましたから、地方にうまく食い込んでおり、ここが残ればおもしろいと思っていました。
メルカリの狙いは地方の小規模業者か
一方のメルカリは、「メルペイ」でQRコード決済サービスに参入したのは2019年2月と後発で、決済専業のオリガミとは違ってフリマアプリで急成長したネット企業です。
老若男女が利用するメルカリは、ひとりひとりの個人があらゆるモノに値段をつけて売り買いする新しい文化をつくったといえるかもしれません。
この「メルカリによるオリガミの買収」は「ヤフーとLINEの統合」の時とよく似ています。
PayPayとLINEPayの統合は、決済専業者(PayPay)とアプリ業者(LINE)の統合でした。一方のオリガミとメルペイも、同じように決済専業者とアプリ業者との組み合わせです。会員特性としても決済専業者は男性中心、アプリ業者は若い女性中心という点でもよく似ています。
このことを頭に入れて、2つの統合話を考えてみましょう。
PayPayとLINE Payが一緒になると聞いて、最初はLINEPayがPayPayに食われてしまい、メッセージアプリのLINEのユーザーも離れてしまうのではないかと多くの人が考えました。
しかし、実際に10月に統合してどうなるか不透明な要素はあるものの、それぞれの特徴を生かしてうまく棲み分けていくのはないかと考えられています。
LINEの顧客はスマホを使う若い女性が中心です。これはパソコンで育った男性中高年が多いヤフー(PayPay)とは対照的です。
そう考えるとLINEの利用者は、ヤフーにとっては、一番欲しかった顧客層といえるでしょう。食い合いはしないどころか、最も理想的な組み合わせといえます。
したがって、メルペイとオリガミペイも上手にすみ分けていくのだろうと思われがちですが、どうもそうではないようです。
それはなぜかというと、メルカリがほしいのは、オリガミが持っている顧客層ではなく、地方の加盟店だからです。
Next: 赤字が膨らんだオリガミの決算。QRコード決済は3極化による小康状態へ?
赤字が膨らんだオリガミの決算
オリガミペイの加盟店は地方の中小の店舗が中心で、約19万店です。
これに対してメルペイの加盟店は約170万店とオリガミペイに比べると桁違いに多いのですが、その大半は三井住友カードや電子マネーのiDの加盟店です。
ということは、メルペイの加盟店の多くが大手ネットワークの店舗であって、その軒先を借りているにすぎないのです。自前で開拓したものではないということです。
そのため、満足な顧客データを手に入れることができません。キャンペーンをやるにしてもiDが行う範囲以内のものにならざるをえません。結果として大きな成長が見込めず、うまみがないサービスということになってしまいます。
それがわかったために、経営体力を消耗しているけれども自前の加盟店をしっかり持っているオリガミに白羽の矢を立てたのです。オリガミは2016年=6億8,900万円、2017年=13億600万円、2018年=25億4,400万円の赤字を計上し、業績が急速に悪化しています。
メルカリが欲しいのはオリガミの加盟店だけですから、買収後、オリガミペイをメルペイに吸収することになるでしょう。
昨年、メルカリはLINEやNTTドコモ、KDDIとQRコード決済の加盟店開拓を共同で行う団体を設立していましたが、冒頭で述べたようにLINEがヤフーとの提携を発表したためあえなく空中分解してしまい、加盟店の共同開拓は日の目を見ずに終わっていました。
3極化による小康状態に?
今後、QRコード決済サービスの集約・淘汰の動きはさらに加速していくと考えられますが、体力勝負の消耗戦が続けば、資本力のある大手も無傷ではすみません。
主なQRコード決済サービスのなかでは、ヤフー+LINE連合、メルカリ(+オリガミ)に加えて、Suicaと提携した楽天(楽天ペイ)が3極を形成。
それにKDDI(auペイ)、NTTドコモ(d払い)などの携帯キャリアのQRコード決済サービスがからみながら、展開していくでしょう。
そのなかで中心となるのは、やはりヤフー+LINE連合だと思います。ヤフーとLINEの月当たりの利用者は1億3,000万人を超え、PayPayの登録者数は2,000万人、LINEPayは3,600万人と合わせて6,000万人近くに達します。
この国内では圧倒的多数のユーザーを力の源泉にして、利用者の生活全般を網羅する「スーパーアプリ」構想を打ち出しているヤフー+LINE連合が他を一歩、あるいは数歩リードしているのは間違いありません。
こうした構図を頭にいれながら、これからのQRコード決済選びを進めていくとうまくいくでしょう。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年2月3日)
※タイトル、見出しはMONEY VOICE編集部による
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