これまでの新型肺炎への政府対応は、本質を外した誤魔化しばかりでした。使える薬が出てきて、臨時休校を行ったいま、この1週間で安倍政権の本気度が試されます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
行き当たりばったりの施策に大混乱
新型コロナウイルスの感染拡大は、国民生活、国民経済に多大な影響を及ぼすに至り、安倍政権が突然イベントの自粛、学校の臨時休校の要請に出たことから、混乱が広がりました。
さすがに与野党からの批判が強まり、安倍総理は29日夕刻、急遽記者会見を行い、PCR検査の拡大、アビガンなど処方薬の検証、利用方針を示しました。
これ自体は一歩前進ですが、これまでの「誤魔化し」が通らなくなり、ドタバタで決めた感が否めません。
本質を外した対策に効果は期待できず
これまでの政府対応は、本質を外した誤魔化し政策でした。菅官房長官は28日、新型コロナウイルスによる経済下振れリスクに対し、予備費を活用した緊急対策をまとめたところだが、今後も躊躇なく適切な措置をとる、との意向を示しました。
日銀からも、同様の姿勢が示されました。
しかし、本質的な問題を避けていては、いくら策を重ねても効果は期待できません。
学校を休校にしても、企業にテレワークを促し、最終的に業務停止を命じても、日本中にまん延し、どこにウイルスが潜んでいるかわからない状況では、国民の不安は解消できません。
お札や通貨から感染するかもしれないとなれば、休業して家にいても、買い物もできなくなります。手洗い、マスク着用でも感染予防には限度があります。
いくら「有事」だといっても、国民の努力にも限度があります。
Next: もはや国民に誤魔化しは利かない。安倍首相のオリンピック願望がネックに?
誤魔化しが利かなくなった
政府の不自然な誤魔化しが、いよいよ利かなくなりました。
新型コロナウイルスに感染したかどうか、検査を受けたくてもなかなか受けられません。37.5度以上の熱が4日以上続いたらといっても、実際にはそれでも保健所が受け付けないケースが多く報じられ、そのうち重篤化してしまいます。これでは助かる命も助かりません。
政府はここ1〜2週間が正念場といい、ここで感染爆発が起きないよう、急遽学校を休校にする措置を打ち出しました。
現場では期末試験ができない、評価ができないなどの混乱が起き、政府の意向に従わない自治体も現れました。シングルマザーや共働き夫婦からは子供を見てくれる人がいないと、悲鳴が上がり、政府への不満が高まりました。彼らは従来から内閣支持率の高い層です。
こうした感染防止策には限界があります。
日本で行っているPCR検査は、1日平均900件余りと、政府がキャパシティと言っていた3,600件よりはるかに少なくなっています。検査能力が韓国の20分の1というのは、医療先進国日本ではありえないことです。
ここにも誤魔化しがあり、これには検査を受けさせられない事情があったようです。それが東京オリンピックです。
オリンピック願望がネックに
すでにスポーツ競技やコンサートなど、不特定多数が集まるイベントには政府が自粛要請をし、実際にこれらの中止、延期などが次々と打ち出されています。プロ野球の開幕も危ぶまれています。
当然、この夏のオリンピックについても、IOC関係者も含めて、開催が難しいとの声が上がるようになりました。
その中で、安倍総理だけは何が何でも開催との姿勢です。
従って、いまここで日本でも感染者が爆発的に増えることは、オリンピック中止につながりかねず、何としても感染者数が増えない状況を作る必要がありました。
それがための学校休業指令であり、PCR検査の限定的な扱いでした。
識者のあいだからこうしたやり方に批判が上がり、政府もそうした声を無視できなくなりました。
Next: 感染者がいきなり2桁増える?本当に必要な2つの対策
経済対策で必要なのは不安解消策
これらの誤魔化し策は、いくらやっても効果がなく、国民の不満を高めるだけです。
本質的な対策は、新型コロナウイルスの感染を抑えたり、ウイルスを破壊したりする薬を広く提供し、そのためには感染者をいち早く認識するために、PCR検査を国の管理にせず、民間施設にも任せ、保険適用とすることです。
政府もこうした声にようやく重い腰を上げました。
まず処方薬はあるようです。当初、免疫ができないウイルスにはワクチンができないと、悲観視されましたが、ここに光明がさしています。灯台下暗しで、富士フイルムの「アビガン」がこのコロナウイルスに効果があるとされ、その名が出たとたんに当社の株が大きく上昇しました。
これ以外にも2つの薬の効果がチェックされています。
従来、製薬事業の世界は欧米の権力に牛耳られている面が強く、なかなか個々の国の事情で自由に開発、認可できない面があると言われます。現に日本でも、これらの薬がありながら、表立って使えなかったといいます。
しかし、このままでは政権が持たないと判断したか、総理は29日の記者会見でこれらの薬を使う方向で動いていると述べました。覚悟を決めたようです。
本当に必要な2つの対策
その場合、医療の常識として、高熱が続いた重篤者限定で使うのでは、効果が限られます。症状が軽いうちに処方すれば、早期に治癒が可能と言います。インフルエンザの薬と同じです。
これを初期の患者にも広く利用させるには、2つの対策が必要です。
1つは、政府が早くこの利用を認可し、業者に増産を促すことです。
もう1つは、早期に新型コロナウイルスに感染した人をみつけることで、そのためには今のPCR検査体制では不可能です。専門家によれば、この検査は民間の検査機関でも十分対応可能と言います。そうであれば、検査体制を民間に開放し、なおかつこれを保険適用とすることです。
この声がようやく政府に届いたようで、総理会見でも試薬を民間組織に配布し、保険適用で検査できるようにする、との言を得ました。
政府がこれに手をこまねいていたのは、この検査体制をとると、感染者がいきなり2桁くらい増加し、実は日本でも感染が爆発的に拡大していた、ということになりかねないからです。
それで東京でのオリンピック開催ができなくなることを政府は恐れていました。しかし、急がば回れと言います。隠していても、いずれ「感染爆発」は隠しきれなくなり、それがオリンピックの間際になれば、より混乱が大きくなります。
Next: どうせ感染者激増なら、五輪直前よりも今がいい?試される政府の本気度
試される政府の本気度
そうであれば、早い時期に感染者を識別し、早期に「アビガン」を投与して皆治癒してしまえば、オリンピックに間に合うかもしれません。
IOCにしても、お金がかかっているので、簡単には延期も中止もしたくないはずです。日本にはぎりぎりまで「医療対応」によってこの不安危機を克服するチャンスがあります。
しかし、総理会見もドタバタの中で急遽開かれた感が否めません。衆議院を通過した20年度予算には新型ウイルス対策費は1円も計上されていません。そしてウイルス検査の基準として、37.5度以上の熱が4日以上続いた場合、などの基準がいまだに利用されています。
不安な人には身近な医療機関で検査を受けられる体制を急ぐべきです。この1週間で政府の本気度が試されます。
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- 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)
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『マンさんの経済あらかると』(2020年3月2日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。