新型コロナの発生源とされる中国では、武漢のロックダウン解除を行うなど今にも「終息宣言」を出す勢いだ。しかし、中国は2つの危機で経済的に沈みかねない。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2020年4月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
中国、建国以来の危機へ
中国は、新型コロナウイルスで1949年の建国以来の危機に直面している。
年に1回開催する全人代(国会)は当初予定の3月開催が延期されたままだ。法的には、全人代が最終承認機関である。これが開催不能状態では、今年の経済政策も決められない状態である。
国内の混乱だけでない。コロナが世界中に蔓延させた結果、感染症発生源の中国の責任が問われている。
これに対して、中国外交部は各国の大使館に命じて、積極的なプロパガンダを行なわせ、「中国自慢」と「欧州批判」という、あってはならない逆立ち現象を見せている。これが、各国を刺激している。
コロナ終息後は、中国に莫大な損害賠償を行なうと予告させるほどの怒りを巻き起こしているのだ。
世界から見ると常識外れ
東洋的な発想法において、こういう中国式の傲慢な対応は御法度である。自らの責任を棚上げして、発生源の自国コロナが収まったと思い、これ見よがしに他国へ自慢することはあり得ない。
中国共産党が、この東洋的発想法と違ったビヘイビアを見せているのは、中国独自の行動パターンがあるのだ。「陰徳」という慎ましやかな行動を取らず、派手に見せびらかす文化である。これは、エスキモーにも見られる。他部族を援助する際、そっと品物を届けるのでなく、「売名」的に派手に行なうのだ。
中国人が、結婚式と葬式という人生の「二大イベント」を他人に見せびらかすのは有名である。結婚写真を街頭に出て来て、他人の前で派手に撮る。葬儀では、「泣き屋」を雇い、故人の人柄と財力を吹聴する、という趣向である。日本人からみればグロテスクに映る。中国の常識は、これだけ世界の常識と異なっているのだ。
今回のコロナ禍は、こういう中国の常識外れが、世界で糾弾される機会となろう。この問題は、後で取り上げる。
悲観論に包まれる世界経済
中国は、諸外国から非難されるだけならまだしも、内外で経済的にも大きな危機に直面するだろう。IMF(国際通貨基金)は、コロナ禍がもたらす不況は、1929年の世界恐慌並みと表現している。そのIMFは、今年の世界経済成長率をマイナス3.0%と予測した。そして、この4~6月期が最も暗く、その後は静かな回復過程を暫定的予測としている。
しかし、7~9月以降に緩やかな回復コースは、余りにも楽観的過ぎると否定的な見解が大勢である。
米国のエコノミストは、米経済が2022年から「水面」に顔を出す程度の緩やか回復説に立っている。中国経済の1~3月期GDPは、前年比マイナス6.8%成長であった。4~6月期の急回復は望めまい。もはや、誰もこれに興味も示さない程、悲観的な見方になっている。要するに、マイナス成長幅が幾分は縮まるぐらいの見方だ。
Next: 中国も、米国並みに経済活動が緩やかな回復ペースで進むならば大ダメージ――
中国の抱える2つの難点
中国も、米国並みに経済活動が緩やかな回復ペースで進むとなれば、中国固有の事情によって、中国経済が大きなダメージを受けることは必至である。
具体的には、次の2点である。
1)不動産バブルに伴う巨額債務が、国内経済に与える重圧である。習近平氏は政権について以来、意識的に不動産価格を押し上げる政策を取ってきた。不動産バブルの慢性化を図り、これをテコに家電製品や乗用車の販売を引上げる政策を取ったのだ。この点では、胡錦濤政権の不動産バブル退治を基本とする抑制型政策とは、180度も異なる異端の政策を推進した。
習近平氏は、土地国有化を逆手に取って、「土地本位制」で中国のGDPを押し上げたのだ。世界の歴史において、土地値上りを「価値標準」にした国はない。英国が、イングランド銀行を中央銀行に昇格させる際、通貨発行の基準を何にするか議論した。その際、土地が候補になったが退けられ、商業手形が通貨発行の裏付けになった経緯がある。これが、インフレを抑制するからだ。
中国は、土地国有化を悪用したバブルによって通貨発行を支える、異常な行動に出たのである。地方財政は、土地売却益(土地利用権売却益)が全体の4割程度を占めるという、「土地本位制」に依存した。中央政府は、表面上の財政赤字を圧縮し、地方政府に全てのしわ寄せをしてきたのだ。この矛楯が、これから表面化する。土地値上りを「打ち出の小槌」に使い、GDPを無理矢理に押し上げ、過剰債務の山を築いてきた「咎め」が、中国経済を窮地に追い込むであろう。
2)IMFが予告するように、世界経済はこれからマイナス成長に向かう。その際、発展途上国の経済が、大きなダメージを受けることは不可避となった。2008年のリーマンショック以来、世界的な低金利によって債務はうなぎ登りの増加となった。その多くは、発展途上国が借入れたものである。
その貸手の中心が中国である。「一帯一路」は、中国がアジア・アラブ・アフリカの盟主を狙って、積極的に貸付けた結果である。だが、中国は貸付国の条件として、金利などについて秘密にする契約を結んでいる。IMFといえども、その貸付条件(商業銀行並みの高金利)を把握できないという秘密性に包まれている。詳細は、後で取り上げる。
脆弱性直撃のコロナ恐慌
以上の2点において、今後の世界経済が大恐慌以来の落ち込みとなれば、中国経済は耐えきれないことを示唆している。
第1の不動産バブルによる過剰債務は、平成の日本バブルを上回っている点である。
<日本の民間部門債務残高対GDP比率>
1990年:211.20%(生産年齢人口比率ピーク バブル崩壊)
1995年:216.30
2000年:190.60
2005年:164.70
2010年:163.90
2015年:153.80
2016年:156.50
2017年:157.40
2018年:160.70
<中国の民間部門債務残高対GDP比率>
2010年:149.50%(生産年齢人口比率ピーク)
2011年:149.20
2012年:162.00
2013年:175.70
2014年:187.90
2015年:197.60
2016年:205.40
2017年:207.30
2018年:204.80
(資料:BIS)
上記の、日中における民間部門債務残高対GDP比率を見ると、2018の中国は204.80%である。日本の1990年211.20%を若干、下回っている。しかし、ここから中国の難儀が始まることに注意しなければならない。
日本は、バブル崩壊後の1995年に債務残高比率が216.30%へ増えている。これは、GDPの急減速で企業の売上が落込み、債務返済ができず銀行から「追い貸し」を受け、資金繰りをつけて倒産を免れた、生々しい苦闘の跡である。
日本の経験が、これから中国に起こる点に注意することだ。現に、この3月の借入は記録的な増加になった。コロナ禍で経済活動ができず「繋ぎ融資」を受けた証明である。設備投資などの前向き資金ではない。企業が、売上ゼロによる生き延びのために必要不可欠な資金である。日本企業が、1995年に債務残高比率216%へ膨らんだことと同じ事情である。
今年3月の新規人民元建て融資は、2兆8500億元(4052億ドル)。2月より3.15倍も膨らんだ。前年比でも1.68倍である。3月末時点の人民元建て融資残高は前年比12.7%増である。これらの数字は、すべて「延命」融資であって、何らの付加価値も生んでいない事実に留意すべきだ。中国は、自ら新型コロナウイルスを拡散した結果、自国企業の延命でこれだけ多額の資金供給をしたのである。高額な「賠償」と言うほかない。
この増えた債務残高は、中国企業が返済しなければならない「ツケ」である。日本の平成バブル崩壊以上の経済減速に伴う負担が、これからの中国企業にかかっていくのだ。
この現実をしかと見るべきだろう。中国企業が、持ち堪えられるはずがない。倒産ラッシュが、すでに始まっているからだ。
Next: 第2の発展途上国債務問題は、中国政府に新たな負担としてのしかかってくる――
途上国危機と表裏一体へ
第2の発展途上国債務問題は、中国政府に新たな負担としてのしかかってくる。
新興国は、中国から推定2,000億ドル(約21兆6,000億円)を借り入れているもようである。そして、過去10年間にリスクの高い新興国市場に約2兆ドルを投じてきたと『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月31日付)が報じている。発展途上国が金融難に陥れば、最大の被害国は中国になる。
当該発展途上国の資金繰り難は、先ずIMFへ緊急融資を申し入れている。その数は、すでに100ヶ国をゆうに上回っている。IMFが、緊急融資せざるを得なくなれば、中国との「密約」は開封されるはず。国際機関よりも高利で貸し付けている分は、金利減免を要求されるであろう。
欧米のエコノミストは、現在の新興国の金融状況が1980年代に発生した南米の債務危機になぞらえている。世界経済がリセッション(景気後退)に陥れば、問題はさらに深刻化すると警鐘を鳴らしている。上記のように、新興国は中国から推定2,000億ドルの融資と、2兆ドルの対内直接投資を受けている。
これら巨額な投融資は、無傷であり得ないだろう。まさに、「どうする習近平!」という緊急局面にぶつかっているのだ。
「一帯一路」に参加する国・地域は、70程度に上ると見られている。前記のように、IMFへ緊急融資を依頼した国が100ヶ国以上とすれば、「一帯一路」関連国全体が緊急融資依頼国と見て間違いないだろう。
こうなると、新興国の金融危機は中国の金融危機に直結するはずだ。世界経済危機は、中国経済危機という構図ができあがるであろう。
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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。