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年金75歳受給は471万円の損?月額増加分を税金で回収する「国に頼らず働け」プラン=原彰宏

年金受給開始年齢を75歳まで繰り下げ可能にする年金改革法案が審議入りとなりました。繰り下げで月額8割増しになるとしていますが、実は税金で損をするとの指摘があります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年4月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

年金の繰り下げ受給は471万円も損をする?

日本共産党の宮本徹議員はツイッターで以下のように呟いています。

この内容を整理しますと、

65歳~85歳(15万円 × 20年)- 税金42万円 = 3,558万円
75歳~85歳(27.6万円 × 10年)- 税金225万円 = 3,087万円

75歳に受給開始した方が、見た目の年金額は高くなりますが、それ以上に税金を多く取られるので、総額で471万円も損をする仕組みだと指摘しています。

公的年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにする年金改革法案が14日の衆院本会議で審議入りしたことを受けてのツイートのようです。

審議入りした「年金制度改訂法案」の中身

今回の年金制度改訂法案は、

・確定拠出年金
・確定給付年金
・公的年金

の3項目に関して改定されることになっています。

宮本議員が指摘したのは「公的年金制度」に関する改定についてになります。

「確定拠出年金」に関する改定は、中小事業主掛金納付制度 (iDeCo+) と簡易企業型年金 (簡易型DC) について、実施可能な企業の範囲を「従業員数100人以下」から「従業員数300人以下」に拡大します。

この規定は、公布の日から6ヶ月以内に施行されます。

確定拠出年金も、老齢給付金の受給開始時期の上限年齢を70歳から75歳に引き上げられます(2022年4月20日施行)。

確定拠出年金では加入条件を緩和し、今の条件を廃止して、加入者を拡大します。具体的には、企業型年金の加入要件について、65歳未満の年齢要件及び60歳以上の同一企業要件を撤廃し、厚生年金被保険者であれば加入可能、つまり、加入できる年齢は最長70歳未満となります。

個人型年金 (iDeCo) の加入要件について、60歳未満の年齢要件を撤廃し、国民年金の被保険者であれば加入可能とします。第2号被保険者が加入できる年齢は65歳未満となります。

60歳以降も働いて、自分の年金は自分で準備しなさいということですね。

そして「公的年金」に関する改定では、話題となっている「繰り下げ受給の上限年齢を70歳から75歳に引き上げる」とします。

年金が支給されている間に給与支給があれば、その給与額に応じて年金支給額が調整される「在職老齢年金」に関して、65歳未満の在職老齢年金について、支給停止の基準額を28万円から47万円 (65歳以上と同額) に引き上げます。

65歳以上の在職者の老齢厚生年金について、1年ごと (毎年10月) に加入期間を年金額に反映させます。

つまり、働いて給料をもらっても、年金額が減る範囲を引き上げたので、どんどん働いてくださいというメッセージになります。

Next: 「働きたい」高齢者への配慮ではなく、「年金に頼らず働け」ということ――



年金に頼らず働け?

また、被用者保険の適用範囲を広げます。

週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者について、従業員数500人以下の企業においても厚生年金保険を含む被用者保険の適用対象とします。

短時間労働者への被用者保険の適用要件のうち、勤務期間要件について「1年以上」を「2月超」に改めます。

つまり、年金給付開始年齢はなるべく遅くして、年金保険料は広く徴収するというための改正だということです。

これを政府側の言葉では、「改革案は長く働きたい高齢者が増えているのを踏まえ、受給開始年齢を75歳まで延ばせるようにする」と表現しています。

「働きたい」高齢者への配慮ではなく、「年金に頼らず働け」ということでしょう。

年金給付開始年齢を遅らせるほど、毎月の受給額は増える……。

安倍首相は「働き方の変化を中心に据えて改革し、年金制度の安定性を高める」と説明しています。

高齢者らが多いパート労働者などが厚生年金に加入できるよう、加入要件である企業の従業員数の基準を緩める。「501人以上」から段階的に下げ「51人以上」にすることで、新たに65万人が加入する見通しとなります。

安倍首相は、「社会保障制度の支え手を増やし全ての生活者の安定につなげる……」としていますが、今の年金制度はもう維持できないことを述べているに過ぎず、

・なるべく年金はもらうな
・保険料は納めろ

ということになっています。

「人生100年」の旗の下、高齢者保障制度に関しては、全て変更し、確定拠出年金制度も、60歳以降も拠出金を払うことができるようにしたわけです。

受給開始の繰り下げは本当にお得なのか?

野党側はこの要件を撤廃する法案を今国会に提出しています。

果たして、安倍総理が言うように、年金支給開始年齢を後ろに遅らせることで、年金支給額は得をするのでしょうか。

冒頭で、日本共産党の宮本議員が、税金額を考慮すれば、85歳まで年金が支給される前提だと、75歳支給開始の方が、65歳支給開始よりも総額は減るということが指摘されました。

今度は「マクロ経済スライド」の観点から見てみましょう。

先ずは「マクロ経済スライド」とはなにか…

「マクロ経済スライド」とは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みと、厚生労働省は説明しています。

つまり、年金制度維持のために保険料を上げずに済むように、給付額を引き上げないようにしようというものです。

そう考えると、少子高齢化が益々進んでいく状況であれば、年金給付額が物価にあわせて上がることは難しくなりますので、安倍首相が言うように、支給開始年齢を遅らせても、必ずしも年金受給額が増えるとは言えないかもしれませんね。

政府は、75歳まで遅らせると月額が84%増えると説明して、多くの人に、年金受給を遅らせて働き続けることを推奨しようとしています。

ただ、厚労省の高橋俊之年金局長は、「マクロ経済スライド」を発動し続ければ、“8割増”しても現在の水準より低くなることを認めています。

Next: マクロ経済スライドのもとでは、将来世代ほど受給開始時点から年金額は減り――



単純にもらえる月額だけで考えないほうが良い

マクロ経済スライドのもとでは、将来世代ほど受給開始時点から年金額は実質減り、基礎年金(国民年金)の所得代替率は今より約3割減ると、前述の宮本共産党議員は指摘しています。

現在70歳まで繰り延べた場合の支給水準と、マクロ経済スライドによる調整終了後に75歳まで繰り延べた場合の水準では、調整終了後75歳まで繰り延べた方が所得代替率は低くなると、厚労省の高橋俊之年金局長は述べています。

生活できる水準の年金をめざして75歳まで働いても、それだけの年金は得られないことになるかもしれない……。

人生100年と言っても、大事なのは「健康寿命」です。

年金支給開始年齢を、単純にもらえる月額だけで考えないほうが良い、もっと総合的に、どう暮らしたいかを考えて選択したほうが良いです。

いくら健康とはいえ、働くことができる年齢は限られます。職種も選べません。

老後資金準備は自助努力で……。

政府にそう突き放されているような感じで、毎月の保険料は自分には還元されないのか、相互扶助の意味はわかるが、誰の・どの世代の人の助けになっているのかがわからなくなってきましたね……。

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らぽーる・マガジン』(2020年4月20日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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